皆さんこんにちは。
エンタです。
9月も後半なのに、日中はまだ普通に暑いですね。
秋雨と台風の季節なので、雨の後の法面はいつも以上にしっかり見て回りましょう。
閑話休題
ニュースで「地すべり」と「がけ崩れ」って言葉、よく聞きますよね。
どっちも「斜面の土が落ちてくる」なので、同じものだと思っている人も多いと思います。
実は若い監督でも、ここがあいまいなまま仕事をしている人は結構います。(もしくは混同)
でもこの2つ、原因も動き方も全く違います。
そして違うからこそ、対策の順番や「やってはいけないこと」も変わってきます。
今回は、指針を基準にできるだけ難しい言葉を使わずに書いてみます。
地すべりと斜面崩壊の違いは「深さ」と「速さ」

まずは言葉の意味から。
地すべりは「土地の一部が地下水等に起因してすべる現象又はこれに伴つて移動する現象」。
ポイントは「地下水」という言葉が入っている部分です。
一方、急傾斜地は「傾斜度が30度以上である土地」と規定されています。
こちらのポイントは「急な斜面」。
- 斜面崩壊(表層崩壊):斜面の比較的浅い部分から土砂が滑り落ちる現象。豪雨などで染み込んだ水がきっかけになり、深さ2m程度以下の浅い崩壊が起きることがある。突発的で予測が難しい
- 地すべり:地下深くのある面を境にして、その上の土のかたまりが徐々に下へ移動する現象。表層崩壊と違って動きは緩慢。崩壊に比べて緩い勾配の斜面が大規模に動き、独特の地すべり地形を作る
イメージで言うと、こんな感じです。
表層崩壊は、ケーキの表面のクリームだけがズルッと落ちるイメージ。
地すべりは、ケーキの土台ごとお皿の上をゆっくり滑っていくイメージ。
この「お皿との境目」にあたるのが、俗に言うすべり面です。
表にするとこうなります。
| 項目 | 斜面崩壊(表層崩壊) | 地すべり |
|---|---|---|
| どこで滑るか | 地面の浅いところ | 地下深くのすべり面 |
| 動く速さ | 速い・突然 | ゆっくり・じわじわ |
| 斜面の勾配 | 急な斜面で多い | 崩壊に比べて緩い斜面でも起きる |
| 主なきっかけ | 大雨で染み込んだ水など | 地下水など |
では、地すべりの場所は現場でどう見分けるのか。
- 斜面の上の方に、馬のひづめのような形(馬蹄形)や四角い形の崖(滑落崖:かつらくがい)があり、その下の中腹は平らで緩い斜面になっている
- くぼ地、陥没した所、亀裂がある
- 池、沼、湿地が並んでいる
- 斜面の一番下は急になっていて、盛り上がりや押し出しが見られる
- 道路や鉄道が曲がっていたり、構造物がずれていたりする
- 千枚田や棚田になっている

山の中なのに、急な崖の下に平らな段々があって、田んぼや池がある。
そういう場所は、昔動いた地すべりの跡かもしれない、ということです。
ただし河岸段丘などを地すべり地形と見間違えることもあるので、気をつけてw
現場の近くでこういう地形を見つけたら、「ここは地すべり地かも?」と一度疑ってみるクセをつけておくといいと思います。
ちなみに、道路土工指針には「崩壊と地すべりの境界は必ずしも明確ではない」と書かれています。
大きな崩壊になると、地すべりとはっきり分けられないこともあるそうです。
地すべりは一般に緩慢な動きのものが多いけれど、中には突発的に移動したり滑落したりするものもあるそうです。
「地すべりは必ずゆっくり」とも言い切れないんです。
なので、現場で「これどっち?」って迷っても大丈夫です。
プロでも迷うし、結局は推論なんですwww(たまに当たる!)
「安全率」を知ると地すべり対策が分かる

