鉄筋挿入工の定着は岩盤じゃなくていい?|移動土塊と不動土塊の設計概念を解説

皆さんこんにちは。

エンタです。

8月始まりました!
夏本番前からずーっと暑すぎて体力が溶けますね。

マジ今年も地獄モードでグッタリです・・・

閑話休題

今回は鉄筋挿入工(ロックボルト工)の「移動土塊」と「不動土塊」の話。

検査や段階確認の時に、検査官や役所の担当者からたまにこう聞かれる事があります。

「この鉄筋、定着部はちゃんと岩盤に入っているのか?」

元請の監督さんの中には、これに何て答えて良いか分からず固まっちゃう方が結構いると思います。

正直な方ほど「元請として分からないとも言えないし、実際サッパリ分からないし・・・」ってなるやつですw

では、専門屋の我々の答えはどうでしょうか?

「岩盤に入ってるのか?」の答えは「分かりません」w

結論だけを言うと、答えは「分かりません」ですw

そもそも論ですが、地山の中がそんなにキッカリ「ここまでが移動土塊、ここからが不動土塊」と別れている事はありません。

風化の程度も割れ目も地下水も連続的に変化していて、実際は一緒くたです。

設計上そういう概念になっているだけなんですよ。

まして、鉄筋を入れる位置・角度と同じラインでボーリング調査をしている訳ではありません。

なんなら現場全体で土質調査すらしていない小規模現場もあるわけです。

そんな中で「岩(がん)は出たか?ちゃんと岩盤に定着したか?」という質問こそがナンセンスで、正直「工事を知らないのかな??」ってなっちゃいますよねw

ただし、現場で「分かりません」とだけ言うと炎上するのでw、なぜ「分からなくて正しい」のかを設計の理屈で説明できるようにしましょう、というのが今回の主旨です。

鉄筋挿入工の検査で困る現場監督

移動土塊と不動土塊は「設計上の仮定」です

用語の定義から確認。

地山補強土工法設計・施工マニュアル(H25第4刷)の用語定義では、すべり土塊(移動土塊)は「斜面安定解析(極限平衡法)において、斜面の外方へすべり出ると仮定した土のかたまり」とされています

ポイントは「仮定した」という言葉です。

移動土塊と不動土塊を分ける「すべり面」は、極限平衡法という計算手法の中で設定される線であって、地面を掘って実物を確認した線ではありません。

同マニュアルの調査の章でも、安定度の小さい領域には「想定すべり面」を図中に記載する、という書き方になっています。

あくまで「想定」と言う事なんです。

しかも、そのすべり面を設定する根拠になるボーリング調査は、多くの現場で鉛直方向に数本です。

鉄筋挿入工の削孔は水平から下向き5〜45度程度の斜め打ちが多いですから、鉄筋と同じ角度・同じ位置の地層情報なんて元々ありません。

小さい現場だと、近隣の調査結果や踏査だけで設計されているケースもあります。

設計図に描かれた想定すべり面の線と、実際に削孔して出てくる地山がズレる(もしくは無い)のは、むしろ当たり前なんです。

つまり移動土塊・不動土塊というのは、計算のために地山を2つに割った設計上のモデルであって、現地の地山に境界線が引いてある訳ではない。

ここがこの話の重要な部分になりますw

移動土塊と不動土塊の断面模式図

鉄筋挿入工は「全面定着型」|岩盤に効かせる工法じゃない

同マニュアルでは、補強材は芯材をセメントミルク等で地山に定着させる「全面定着型」を基本とし、設計も全面定着型が前提とされています。

そしてその補強メカニズムは、グラウンドアンカーのようにプレストレスを加えるのではなく、補強材が全長にわたり地山に定着され、

地山の変形に伴って周面摩擦により受働的に抵抗力が発揮されるもの、とされています。

設計で考慮する補強材の許容引張り力Taは、次の式で決まります。

Ta=min(Tsa,T1pa+Toa,T2pa)

・Tsa:芯材(鉄筋)そのものの許容引張り強さ

・T1pa+Toa:移動土塊側の補強材周面の許容引抜き抵抗力+表面材による支圧抵抗力

・T2pa:不動土塊側の補強材周面の許容引抜き抵抗力

 

つまり設計は「岩盤かどうか」ではなく、「想定すべり面の内側と外側、それぞれでどれだけ引抜きに抵抗できるか」の最小値で決まっています。

3つの弱点候補のうち一番弱いところが効きの上限、という考え方ですね。

じゃあ不動土塊側の地山が土砂だったらどうなるのか?

答えは単純で、土砂なりの周面摩擦抵抗で計算して、その分必要な長さを確保するだけ。

周面摩擦抵抗力度τは、本来は引抜き試験(適合性試験)で決めるのが望ましいものの、設計段階で試験をやるケースは少なく、一般には地山の種類別の推定値(解説表-5.4)か、

計算式 τ=σ′・tanφ+c(解説式(5.3))の小さい方を使うとされています。

この推定値表は、砂礫・砂は実際の引抜き試験データの下限値レベル、データが少ない岩盤・粘性土はグラウンドアンカーの基準値を80%に割り引いた値で作られています。

見て分かる通り、「岩盤に入っていなければ効かない」なんて前提は設計のどこにもありませんw

岩盤なら短く済むし、土砂なら長くなる。それだけの話なんです。

現場やってたら、短い時は硬い、長い時は柔らかいって感じですよね?

