
工事前・後の全体写真を数枚撮影し、エビデンスを手元に残しておくこと。
一見当たり前のことのように思えますが、もしエビデンスがなければ、後々お客様とのトラブルを引き起こし、深刻な揉めごとへと発展しかねません。
今回は、私自身が身をもってエビデンスの大切さを痛感したときの体験談をお話しさせていただきます。
ある日、突然かかってきた一本の電話
私が設計を担当していたある物件の工事期間中のことです。お客様から突然、一本の電話がかかってきました。
「工事対象外の配線が外れているんだけど、今すぐ見に来てくれないか?」
本来、工事期間中のやりとりは施工部門の担当者が窓口となります。
しかし、お客様にお聞きしたところ、施工担当者とは連絡先を交換していなかったそうで、連絡先を知っていた設計担当の私にご連絡をくださったとのことでした。
すぐに施工担当者へ状況を伝えましたが、あいにく別の物件の対応中で「今すぐには動けない」という状況でした。そこで急遽、施工担当の代わりに設計部門の私が現地へ駆けつけることになりました。
現場で突き付けられた状況
現場に到着すると、お客様に電気室へ案内され、盤の扉を開けていただきました。
「ここの配線は工事対象外のはずなんだけど、宙ぶらりんになっているでしょ」
お客様が指差す先を見ると、確かに一本の配線が宙に浮いています。
「本当は、この線はここに繋がっているはずなんだよね」と、続けて電力量計を指差しながら説明してくださいました。
しかし、お客様が指差した電力量計は、今回の工事とは全く関係のない場所でした。工事範囲外であるにもかかわらず、なぜこのような事態が起きてしまったのでしょうか。
その日、私は実際に工事が行われていた現場に立ち会っておらず、「配線が外れている」という目の前の状況しか把握できませんでした。そのため、まずは状況を確認することをお約束し、施工担当者へ報告のうえ改めて説明に伺う旨をお伝えして、大急ぎで事務所へ戻りました。
「身に覚えがありません」という返答と、手元にないエビデンス
事務所へ戻ると施工担当者も帰社していたため、すぐに現場で起きていた状況を説明しました。
しかし、担当者からは「身に覚えがない」という返答が返ってくるばかりで、どうしても原因を特定することができませんでした。
ここで最大の障壁となったのが、「手元にエビデンスがない」という事実です。工事前・工事後の盤内全体写真を撮影していなかったのです。
もし工事前後の写真を数枚でも残していれば、元から外れていたのか、今回の工事で動いてしまったのかを正確に把握できていたはずです。しかし、客観的な証拠が何ひとつなかったため、当社にとって極めて不利な状況に陥ってしまいました。
結局、工事範囲外の配線が外れた原因を証明することができず、当社にて無償で修繕対応を行うこととなりました。
なぜエビデンスを残していなかったのか?
今回の件は、工事前後の証拠が残っていなかったことが原因特定を阻む最大の要因でした。
では、なぜ当時エビデンスを残していなかったのでしょうか。
当時の社内では何十回、何百回と工事を重ねてきており、これまで同様のミスが発生したことはありませんでした。「ミスを絶対にしない」と過信していたわけではありませんが、どこかで「自分たちに限ってそんなことは起こらないだろう」という他人事のような感覚があり、想定すらしていなかったのだと思います。
その結果、エビデンスを残すという意識そのものが抜け落ちていたのです。
トラブルを未然に防ぐために
この苦い経験を通して、私はエビデンスの重要性を改めて強く実感しました。
この失敗を受けた再発防止策として、現在の弊社では、電気設備工事の盤内作業において「工事前・工事後に盤内の全体写真を必ず数枚撮影すること」をルール化しています。工事前後の写真を見比べ、工事対象外の箇所に変化がないかをしっかりと確認する運用へ変更しました。
このようにあらかじめエビデンスを残しておくことは、後々のお客様とのトラブルを未然に防ぐための確実な防壁となります。
この記事をお読みになっている皆様の現場では、工事前後のエビデンスをしっかりと残せていますでしょうか。