地すべり対策を考える時に必ず出てくるのが「安全率」という言葉です。
簡単に言うと、「滑ろうとする力」に対して「踏ん張る力」が何倍あるかという数字です。
綱引きで考えると分かりやすいです。
- 安全率1.0:綱引きがちょうど引き分け。ギリギリの状態
- 安全率1.0より小さい:滑ろうとする側が勝っている。斜面が動いている
- 安全率1.0より大きい:踏ん張る側が勝っている。余裕がある
地すべり防止技術指針の計画安全率の設定では、下記の様に決められています。
- 今の安全率(現況安全率)は、動いている状況に応じて0.95~1.00と仮定
- 対策後に目指す安全率(計画安全率)は1.10~1.20に設定
- 応急対策で当面の安全を確保する場合でも、計画安全率は1.05以上にする
「動いている=もう引き分けか負けている」から計算を始める、ということですね。
なぜ1.1~1.2なのかというと、切土や盛土で安全率が5~10%程度下がっただけで地すべりが活発になった事例があることなどをもとに、これまでの経験から決められてきた経験値と言うこと。
ちなみに道路土工指針では、計画安全率を1.05~1.2の範囲で設定し、通常は1.2を使うことが多いとしています。(主要道路は1.2)
書籍によって少し幅は違いますが、「1.0くらいのところから1.2前後まで上げる」という考え方は同じです。
地すべり防止技術指針の一文ですが、
ここでいう安全率は、対策工事の量を決めるために使うもので、工事後の斜面の安定性を示すものではない。
「計画安全率1.2で設計したから、もう絶対に動かない」という意味ではない、ということですwww
ここ、若い監督さんほど勘違いしやすいので覚えておいて下さい。特に役所ね!!
つまり地すべり対策は、「今1.0くらいの斜面を、1.2まで引き上げるには何をどれだけやればいいか」を計算で決める仕事なんです。
では、普通の切土の法面はどうでしょう。
法面工の設計は、一部の構造物工を除いて経験的な技術が重視されています。(指針に書いてる)
その代表が、土や岩の種類ごとに決められた標準のり面勾配です。
これは「この土ならこの勾配にしておけば、大きな被害はまず避けられる」という基準を、経験値から示したものです。
ざっくり言うと、
- 普通の法面:過去の実績(経験)で勾配や保護工を決めることが多い
- 地すべり:すべり面を調べて、安全率を計算して対策を決める
計算で決める以上、すべり面がどこにあるかが分からないと話が始まりません。
ボーリング調査やすべり面調査、地下水調査などを行って、地すべりの仕組みを把握するよう求めています。
その違いが、「対策の順番」につながります。
地すべり対策は「まず水を抜く」が先

地すべり対策工は、大きく2つに分かれます。
| 区分 | 考え方 | 主な工種 |
|---|---|---|
| 抑制工(よくせいこう) | 水や地形を変えて、地すべりが動く原因そのものを減らす | 水路工、横ボーリング工、集水井工、排水トンネル工、排土工、押え盛土工など |
| 抑止工(よくしこう) | 構造物の力で、地すべりを止める | 杭工、シャフト工、グラウンドアンカー工 |
※道路土工 切土工・斜面安定工指針
例えるなら、抑制工は「病気の原因を取り除く治療」、抑止工は「ギプスで固定する治療」みたいなものです。
そして大事なのが順番です。
地すべり運動が活発に継続している場合には、原則として抑止工を先行せず、抑制工によって運動が低減、停止してから抑止工を導入する。
動きの速い地すべりでは抑止工の施工は不可能で、施工しても壊れることもあるので、いかに抑制するか!?が大事。
抑制工を主体にして、必要に応じて抑止工を組み合わせる事が大前提という事ですね。
ジワリジワリと動きが続いている時は、抑止工は効果が期待できないうえ、施工そのものが危ないこともあるので、抑制工を先にやって動きを抑えてから抑止工を行うと言うことです。
抑止杭工については、1mm/day以上の動きがある(または予想される)場合は、計画した杭を同時に施工しない限り杭が1本ずつバラバラに働いてしまい効果が期待できないので、地すべり活動がおおむね止まったのを確認してから施工する、となっています。
1日1mmって、目で見てもほとんど分からない動きです。(なんなら風で・・・www)
それでも杭打ったらキケンですよねw
道路土工指針検討フローチャート
- ①まず地表水と地下水を抜く(水路工、横ボーリング、集水井など)
- ②それで計画安全率に届かなければ、頭の土を取る(排土工)、足元に土を盛る(押え盛土工)
- ③それでも足りなければ、杭やグラウンドアンカーで止める(抑止工)

