
「積算は想像でやれ」
これは、私がある設備会社の設計部門に転職したときの実体験だ。
この会社では目を疑う光景が広がっていた。それは、積算時に図面がないことだ。
図面がないまま、どうやって積算をしているかを尋ねてみたところ、「想像でやる」という、なんとも想像し難い回答が返ってきた。
まずは、この会社の一連の流れを説明したい。お客様から設備工事の依頼が来て、工事現場へ現場調査に行き、それをもとに各種計算や機器・部材選定、そして積算を行う。
積算後、見積書をお客様に提出し、受注確定、または逸注となる(逸注の場合はここで終わる)。受注してからはじめて図面を作成し、設計部門から施工部門へ業務を引き継ぎ、工事着工前調査、工程表作成を経て、工事着工となる。
私としては、見積提出前の積算の時点で図面が欲しいところだ。しかしながら、この会社では受注確定後に図面作成となっていた。
どうして図面がない状況で積算をしているのか
前職では図面を読み取りながら積算をしていた。私はそれが当たり前だったため、転職後の環境に驚いてしまった。
図面がないまま積算作業をする職場に疑問を持ち、図面を準備しない理由を聞いてみた。
すると、「図面を描く時間がない」や「逸注してしまうと、図面を描いた時間が無駄になる」という答えが返ってきた。また、「外部発注へ図面作成を依頼しても、結局は自分で修正をしなければならない」ことや、「ただ単に、図面の読み描きが苦手」といった理由もあった。
たしかに、逸注をしてしまうと図面を描いた時間がもったいない。だが、それは図面だけに限らず、現場調査、計算した時間、それらも全て台無しになる。
積算時に図面がないとどうなるか
物件の規模が大きければ図面の枚数は増え、設計部門の負担が大きくなるばかりだった。
受注確定後から工事着工までの時間は、大体1ヶ月ぐらいしかないことが多かった。そして、積算時に図面がなかったことが、施工部門との間でさまざまなトラブルの原因にもなっていた。
部材の選定ミスや個数間違いが生じ、場合によっては予算超過を招いた。また、図面がすぐに出来上がらないため、設計部門と施工部門での話し合いや引き継ぎがうまくできず、工事施工中にトラブルも起きた。工期が延びてしまう恐れさえあった。
私自身も、部材選定のサイズを間違えてしまい、予算を超過して粗利が激減してしまった。その際はお客様のもとへ出向き、設計ミスとその原因を説明のうえで頭を下げた。
積算時に図面がいらないって本当?
いま述べたとおり、このようなトラブルが起きる原因の一つは、図面なしで積算をしてしまうからではないのだろうか。もし、積算時に図面があれば、少しでも未然にトラブルを防ぐことができるはずだ。
しかし、この「図面を描く時間がない」という理由の背景には、より根深い人手不足の問題があると私は思う。
当時、仕事量に対して人手が追いつかず、毎晩遅くまで業務をこなす日々だったが、労働基準法の月上限45時間の残業時間規制によって、それすらも制限され、ますます仕事が追いつかなくなっていた。
会社の方針では、個人の作業量削減として図面作成を外部発注へ推進していた。とはいえ、外部へ説明する資料等の準備の時間に追われ、結局は自分の作業が止まってしまう。私自身、「資料を作る時間があるならば、自分で図面を描くほうが早い」と思ったことがある。
しかも、業務は図面作成だけでなく、計算、部材選定、検討をしなければならない。検討がうまくいかなければ、何回も現場へ足を運ぶ必要もある。納期が迫れば、図面を描く時間が削られていく。
図面作成が後回しにされる裏側には、こうした人手不足の現実がある。それでも私は、これまでの経験から積算段階における図面の重要性を痛感している。
「積算は想像でやれ」。果たしてこれは、仕方のないことなのだろうか。



