元請一社依存が招く癒着と経営リスク|専門工事会社が取引先を分散させる考え方

皆さんこんにちは。

エンタです。

朝晩がだいぶ涼しくなって、ようやく秋らしくなってきました。
現場の熱中症対策も、もう少しで一段落できそうです^^

閑話休題

前回は、元請の担当者からキックバックを持ちかけられた時に、下請が負う法的リスクと断り方を書きました。
実際にニュースになった背任事件や、税務署の査察で建設業が告発件数1位という数字まで並べたので、読んだ方は結構ゾッとしたんじゃないかと思いますw

ただ、あの記事を書きながらずっと引っかかっていた事があります。
そもそも、なぜ下請は断れないのか。

答えはシンプルで、その元請の仕事が無くなったら会社が回らないからです。

今回は法律の話ではなく、経営の話です。
元請一社への依存がなぜ癒着の温床になるのか、そして専門工事会社が取引先を分散させるにはどう考えればいいのか。
データと、うちの会社で考えている事を交えて書いてみます。


一社依存が「断れない会社」を作る仕組み

私は若い頃、大手の側から下請の業者さんを見る立場にいました。
その頃に何社も見てきたのが、大手一社の仕事だけで年間の売上が回っている業者です。

こういう業者は、普段はとても仕事がしやすいんです。
元請の段取りに合わせてくれるし、急な増員にも応えてくれる。
元請の担当者からすると、頼りになる業者です。

でも、力関係は完全に片側に傾いています。

  • 単価を下げてくれと言われたら、下げるしかない
  • 無理な工期を言われても、受けるしかない
  • 担当者個人から筋の悪い話を持ちかけられても、断りにくい

この3つは、根っこが全部同じです。
「断ったら次の仕事が来ないかもしれない」という怖さです。

前回書いたキックバックの話も、突き詰めればここに行き着きます。
担当者側も、その業者が自分に逆らえない事を分かっているから持ちかける訳です。
取引先が5社も10社もある会社に、わざわざそんな危ない話は持っていきません。

今年8月に逮捕が報じられた万博工事の元作業所長の事件でも、FNNは「下請け業者に1,369万円水増し請求」と報じています。
容疑の段階の話なので中身の断定はできませんが、報道の構図だけ見ると、現場のトップと、そのトップの現場で仕事をしている下請という関係です。
現場のトップに「ちょっと頼むわ」と言われて、そこの仕事が売上の大半だったら。
ぶっちゃけ、首を横に振れる社長はそう多くないと思います。

つまり、癒着は担当者のモラルの問題であると同時に、下請側の売上構成の問題でもあるという事です。
担当者のモラルは下請にはどうにもできませんが、自分の会社の売上構成は自分で変えられます。
建物模型に傾く木製天秤


データで見る取引依存度|ゼロにする必要は無い

では、一社への依存はどのくらいまでなら良いのか。

ここで参考になるのが、中小企業庁の2020年版「中小企業白書」
帝国データバンクの「取引条件改善状況調査」(2019年10月実施)をもとに、販売先の数や取引依存度と売上高の関係を分析しています。

その中で面白いのが次です。

  • 販売先数が増加した企業で、売上高の増加率が高い
  • 取引依存度(販売先上位1社への依存度)が「30%超〜50%」の企業で売上高の増加率が最も高い

私はこの2つ目が大事だと思います。
依存度が低ければ低いほど良い、という結果にはなっていないんです。

主要な取引先と深く付き合って、そこで実績と信用を積む事は、それ自体は悪い事ではないですよね。
問題は、その1社が50%を大きく超えて、その1社が止まったら会社が止まる状態になっている事です。

ちなみに同じ白書では、製造業について、取引依存度が高くなるほど価格転嫁が「できなかった」と答える企業の割合が高まる傾向も示されています。
これは製造業の分析なので建設業にそのまま当てはめる事はできませんが、依存度と交渉力の関係としては現場の感覚ともそれ程違わない気がしています。

元請が止まるリスクは他人事ではない

もう一つ見ておきたいのが、元請側が倒れるリスクです。

帝国データバンクが2026年1月13日に公表した「建設業」の倒産動向(2025年)によると、2025年の建設業の倒産は2,021件で、前年比6.9%増。
過去10年で最多、2013年以来12年ぶりに2,000件を超え、2000年以降で初めての4年連続増加となっています。
要因としては、物価高倒産が240件、人手不足倒産が113件と挙げられています。これはこのブログで再三書いているの知っていますよね。

一社依存の会社にとって、その元請が倒れる事は、単に取引先が1つ減るという話では済みません。
売上の大半が一度に消えて、しかもその時点の未回収の工事代金まで危なくなります。

だからこそ、依存度と一緒に見ておきたいのが支払条件です。
月末締め翌月末払いの出来高払いなのか、完成後の一括払いなのか。
一社依存で、しかもその1社が完成後の一括払いだと、倒産した時に数か月分の工事代金が一気に焦げ付く事になります。
取引先を増やす時は、支払条件の良い元請を優先するのも一つの考え方です。

依存度の数字と、未回収の工事代金の残高。
この2つを並べて見るだけでも、会社がどれだけ危ない橋を渡っているかはか。。。。こわいっすよね。

成長率インフォグラフィック


断れない会社は原価割れも断れない|改正建設業法との関係

一社依存のもう一つの怖さが、原価割れの仕事を断れなくなる事です。

ここは2025年12月12日に全面施行された改正建設業法で、下請側にも関わるルールが変わりました。

受注者側も原価割れ契約が禁止に

建設業法で、注文者が取引上の地位を不当に利用して、通常必要と認められる原価に満たない金額で請負契約を結ぶ事を禁止しています。
ここまでは以前からあった、元請側を縛るルールです。

