外国人作業員に法面工事をどう教えるか|職長が押さえたい安全指導と工程説明のコツ

皆さんこんにちは。

エンタです。

法面の現場で当たり前のように叫んでいる「ラクー!」。
あれ、外国人作業員に意味をちゃんと教えた事ありますか?
落石の「落(らく)」なんですが、日本語を勉強した人ほど「楽(らく)」だと思ってもおかしくないんですよね。
危ない時に「楽!」って叫ばれたら、そりゃ混乱しますw

閑話休題

以前、技能実習生向けの施工方法というシリーズを4本書きました。あれは実習生本人が読む前提で、翻訳を付けた作業説明書です。

今回は逆側の話です。教える側の職長・現場監督が、外国人作業員に法面工事をどう伝えるか

冒頭の「ラク」の話もそうですが、外国人作業員に伝わらない原因は、作業員側よりも教える側の「伝えたつもり」にある事が多いと私は思っています。

当然私自身も偉そうに言えるほど出来ていませんが、確認していきます。

「教えたつもり」が一番危ない|まず押さえる教育の決まり

最初に、外国人作業員への安全教育で会社側に何が求められているのかを確認しておきます。

感覚ではなく、実習生の指導等の公的文書にちゃんと書いてあります。

求められているのは「理解できる方法」で教える事

厚生労働省の「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針」には、安全衛生の確保として次の3つが書かれています。

  • 安全衛生教育は、母国語等を用いる、視聴覚教材を用いる等、当該外国人労働者がその内容を理解できる方法により行うこと
  • 労働災害防止のための指示等を理解できるよう、必要な日本語及び基本的な合図等を習得させるよう努めること
  • 労働災害防止に関する標識・掲示等は、図解等の方法を用いる等、理解できる方法により行うよう努めること

ポイントは「教育を実施した」ではなく、「理解できる方法で」と書かれている所です。

日本語で一方的に1時間説明して、最後に「わかりましたか?」「ハイ!」で終わり。

これは実施はしていますが、指針が求めている形にはなっていないという事ですね。

そもそも雇入れ時の安全衛生教育は、労働安全衛生法で国籍に関係なく全員に義務付けられています。

外国人だから特別な教育が増えるのではなく、同じ教育を「伝わる形」でやる必要がある、という事です。

法面のロープ作業は特別教育が前提

のり面ロープの段取り

法面工事で外せないのがロープ高所作業です。

ロープ高所作業を「高さが2メートル以上の箇所であって作業床を設けることが困難なところにおいて、昇降器具を用いて、労働者が当該昇降器具により身体を保持しつつ行う作業」と定義していて、40度未満の斜面における作業は除くとされています。

この40度という数字、法面勾配に置き換えると。

法面勾配 角度(概算) ロープ高所作業の定義
1:0.5 約63.4度 該当(40度以上)
1:0.8 約51.3度 該当(40度以上)
1:1.0 45.0度 該当(40度以上)
1:1.2 約39.8度 定義からは外れる(40度未満)
1:1.5 約33.7度 定義からは外れる(40度未満)

 

ただし、40度未満の斜面で同様の作業を行う場合も、メインロープ・ライフラインの設置など同規則の危険防止措置を講ずることが望ましいとされています。

「1:1.2だから関係ない」ではない、という事です。

また大手ゼネコンの場合でも何でもかんでも安全帯しろと言う会社も存在します。

ゼネコン現場は法律よりもゼネコンの安全基準が上ですから。。。。

ロープ高所作業に就かせる時は、労働安全衛生規則に定める特別教育が必要です。

さらにメインロープとライフラインをそれぞれ異なる支持物に確実に緊結すること、作業指揮者を定めること、その日の作業開始前にメインロープ等を点検することも決められています。

外国人作業員に教える時に大事なのは、この条文を読ませる事ではありません。

「なぜロープが2本なのか」「なぜ支持物を分けるのか」を、実物を触らせながら伝える事です。

1本が切れても、もう1本で止まる。

支持物が1つだと、その支持物が抜けたら2本とも終わる。

海外の感覚ではこう言う事有りませんからね。

ロープ講習

伝え方の基本|やさしい日本語と「止める言葉」の統一

大事な事は伝え方です。

出入国在留管理庁と文化庁が出している在留支援のためのやさしい日本語ガイドラインってあるんですです。

すっごく分かりやすいんですよ!

