皆さんこんにちは。
エンタです。
最近はYouTubeでもモルタル吹付の動画をよく見かけるようになりました。
情報が増えるのはいいことですが、その分、間違った知識も一緒に広まってしまうことがあります。
以前、一般の民間工事会社さんから「モルタル吹付で崩れないんですよね」と聞かれたことがありました。
また、一般の方からもけっこうそんな事を言われます。
それは半分正解で半分不正解、という話を今回はじっくり書いてみようと思います。
閑話休題
今回は、個人宅や民間工事でモルタル吹付工を検討している方向けに、
施工の流れから配合、吹付厚の目安、石積への対応まで、現場の人間として一気通貫で書いていきます。
専門的な内容も含みますが、できるだけ普段工事に関わらない方にも伝わるように書いていきます。
モルタル吹付工とは?基本の施工手順

上の写真のような急な法面(岩塊や岩盤等)などに、モルタルを吹き付けて表面を保護する工事がモルタル吹付工です。
法面の岩盤が風化して崩れるのを防ぐための表面保護工が本来の目的です。
施工の順序は次の通りです。
法面清掃工(伐採なども含む)からラス張り工、そしてモルタル吹付工という流れで進みます。
法面清掃工では、法面上の浮石や草木などの有機物を取り除きます。
斜面の上に浮いている石は、施工中に落石しないよう対策をしてから作業に入ります。
浮石が大きい場合は、小割りして撤去するか、しっかり固定して動かないようにしてから吹付けます。
公共工事では、本工事前に危険を取り除くための仮設モルタル吹付工という工程がありますが、これは本設吹付とは別物です。
仮設吹付ではラス張り工を行わず、特殊な繊維(ファイバー)を混入して施工することがあります。
このファイバーはラスの代わりに連続性を保つ役割を果たします。
有機物を除去する理由は、モルタルの中に混ざったまま放置すると、そのうち腐って空洞ができてしまうためです。
たまに「木を伐根してほしい」という依頼をいただきますが、あまりおすすめしません。
伐根すると大きな穴が開き、その分だけ地盤が緩んでしまうからです。
あまりにも大きな木の根は、無理に抜かない方がいい場合が多いです。
公共工事では、山の形状に合わせて根を切り、そのまま上からモルタルをかぶせてしまうことがほとんどです。
ラス張り工とスペーサーで厚みと連続性を確保する

YouTubeなどで「ラス張り工は強度を増すため」と説明されているのを見かけますが、これは正確ではありません。
ラス網はあくまでもモルタルの連続性を持たせるためのものです。
強度を持たせるという役割は基本的にありません。
モルタル吹付の際の垂れや部分的な剥離を防ぎ、地山とモルタルの馴染みを良くする効果があります。
もし吹付に強度を持たせたい場合は、鉄筋を組むことである程度強度が増しますが、どのくらい強くなるかを正確に計算することはできません。
ある程度の鉄筋ピッチとサイズで組めば、簡易的な法枠に近い考え方として扱うこともできます。
私の経験上では20㎝ピッチがオススメです。
古い盛土の上に住宅が建っていて、石積に不安があるお宅では、石積を一体化させて受圧構造物として捉え、鉄筋挿入工で全体の崩壊を防ぐという設計にすることがあります。

民間工事だからといって、設計を省略しているわけではありません。
公共工事にはできない柔軟な設計ができるのは、民間工事のやりやすいところだと感じています。
ラス張り工は基本的に必要な工程ですが、山の起伏が激しい場合や吹付面が九十度近く立っている場合は、ファイバー繊維を使うこともあります。
繊維を入れることで、ラス網と同等かそれ以上の効果を得られることがありますが、
繊維は比較的高価なのでラス張り工がなくなったとしても、費用としてはそれなりに高くなる傾向があります。
ラス張りの際は、できるだけスペーサーを入れておくことをおすすめします。
PCスペーサーというモルタル吹付専用のスペーサーを使うと、吹付厚を担保できるという大事な効果があります。

スペーサーを設置した後に吹付を行い、吹付でスペーサーが見えなくなった時点で所定の厚みに達したという目安になります。
ラス金網より強度のある製品もあり、ひび割れに強くなるという特長があります。
こうした細かい工夫を積み重ねて品質や出来形を担保しているのが公共工事の現場です。
民間工事のみを専門に施工している業者はあまり聞いたことがありませんが、民間工事であっても、できれば公共工事の実績がある業者に依頼することをおすすめします。
管理ができて設計もできる会社であれば、なお安心です。
モルタル吹付・コンクリート吹付・繊維吹付の違いと配合