地すべり等防止法の定義に「地下水」が入っているのを知っていると思います。(いやいや知らんだろってw)
地すべりの誘因を取り除くことが一般に最も効果的な対策で、多くの地すべりの誘因は豪雨・長雨・融雪などで地下水が増えることにあるので、地表水排除工や地下水排除工は第一に考えるべき工法だとされています。
原因が水なら、まず水を抜く。
これは私が常々ずーーーーと言ってますwとりあえず水でも抜くか!?
これが基本中の基本だという事。
ちなみに斜面崩壊の方は、崩れる場所で崩れないようにする予防工と、崩れてきた土を受け止める防護工(待ち受け対策)に分けて考えることが一般的。
崩壊は一気に来るので「崩れないようにするか、受け止めるか」。
地すべりはゆっくりなので「原因を減らして、足りない分を止める」。
動く速さの違いが、そのまま対策の考え方の違いになっているわけです。
崩れそうだから「緩く切る」が逆効果になることも

ここは若い監督さんにぜひ覚えておいてほしいところです。
普通の法面の感覚だと、「崩れそうなら勾配を緩く切ればいい」って考えますよね。
でも地すべりでは、これが逆効果になることがあります。
地すべりの場所に道路を通す時は、頭の部分(上側)は切る、足元(下側)は盛るのが原則としています。
逆に、頭に土を盛ったり、足元を切ったりすると、大きく安定を損なうので避けなければならない。
綱引きで言うと、
- 頭を切る=滑ろうとする側の人数を減らす
- 足元を盛る=踏ん張る側の人数を増やす
- 足元を切る=踏ん張る側の人を抜いてしまう

実際には地すべり地で道路を早く通れるようにしたい時に、斜面全体を緩く切り直すと、一見安全になったように見えて、実は地すべりの足元の土をなくすことになり、かえって不安定にして再発させることがあります。
崩壊して道路に落ちてきた土砂も同じで、急いで全部どけると、地すべりの足元の「押さえ」を取ってしまい、もっと奥から崩壊するおそれがあります。
一般市民からすれば「早く片付けて通せよ!」という気持ちが、有るでしょうが、実はあれは再発防止の意味があるんです!
取ってしまうと逆に危ない結果を生むこともあるんです。
そして足元に土を盛る押え盛土も万能ではありません。
現状の地すべりの足元の土は乱れて軟らかいことが多く、盛土の重さで地盤が壊れたり、地下水の流れをふさいで逆に地すべりを誘発したりすることがあります。
押え盛土工は排水性の良い土を足元に盛るもので、盛土の裏側の地下水位が上がることを考えて、地下水排除工を併用すること基本ですね。
そしてやはりここでも「まず水」なんです。
頭を切る排土工にも注意点。
排土工を計画する時は、その上の斜面に隠れている地すべりを誘発しないよう事前に十分調べることが必要で、上の斜面に地すべりがある場合はこの工法は避けるべきだとしています。
地滑り山on地滑り山の場合、頭を切ったら、今度はその上の斜面が滑り出した、では困りますからねw
法面の仕事をしていると、つい目の前の法面だけを見て「どう押さえるか」を考えてしまいます。
でも地すべりの現場では、その法面は大きな土のかたまりのほんの一部かもしれません。
「すべり面はどこか」「水はどこから来ているか」「どの工事がどの順番で効果的なのか?」
この3つを意識するだけで、自分が今やっている集水井やアンカーが、全体の中でどんな役目なのかがわかります。
言われた場所に言われた通り施工するだけじゃなくて、「なんでここなんだろう?」と考えながら施工する方が、現場は何倍もおもしろくなります。
若い監督さんこそ、この「なんで?」を大事にしてほしいと思います。
上司が、こんなもんだから、と言うのは知らないと言っているだけですねwww
だったらもっと知っていきましょう!
もっと仕事が、法面が楽しくなりますよ!!
それではまた。



