皆さんこんにちは。
エンタです。
先日、熊本県八代市に行ってきました。
きっかけは2026年7月28日に発生した「令和8年熊本地震」です。
震源は日奈久断層付近で、八代市は震度6強を観測しました。
10年前の平成28年熊本地震の時(八代市は震度6弱でした)よりも、震源が八代寄りだった分、揺れも被害も大きかった地域です。
現地に着いてパッと見た感じでは、それほど酷い被災風景には見えなかったんですよ。
ところが、よく見ていくと市街地のあちこちに爪痕が残っていました。
国指定名勝の庭園「松浜軒」は主屋の一部や蔵が倒壊し、県指定重要文化財である八代神社(妙見宮)は楼門が倒れて拝殿もひしゃげていました。
妙見宮は九州三大祭りのひとつでユネスコ無形文化遺産にも登録されている「八代妙見祭」の舞台でもある神社です。
パッと見が普通でも、歴史ある建物ほど被害が出ているというのは、地震の怖いところですよね。

閑話休題
今回、八代市周辺のおおまかな位置関係と地盤の地域区分を、地質の資料をもとに図にしてみました。

大先輩の指示で「井戸の調査」をすることに
今回、私が八代に入った本題はここからです。
ある大先輩から「なんとかしろ」というご指示をいただきまして、井戸の調査をしに行ってきました。
大先輩方の命令ですから、粛々とやるしかありませんw
八代市は、地下水がとにかく豊富な地域なんです。
八代市によると、市内人口約11万7,500人のうち上水道の利用者は6万人弱で、人口の半分弱は地下水(井戸)に生活用水を頼っているそうす。
特に金剛・植柳・高田・麦島・二見の5校区は、もともと上水道が整備されておらず、生活用水のほぼすべてを地下水でまかなっている地域!!
その井戸が、今回の地震でかなりの被害を受けました。
八代市が8月17日に発表した調査結果では、井戸の被害を受けた世帯は市内で約4,400世帯。上水道のない5校区では約9,700世帯のうち約2割にあたる2,000世帯で、上水道と井戸を併用している地域でも約2万9千世帯のうち約1割にあたる2,400世帯で被害が確認されています。
井戸掘削を担う業者は熊本県内に15社ほどしかなく、うち八代市内には3社でうち2社は高齢化で休業に近かったとう状況らしく、修繕依頼がかなりの件数溜まっているそうです。
現地の金剛地区では、給水車に水を汲みに来る住民の姿もありました。
私が共にした方は週に3回ボランティアで水を運んでおられました。
「地震の日から井戸の水が出なくなった」という声を聞くと、地下水に恵まれた土地だからこそのつらさを感じますね。

そもそも八代平野はどういう地盤なのか
なぜ八代でここまで井戸の被害が集中したのか。
これを知るには、まず八代平野がどういう地盤なのかを調べましたw。
ネットあった論文で応用地質学会の研究発表によると、八代平野は南北約25km・東西約10kmの沖積平野で、球磨川・砂川・氷川という3本の河川が土砂を運び込むことで形成されてきました。そして、水深の浅さを利用して古くから干拓が進められた結果、現在では八代平野のおよそ3分の2が干拓によってできた土地なんだそうです。干拓地というのは、そもそも軟弱な地盤の上に土を盛ってできている土地なので、地震に弱い条件がそろっているという事になります。
論文では、八代海沿岸のボーリング調査結果をもとに、八代平野を地質特性で3つの地域に区分しています。
- ①八代海湾奥部:和鹿島地区
- ②氷川〜球磨川間:文政・昭和・郡築地区
- ③球磨川以南:金剛・日奈久・洲口地区
このうち、地表付近に広く分布する砂質土層(As1層)の試験結果一覧が下の表です。
| 試験項目 | 和鹿島 | 文政 | 昭和 | 郡築 | 金剛 | 日奈久 | 洲口 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 湿潤密度ρt(g/cm³) | 1.872 | 1.832 | 1.822 | 1.832 | 1.862 | 1.828 | 1.824 |
| 自然含水比wn(%) | 33.6 | 32.2 | 33.0 | 35.3 | 35.6 | 38.5 | 26.8 |
| 間隙比e | 0.976 | 0.934 | 1.054 | 1.001 | 0.983 | 1.049 | 1.003 |
| 粒度・砂分(%) | 73.6 | 70.9 | 80.4 | 77.8 | 71.0 | 36.5 | 54.4 |
出典:応用地質学会「熊本県八代平野の地質特性」(東・木村・鵜殿、千代田工業)表-1
論文では、和鹿島〜金剛地区の細粒分含有率がFc=17.5〜25.4%、日奈久〜洲口地区がFc=38.0〜57.4%(塑性指数Ip=11.4〜12.4)とされています。
そのうえで論文は、As1層について「飽和した緩い砂層であり、液状化の可能性の高い土層であるといえる」とはっきり書いています。
まさに、今回井戸の被害が集中した5校区(金剛・植柳・高田・麦島・二見)とも重なる地域です。