改正で加わったのが、
建設業者は、国土交通省令で定める正当な理由がある場合を除き、その請け負う建設工事を施工するために通常必要と認められる原価に満たない金額を請負代金の額とする請負契約を締結してはならない。

つまり、受ける側の下請も、原価割れで受けてはいけないという事です。

これまでは「元請に言われて仕方なく安く受けた」で済んでいた話が、法律上は受けた側の問題にもなりました。
一社依存で「ここで断ったら次が無い」という会社ほど、この条文に引っかかりやすい立場にいる訳です。

見積書の内訳が武器になる

もう一つ、建設業法で、建設業者は請負契約を結ぶ際に、材料費、労務費、労働者による適正な施工を確保するために不可欠な経費などの内訳を明らかにした見積書を作るよう努めるものとされています。
発注者側が材料費等について通常必要と認められる額を著しく下回るような変更を求めてはならない、という規定も入っています。

私はここが、依存度を下げていく時の武器になるのでは?

内訳の入った見積書をきちんと出す会社は、「この金額より下は法律上も受けられません」と根拠を持って言えます。
値段を下げろと言われた時に、気合いではなく内訳で話ができる。
これができる会社は、一社に縋らなくても他の元請から声が掛かりやすくなる可能性も。

ついでに言うと、内訳と裏付けのある見積・請求は税務調査にも強いです。
国税庁では、不正発見割合の高い業種で土木工事が30.4%で7位、職別土木建築工事が30.1%で8位に入っていますwww
見れば何か出てくると思われている業界だからこそ、数字で説明できる会社は信用されます。

が!ココでもう1つ問題がw

それは見積の内容から全てを下請にメールしてこれで良いなら、これで見積作ってって言う元請もいます。
これはなぜか?
そう!下請が見積出来ないからです!!
これはもうなんと言い様も無いというか・・・・

対等な建設見積交渉


取引先を分散させる|数字で見る依存度

実際にどうやって依存度を下げていくか。
私的意見ですけど

①上位1社の売上比率を毎月出す

まずは現状を数字で見ます。
やり方は簡単で、毎月の売上を取引先別に並べて、上位1社・上位3社が全体の何%を占めているかを出すだけです。

取引依存度(%)=上位1社の売上÷全体の売上×100

単月だと工事の出来高の波で大きくぶれるので、直近12か月の累計で見るのがオススメ。

②自社の目安ラインを決めておく

白書のデータを踏まえて、私は次のような目安で見るのが良いかと。

上位1社の売上比率(直近12か月) 状態の目安(私の案) やる事
30%以下 分散できている 今の取引先との関係を深める
30%超〜50% 主要取引先がある健全な状態 新規の取引先を年1〜2社ずつ増やす
50%超〜70% 黄色信号 新規開拓を優先課題にする
70%超 赤信号(その1社で会社が決まる) 社長自ら営業と見積の窓口を広げる

※上の区分はあくまで私の案です。白書で示されているのは「30%超〜50%の企業で売上高増加率が最も高い」という分析結果までで、50%や70%という線を公的な基準として示している訳ではありません。

③「この工種ならあそこ」と言われる工種を持つ

取引先を増やすと言っても、飛び込み営業で仕事が取れるほど甘くはありません。
専門工事会社は、特定の工種で名前を覚えてもらう事です。

例えば法面なら、グラウンドアンカーならあそこ、施工管理ができる、石積みの補強ができる、といった具合です。
「あの工種で困ったらあそこに聞け」と元請の間で言われるようになると、こちらから探さなくても声が掛かり始めます。

④新しい元請とは最初の1件を丁寧にやる

新しい元請との最初の1件は非常に大事、まぁそれ以降も大事ですが、しっかり信用が出来るまではいつも以上に!
工事写真、作業日報、出来高調書をきちんと揃えて、請求の根拠が一目で分かる状態で出すとか?
前回の記事でも書きましたが、写真と日報で説明がつく請求をする会社は、元請の担当者が替わっても信用が残ります。ただやり過ぎると細かい会社と・・w

⑤地域を少しずつ広げる

同じ地域の元請だけだと、景気の波も発注の時期も似てきます。
うちも少しずつ営業のエリアを広げていますが、エリアが違うと繁忙期がずれて、年間の仕事の波がならしやすくなるります。
ただし、遠方の現場は移動と宿泊の経費が一気に増えるので、見積の段階でそこを必ず乗せる事が条件ですけどね。

夕暮れの建設会社で売上構成を確認


一社の元請と長く付き合う事自体は、決して悪い事ではありません。
むしろ、主要な元請と深く付き合う中で技術が磨かれる面もあります。

ただ、その関係が「好きで付き合っている」のか「離れられないから付き合っている」のかは、自分で分かっておかないといけません。
離れられない関係は、いつか必ず、単価か、工期か、筋の悪い頼み事か、どれかの形で下請に跳ね返ってきます。

逆に、いつでも他の元請で食っていける会社は、今の元請とも対等に話ができます。
値段の話も、工期の話も、断るべき話も、ちゃんと断れる。
そういう会社の方が、結果的に元請からも長く大事にされる可能性があるとは思います。

売上構成は、社長が決めない限り誰も変えてくれません。
1度試算表を作ってみて比率を眺めてみて下さい。

 

それではまた。

大手社内横領と下請建設会社の関係(その1)

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