ちなみに面白いのが表面材の扱いです。

切土補強土壁のように剛な連続壁を表面材に使う場合は、移動土塊側の補強材からの抜け出しは発生しないものとして、Ta=min(Tsa,T2pa)で計算して良いとされています。

格子枠や吹付けでも、表面材の耐力と補強材との結合が十分なら同じ扱いができるとのこと。

つまり法枠と頭部プレートがしっかりしていれば、移動土塊側は「抜け出さない」前提に格上げされる訳です。

取りあえず計算上は表面工って飾りではないんですw

アンカーの周面摩擦とすべり面

ただ、実際は30cm×30cmの鉄板で十分ではあるんですよね・・・

グラウンドアンカーと混同されるから話がこじれる

「岩盤に定着したか?」という質問が出てくる背景は、たぶんグラウンドアンカーとの混同です。

グラウンドアンカーは、地盤工学会「グラウンドアンカー設計・施工基準」に定義されている通り、アンカー全体が「アンカー体長+アンカー自由長」で構成される工法です。

自由長部は力を伝えるだけの区間で、原則最小4mを確保し、奥のしっかりした地盤にアンカー体を造成して、緊張力(プレストレス)をかけて能動的に地山を押さえます。

だからアンカーでは「アンカー体をどの地盤に定着させるか」が設計の生命線になります。

一方の鉄筋挿入工は、先ほどの通り全面定着型です。

自由長という概念が無く、移動土塊側も含めて全長が地山とくっ付いて受働的に効く。

「定着部」という特別な場所が奥の方にあるわけではないんです。

道路土工 切土工・斜面安定工指針でも、地山補強土工は擁壁工・杭工・グラウンドアンカー工と並んで「すべり土塊の滑動に対する抑止力を有する構造物工」に分類されていますが、

並んでいるだけでメカニズムは別物です。

アンカーの感覚で鉄筋挿入工に「定着地盤は?」と聞くのは、軽トラに大型トレーラーの車検項目を当てはめて考えるようなもんw

鉄筋挿入工の断面概念図

 

じゃあ現場は何で品質を証明するのか

とはいえ、検査の場で「土の中は分かりません」で終わったら検査官がイラッとして終わるのでw、

現場が胸を張って示せるものを書いておきますwww

鉄筋挿入工の効きの前提は「設計どおりの長さの補強材が、グラウトで全長包まれて、地山とくっ付いている」ことです。

なので証明すべきは地山の中身ではなく、こっちです。

・削孔長の検測記録(出来形管理)

・挿入した鉄筋の長さ(材料管理)

・径(規格管理)

・グラウトの配合と注入量の管理(品質管理)

・頭部プレート・ナットの定着処理の写真(状況)

要は普通の施工管理をしっかり行って「しっかり入っているので問題ありません!」でOK

 

現場で実際をイメージすると分かりやすいです。

例えば5mの鉄筋挿入工を削孔していて、3m付近から急にハンマーの手応えが軽くなり、排出されるスライムが粘土まみれになったとします。

この時我々が分かるのは「3m付近から地山の性状が変わったっぽい」という事だけで、

それが設計上のすべり面なのか、単なる風化のムラなのかは誰にも断定できません。

削孔機の手応えとスライムの色は貴重な情報ですが、それだけで「岩盤に定着した」と言い切るのは無理がありますよね。

もし削孔中の手応えや排出スライムから、地山が設計想定より明らかに悪いと感じたら、それは「岩盤が出なかった」問題ではなく設計照査の話になってきます。

監督員と協議して、引抜き試験や設計変更につなげるのが筋です!(途中でそんな事やらないけどw)

マニュアルでも、施工の初期段階で当該地山において引抜き試験を実施し、その結果をその後の施工に反映する情報化施工が望ましいという希望的観測がマニュアルに書かれていますw。

基本試験

それでも「岩盤に入ったのか?」と聞かれた時の模範回答はこんな感じでしょうか。

「鉄筋挿入工は全面定着型で、岩盤に定着させる工法ではありません。想定すべり面より深い側の地山との周面摩擦で抵抗する設計になっていて、必要な長さは地山の種類に応じた設計計算で確保されています。施工では設計長どおりの削孔・挿入・注入をしっかり管理しています」

これで大体の方は訳が分からず、濁してくれるはずですw

それでもダメなら、マニュアルの(移動土塊を考慮した力の概念図)を見せてあげてくださいw

結局、地山の中は誰にも見えないんですよ。

設計者も検査官も我々も、です。

だからこそ設計は「想定すべり面」という仮定を明示して、地山や施工のばらつきを安全率で包んでいます。

設計段階で安全に安全を掛けて、現場で安全な材料と安全な施工と安全な管理で安全のフルコース!

間違いないです!

そしてその仮定どおりの物を作った証拠を残す。

この役割分担が分かっていれば、もう「岩は出たか?」にビビる必要はありませんwww

胸を張って言いましょう。「土の中は分かりません!でも設計どおりの物が入っています!」安全です!ってw

なんなら、設計通りです!でイイと思いますw(結局答えがいい加減?w)

 

それではまた。

人手不足時代!何を切り捨てて生きていくのかを決める!

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