そもそも液状化とはどんな現象なのか
ここで、液状化そのものの仕組みをおさらいですよw
基本的な事ですが、液状化とは地震の強い衝撃を受けた際に、それまで互いに接して支え合っていた土の粒子がバラバラになり、地盤全体がドロドロの液体のような状態になる現象とされています。地盤の中には地下水があり、砂粒同士は互いに接触した状態で周囲の圧力(有効応力)に抵抗しています。
ここに地震動が加わると、砂粒のかみ合いが一時的に外れ、砂粒の代わりに水が荷重を支える状態になってしまうわけです。
液状化が起きると、道路の波状変形やマンホールの浮き上がり、建物の不同沈下といった被害が知られていますが、地面の下では同時に、もうひとつ厄介な事が起きています。それが今回のテーマである「井戸の閉塞」です。

なぜ液状化の発生で井戸が詰まるのか
私が現場で見てきた事と、今回いろいろ調べた内容をあわせると、井戸の閉塞は次のような流れで起きていると考えられます。
まず、地震の揺れで地盤内の砂粒のかみ合いが外れると、それまで砂粒同士が支えていた圧力が、逃げ場を失った地下水に一気にのしかかります。
これが過剰間隙水圧です。

地盤の中の圧力というのはもともとかなり大きいのですが、井戸のパイプの中は基本的に水圧だけしかかかっていません。
つまり、地盤の中で行き場をなくした過剰間隙水圧が、圧の低い井戸のパイプに向かって集中しやすい状態になるわけです。
公益社団法人日本地下水学会のFAQで、大地震のあとは井戸そのものより断水や水道の濁りが問題になりやすいとしつつ、地下水を水源にしている地域では地震後に水の濁りや、閉塞が書かれていました。
実際に井戸を掘って濁りが出た場合、地層が動いた事で舞い上がった砂と濁りが水と一緒に排出され、時間が経てば透明に戻る事もあれば、濁りが引かずに水が出なくなる事もあるとされています。
今回の八代のケースで言えば、過剰間隙水圧に押される形で、地盤中の細粒分(シルト・粘土分)が井戸のストレーナー(取水部分)に向かって一気に流れ込み、目詰まりを起こしたと考えるのが自然です。
実際現場でもその圧力がポンプまで砂を運んでおり、ポンプも破壊していました!
加えて、地震の激しい揺れで塩ビ管やSGP管といった井戸まわりの配管そのものが破断しているケースも多く見受けられました。
パイプが折れてしまえば、そもそも水を持ち上げる経路自体が失われるので、これはもう詰まる詰まらない以前の話です。

今回はまず現地の調査から
正直なところ、私がやっている仕事は法面や地山補強が中心で、井戸そのものの専門家ではありません。
と言っても今まで井戸は沢山掘っておりますけどねw井戸屋か?と言われれば法面屋ですからね~・・・
ただ、地盤の中で何が起きているかを読む、という部分では通じるところが多いですし、大先輩からの指示でもあるので、まずは現地をしっかり見てくる事から始めました。
八代平野のように、干拓地であるうえに砂質土の細粒分含有率にも地域差がある土地では、同じ「井戸が詰まった」でも、原因が過剰間隙水圧による細粒分の流入なのか、配管そのものの破断なのかで、対策の優先順位も変わってきます。
この先の対策や段取りについては、地元の井戸掘削業者さんや自治体の調査結果ともすり合わせながら、私なりに考えていきたいと思っています。
それではまた。