ハサミの法則|短く、はっきり、最後まで

「話し言葉のポイント」では、話すときの基本として「ハサミの法則」

  • っきり言う
  • いごまで言う
  • じかく言う

ガイドラインでは、一文に言いたい事は1つだけ二重否定を使わない受身形や使役形はできるだけ使わない曖昧な表現を多用しない、といったルールも。

これを現場の言葉に当てはめると、こうなります。

よくある現場の言い方 伝わりやすい言い方の例 理由
そこ、適当にやっといて この線まで、草を取ってください 「適当」は範囲も終わりも分からない
なるはやで頼むわ 10時までに終わらせてください 略語+曖昧な期限
下に入らんように… 下に行かないでください。石が落ちます 最後まで言わないと否定か肯定か分からない
やらないとダメって事はないけど やらなくていいです 二重否定は意味が逆に取られやすい
法尻のほう見といて 斜面の一番下を見てください(法尻) 専門用語は言い換え+用語を併記

最後の行の「法尻(のりじり)」みたいな専門用語は、言い換えて終わりにしないのがコツ。

現場ではどうせ日本人同士が「法尻」「法肩」と言い合っているので、言い換えと本来の用語をセットで覚えてもらわないと、結局通じなくなります。

確認は「わかった?」ではなく、復唱と実演

現場で一番やってしまうのが、説明の最後の「わかった?」です。これはマジでやりがち!

聞かれた側は、まず「ハイ」と答えます。

分からないと言うと怒られると思っている人もいますし、そもそも何が分からないのかが分からない事もあります。

「ハイ」が「分かりました」ではなく「聞こえました」の意味で返ってきている可能性の方が非常に高いw

理解の確認として相手の発話を繰り返す復唱して意図を確認するといった方法が効果的ですよ。

現場でやるなら、次の2段構えが確実です。

  • 復唱させる:「今から何をしますか?言ってください」と、本人の言葉で作業内容を言ってもらう
  • やって見せてもらう:ロープのもやい結び、ロリップの掛け替え、主アンカーピンの打ち込みなどは、1回目は職長の目の前でやってもらう

復唱で言葉の理解を、実演で体の理解を確認します。

時間は掛かりますが、手戻りと事故に比べれば安いかも知れないです。

現場事務所で学ぶ吹付法枠工

「止める言葉」と合図は現場で1つに決める

指針の中に「基本的な合図等を習得させるよう努めること」とあります。

法面で一番大事な合図は、「止まれ」と「落石」が超大事だと思います。

問題は、この2つの言い方が人によってバラバラな事です。「ストップ!」「待て!」「ちょっ!」「おい!」全部同じ意味で使われています。

冒頭の「ラク!」もそうですが、日本人同士なら雰囲気で通じても、外国人作業員には別々の言葉に聞こえます。

なので私のおすすめは、現場ごとに次のように決めておく事です。

  • 止める時の言葉は1つだけに決める(例:「ストップ」)
  • 落石の合図は1つだけに決める(例:「いし!」)。意味と、聞いた時の行動(上を見る・横に逃げる)までセットで教える
  • 声が届かない時の手の合図も決める(例:両手を大きく交差)
  • 新規入場者教育の時に、実際に声を出して全員で練習する

特に上下で声が届きにくい法面では、合図は「知っている」ではなく「体が反応する」レベルまで練習しておく必要があります。

朝礼で学ぶ落石・停止合図

工程は「なぜ」から教える|清掃・ラス張り・法枠・吹付工

私が重要だと思っているのは、手順より先に「この作業は何のためにやるのか」を1行で伝える事。

理由が分かっていると、手順書に書いていない場面でも正しい判断ができます。逆に手順だけ覚えた人は、条件が少し変わると止まってしまいます。

以下、法面保護工の代表的な工程を、「何のため」「一番危ない所」「検査で見られる所」の3点で伝える例です。

工程 何のため(1行で) 一番危ない所 検査・出来形で見られる所
法面清掃 浮いた石や草を取り、後の工程がちゃんと付くようにする 自分の下に人がいる状態での作業 浮石・草木・堆積土の残り
ラス張り 山に連続性を与える。モルタルの付着を良くする ラス網を持って斜面を移動する時の足元 重ね幅、アンカーピンの本数と位置
吹付法枠 格子の枠で法面の表面を押さえる。崩壊を止める。 鉄筋の端部、ホースの暴れ、モルタルの飛散 枠の寸法、鉄筋のかぶり
モルタル・コンクリート吹付 風化防止、流亡防止、防草対策 ノズル付近の跳ね返り、ホースの閉塞 吹付厚さ

法面清掃|「下に入らない」を範囲で伝える

清掃で真っ先に教えるのは「人の下に入らない」です。ただ、それだけ言っても、横に少しずれた位置なら大丈夫だと思っている人がいます。

石は真下にだけ落ちるわけではなく、斜面の凹凸で跳ねて横にも転がります。なので「下に入らない」ではなく、「作業中の人より下の範囲には入らない」「横に並ぶ時は職長が決めた間隔を守る」と、範囲で伝える方が確実です。