吹付工には、いくつかの種類があります。
ひとつ目は通常のモルタル吹付工で、1:4モルタルという配合を使います。
セメント1に対して砂が4という意味で、示方配合ではセメント420Kg、砂1,680kgが目安とされています。
水セメント比は45%から55%の範囲です。
これ以外の配合は、モルタル吹付工であっても公共工事では基本的に認められません。
特殊工種として例外的な配合が認められるケースもあります。(高配合の1:3位までなら吹付として行えます)
吹付厚については、県道であれば7cm以上が本設とされており、それ以下の厚さは仮設という考え方をしています。
実際にはほとんどの現場で10cm前後になっている印象です。
国道の場合は15㎝が本設とされており、国道ではコンクリート吹付工が主体になることが多いです。
寒冷地などでは、厚みの考え方がさらに変わってきます。

ふたつ目はコンクリート吹付工で、モルタルの配合に砕石が加わります。
セメント1、砂4、砕石1という配合で、水セメント比は同じく45%から55%です。
モルタルとの違いは、強度や摩擦への強さがモルタルより優れている点です。
砕石が入る分だけ単価が下がる傾向もあります。
設計通りの配合で吹ければ、セメントの使用量が減り、砕石の分だけ吹付ける面積を広げやすくなるという考え方です。
国土交通省が本設吹付をコンクリートとしている背景には、強度とコストのバランスがあると考えられます。
ただし目に見えてはっきりわかるほどの差があるかというと、そこまでではないというのが実際の現場で、コンクリート意味ないのでだいたいモルタルに変更する傾向です。
コンクリート吹付には、吹付の際に砕石が跳ね返って飛んでしまうという弱点があります。
配合通りに砕石を入れても、実際には半分以上が法面の下に転がっているということも珍しくありません。
うまくモルタルに包まれた状態で吹付けられればいいのですが、砕石は単体で排出されやすい性質があります。
体積や比重が違う以上、ある程度は仕方のないことだとも思うとやはりコンクリートは吹付とは相性が悪いですね。
三つ目は上記で書いた様に、繊維モルタル吹付・繊維コンクリート吹付で、ラス張りを行わずにファイバー繊維を混入する吹付です。
ファイバーを入れることでひび割れが生じにくくなり、凍結にもある程度の抵抗力があるとされています。(実際は分からない)
ラス金網よりもいろいろな方向に繊維が向かうため、モルタルの結びつきが強くなる傾向があります。
これ以外の吹付は各メーカーが特許を持つ特殊な工法になるため、一般的なものではありません。
個人宅・民間工事で「土砂部への吹付」が危険な理由

YouTubeでは「土の上にモルタル吹付を行うと土の流出が止まり、雑草除去の手間もなくなる」と説明されていることがあります。
まず前提として、公共工事では土の上に直接モルタル吹付を行うのはセオリーではありません。
最近は除草作業の手間を減らすために、土砂部へ部分的に吹付を行うことはありますが、あくまで部分的な対応です。
モルタル吹付やコンクリート吹付の本来の目的は、岩盤の風化を防ぐための表面保護工です。
とはいえ、防草対策としてモルタル吹付を使うこと自体は十分に効果があると感じています。
問題になるのは厚みです。
草が生い茂り、低木程度の立木があった土砂法面で、法面清掃の後にモルタル吹付を行う場合を考えてみます。
民間の土砂部であっても、吹付厚は7㎝以上をおすすめします。
できれば10㎝確保したいところです。
10㎝の厚みがあっても、数年経つとこのような状態になってしまうことがあります。

もともと岩盤だった法面が経年劣化で土砂化し、そこに草木が生えてくることがあります。
経年劣化でクラックが入り、そこに周辺の種子が入り込んで根付いてしまうケースも考えられます。
土砂に吹付を行うと、経年劣化でこうした状態になり得るということです。
特に勾配の緩い斜面では、この傾向が出やすいと感じています。
植物の生命力は想像以上に強いものです。
もうひとつ、土砂の流出が抑えられるという説明もよく見かけます。
それ自体は確かなのですが、吹付時に設置する水抜きパイプに吸出し防止材が付いているかどうかが重要なポイントです。
もし付いていない場合、降雨後に内部の土砂が流出し、モルタル吹付の内部が空洞化してしまうことがあります。

見た目ではわかりにくい分、こうした空洞化はかえって危険な状態だといえます。
公共工事で土砂部に施工する際は、吸出し防止材を必ず設置します。
これは降雨時に内部の土砂が流されないようにしつつ、水だけを排出するための工夫です。
ご自宅の土砂部に施工されたモルタル吹付があれば、この吸出し防止材が入っているか確認してみるといいと思います。
モルタル面をハンマーで軽く叩いてみて、軽い音がする部分は、モルタルが浮いている可能性があります。

浮いているということは、内部が空洞化しているサインだと考えられます。
現場条件別|個人宅で吹付を検討する際の目安仕様

一般の住宅でモルタル吹付を検討する現場条件は、だいたい次のようなパターンに分かれます。
ひとつ目は、雑草が多く毎年のメンテナンスにコストがかかっているケースです。
このケースでは、法面清掃をしっかり行った上で、吹付厚7㎝以上をおすすめします。
勾配が緩い場合も基本の考え方は同じで、水抜きパイプにはできるだけ吸出し防止材を設置します。
管理のために、階段状に歩ける部分を作っておくのもおすすめです。
法面は本来、素人の方が気軽に登れる場所ではありません。
法面の変状やクラックからの草の除去は大事な管理項目になるので、モルタルで階段を作ってもらうという考え方です。
ふたつ目は、雨のたびに土砂が流出する、または家の基礎が見えてきているケースです。
このケースでは、吹付厚10㎝以上を目安にし、水抜きパイプには吸出し防止材を設置します。
山(法面)が立っている場合もあるため、厚みは10㎝を基準に考えます。
崩壊の可能性がある場所では、D10からD16の鉄筋で格子組をすることをおすすめします。
鉄筋径が細い場合は、格子を200㎜角や300㎜角にすることが多いです。
D16を使う場合は、鉄筋のかぶりがぎりぎりになりやすいため、吹付厚を最低でも10㎝を確保したいところです。
基礎の下部が見えている場合は、その周辺をしっかり取り巻き、降雨時に雨水が入り込む隙間をできる限り防ぎます。
雨水の流速を抑えるために、段々に吹き付けたり、網を取り付けて対応することもあります。

3つ目は、石積が崩れてきている、または山がふくらんできている(ハラミ出し)ケースです。
石積そのものへの対策を行うのか、ハラミ出しの根本原因に対策を行うのかを、まず確認する必要があります。
吹付厚は10㎝以上を基本に、崩壊対策として鉄筋挿入工や水抜きボーリングを組み合わせることが多くなります。
モルタル吹付と鉄筋挿入工を組み合わせる場合は、鉄筋格子組を行います。
受圧板を設置するかどうかは設計次第です。
いずれのケースでも、吸出し防止材は必須と考えてください。
土砂部に施工する場合は、法面全体にマットを張ってしっかり固定してから吹付ける方法もあります。
全体的に土砂が動かないようにできれば、水抜きからの流出も抑えられます。
岩盤部で湧水があるところでもマットを使うことがあるので、考え方としてはそれほど特殊ではありません。
その代わり、厚みの確保が大事になります。
モルタル吹付工は本来、岩着(がんちゃく)することが基本の考え方です。
土砂部への施工は、本来の使い方から外れた応用的な使い方だといえます。
とはいえ、人手不足や管理の手間を考えると、防草対策として使わざるを得ない場面が増えているのも事実です。
いい加減な施工で誤った方法で行ってしまうと、後々困るのは施主さんであり、私たちのような業者でもあります。
どうせ施工するのであれば、しっかりした施工内容を一般のお宅にも届けたいと考えています。
石積(空石積)へのモルタル吹付で守るべき条件

「石積が崩れないようにモルタルを全体に塗りましょう!」とすすめている業者さんもいるようです。
やり方自体は存在しますが、そのやり方が正しいかどうかが重要なポイントになります。
石積の多くは、土の上に石が乗っているだけの空石積という構造です。
古い石積では、モルタル目地が入っていないこともあります。
後からモルタル目地を追加で施工しているケースもあります。

こうした状態のまま上からモルタル吹付を行うと、ゴミが多く残った状態になり、岩着が阻害されてしまいます。
そのため、次の条件をしっかり守る必要があります。
石積の表面を高圧洗浄機でしっかり洗浄すること。
既存の目地はすべて除去すること。
必ず地山に水抜きパイプなどを設置し、モルタル表面まで水を出すこと。
石積の表面はラス網だけでなく、できる限り鉄筋組も一緒に行うこと。

目地の奥が抜けている場合は、しっかりモルタルを吹き込むこと。
これらの条件を守れば、石積の耐用年数が数十年以上は延びる可能性があると感じています。
できれば、大雨などによる内圧の間隙水圧上昇を抑えるために、水抜きボーリングを4.0m以上入れておくと、より安心できます。
最近は、作り直すよりも既存の構造物を延命させたいというニーズが強くなっています。
実際、費用面でもそちらの方が安く済むことが多いです。
いかに今ある構造物をそのまま延命させるか、というところに頭を悩ませながら民間工事に向き合っています。
個人で数百万円規模の補修を行うことになるからこそ、施主さんの側にもある程度の知識があった方が、しっかりした施工を選びやすくなると思います。
モルタル吹付工は、法面清掃、ラス張り、配合、吹付厚のどれかひとつでも手を抜くと、見た目ではわかりにくい形で弱点が残ってしまう工事です。
公共工事で積み重ねられてきた細かい基準には、それぞれちゃんとした理由があります。
個人宅や民間工事だからといって、その基準を省略していい理由にはならないと思っています。
しっかりした施工を選ぶための判断材料として、この記事が少しでも役に立てば嬉しいです。
それではまた。