そして「なぜ清掃するのか」。

浮いた土や草が残っていると、その上に吹いたモルタルに不純物(有機物)は有害で、山にも馴染みよく付きません。

清掃の手抜きは、何年後かの吹付の剥がれになって返ってくる可能性。ここまで言うと、清掃は「ただの掃除」ではなくなります。

ラス張り完了

ラス張り|数えられる所は「図」で見せる

ラス張りは、重ね幅やアンカーピンの本数など、後で検査で数えられる所がはっきりしている工程です。

こういう「数字で決まっている所」は、言葉で説明するより図に書いて見せる方が早いです。

ラス網の重ねの位置、主アンカーピンと補助アンカーピンの配置を、その現場の設計図書の数字で1枚の図にしておく。

外国人作業員に限らず、日本人の新人にもそのまま使えます。

以前の記事でも書きましたが、数字と図面は国籍を問わず通じる共通言語です。

ここは言葉で頑張るより、図で済ませた方が楽ですw

吹付法枠|完成形を先に見せる

法枠は、作業している最中は鉄筋と型枠しか見えないので、何を作っているのかが一番分かりにくい工程です。

なので最初に、完成した法枠の写真を見せます。「この格子を作っています。この格子が、斜面の表面の土を押さえます」。これだけで、鉄筋を組む意味、枠の寸法を守る意味がつながります。

鉄筋のかぶりのように見えなくなる部分は、「後で見えなくなるから、今しか直せない」という言い方が分かりやすいです。

モルタル・コンクリート吹付|「目標」を目で見える形にする

吹付は、厚さの管理を感覚でやると一番あかんやつです。

厚さを測る検測ピンやスペーサーなどが入っている現場なら、「このスペーサーが隠れるまで吹く」のように、目で見て分かる目標に置き換えて伝えます。

それから、足りないのはもちろんダメですが、厚すぎるのも材料と手間の損だという事も一緒に伝えます。

「多めに吹いておけば安心」と思っている人は国籍に関係なく多いので、ここは最初に言っておいた方がいいですねw

法枠工 完成

教える側の段取り|教材・通訳・育成の仕組み

教える側が準備しておくべき事です。

公的な多言語教材を使う

全部を自社で作る必要はありません。例えば次のような教材があります。

  • 建設業労働災害防止協会(建災防)「外国人建設就労者のための安全衛生教育映像教材」:英語・中国語・ベトナム語・インドネシア語・日本語の5言語で、建設業の安全に関する基礎的な項目と災害事例が公開。
  • 中央労働災害防止協会(中災防)「外国語安全衛生テキスト」:ネパール語やタガログ語を含む多言語の教材が案内されていて、無料のものと購入が必要なものがあります。

うちも一通り買って渡してはいますが、取りあえず皆で読み合わせるとか大事ですね。

ただ、公的教材は建設業全般の内容なので、法面特有のロープ作業や落石の話は薄くなりがちです。

共通の基礎は公的教材、法面特有の部分は自社の写真と図、という分担が現実的ですかね。

自社の分は、以前書いたラス張り工モルタル吹付工・コンクリート吹付工の翻訳付き記事を、スマホで見せる教材として使ってもらっても構いません。

先輩に通訳を頼む時の落とし穴

現場でよくあるのが、日本語の上手な先輩実習生に通訳を頼むパターンです。これは本当に助かるのですが、1つ落とし穴があります。

先輩の理解が間違っていると、間違ったまま全員に伝わる、という事ですwww

なので通訳を頼む時は、先に先輩に復唱してもらって、職長が中身を確認してから新人に伝えてもらう。

この一手間で、伝言ゲームのミスは防ぎやすくなります。(嘘言ってんじゃね!!ってなりますw)

先輩が1か所勘違いしていたら、アンカーピンの打ち込み位置を全員が同じように間違えて覚える、なんて事も起こり得ますからねw

外国人リーダー

2027年の育成就労制度で「教える仕組み」が会社の力になる

技能実習制度に代わる育成就労制度は、令和7年10月1日の官報に掲載された政令(令和7年政令第340号)で、令和9年(2027年)4月1日から施行されます。

制度の目的は、人手不足分野における人材の育成・確保とされています。

制度の中身についてはこちらの記事で詳しく書いています。

「育成」という言葉が制度の名前に入った以上、教え方の仕組みを持っている会社かどうかは、これからもっと差になると思います。

職長の頭の中にしかない教え方は、その職長が休んだら終わりです。

今日書いた合図の統一、図と写真、復唱と実演のチェックを、1枚のシートにして現場ごとに回せるようにしておくとかの工夫が必要ですね

外国人と歩む現場

外国人作業員の事故やミスの話になると、「言葉が通じないから」で片付けられがちです。

でも実際は、日本人の新人に教える時も同じ所でつまずいているんですよね。

曖昧な指示、バラバラな合図、「わかった?」だけの確認。

外国人作業員に伝わる教え方は、結局、誰にでも伝わる教え方なんだと思います。

偉そうに書きましたが、私も未だに「適当にやっといて」が口から出ますww

まずは自分の口癖から直していきます。

 

それではまた。

口伝Pro 法面清掃工前編のCM動画公開|情報発信

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