皆さんこんにちは。
エンタです。
7月も終盤に入って、現場は完全に超酷暑モードになりました。
先日の「ファン付き作業服は35度を超えたら脱ぐ」の記事に、思っていたより反応を頂きまして。
賛同も有りましたが、「いや、自分は40度でも平気」というご意見も結構有りましたw
暑さの感じ方は人それぞれですが、数字は基準なので曖昧に出来ませんよねー。
閑話休題
今回はその続編です。
前回は気温と湿度という身体の外側の話でしたが、今回は身体の内側で起きている事と、それを受け取る人間の心理の話を書いて行こうと思いますw
先に言っておきますが、ファン付き作業服を否定する記事では有りません。
私も毎年着ています。ただ「絶対」ではない、というだけの話です。

「涼しい」と「熱中症を防ぐ」は同じ意味ではない
今回の記事を書こうと思ったきっかけは、日本農業新聞の2024年9月24日付「[農家の特報班]ファン付き作業服 酷暑下の使用は注意」という記事。
東海地方の読者の方から編集部に届いた依頼が発端で、その方の友人である40代の男性が、ファン付き作業服を着たまま農作業中に熱中症で亡くなられたそうです。
同じ屋外作業をやっている人間として、これは他人事ではないと思いました。
実際私もファン付き作業服を着てドンドン具合悪くなった経験からw
2024年の時点では、メーカーは線を引いていなかった
同紙の取材では、ある大手メーカーは「猛暑で使うかは使用者が判断すること」と回答し、別のメーカーも「暑い環境下では効果が少なくなる」としつつ「使用を控えるべき温度設定は設けていない」と説明したそうです。
冷却効果の有効範囲は示していても、その根拠となるデータは示されておらず、問い合わせても「開示できかねる」との答えだったと書かれています。
2026年7月、メーカーが数字を出しました
ここが今回、一番書きたかった所です。
ハフポスト日本版が2026年7月に配信した記事によると、『空調服®』を製造する株式会社空調服の公式Xが、冷却の有効範囲の目安を投稿して話題になったそうです。
「コミケで空調服はマジでやめた方がいい」という一般の方の投稿への引用リプライで、同社は冷却の有効範囲の目安をホームページに掲載している事、そして「オレンジや赤の環境では『冷却の効果』はほぼ無い」としている事を説明したと書かれています。
同記事によれば、そのグラフでは気温35℃、湿度60〜70%の箇所が「快適限界点」とされています。
作っている会社が、自分から数字を出したわけです。
しかも同社の公式サイトには、生理クーラー®の効果を発揮できる温度帯は限定的である、とはっきり書かれています。
冷却効果の比較試験の環境も、30℃・湿度50%と明記されている。
線は、最初から引かれていたんですよ。
我々が見ていなかっただけなのかもしれませんw
34度・湿度50%での検証結果
同記事に出てくるのが、労働安全衛生総合研究所の時澤健氏です。
検証は気温34度、湿度50%の環境で行われたそうです。
成人男性8名が、ファン付き作業服を着用した状態と未着用の状態でそれぞれ約1時間の早歩きをして、一定時間ごとに直腸温で深部体温の変化を調べたそうです。
結果は、着用・未着用のどちらも深部体温は同程度上昇したとの事です。
これを受けて時澤氏は、この環境下では「熱中症対策には効果が認められなかった」と指摘されています。
衝撃じゃないですかw
同研究所の特別研究報告 JNIOSH-SRR-No.53(2023年)の論文でも、現在使われている身体冷却方法は、
皮膚表面の温度を下げる事と温熱的不快感を和らげる効果が主であり、熱中症予防としての効果は小さいと記載されています。
「涼しい」は事実です。
でも「涼しい」と「熱中症を防ぐ」は、イコールではないという事です。

深部体温と皮膚温は、まったく別のモノです
ファン付き作業服の広告で、着る前は真っ赤、着た後は青くなっているサーモグラフィーの画像を見た事は無いですか。
コレについて日本農業新聞の記事の中で、時澤氏は「サーモグラフィーで写るのは皮膚温で深部体温とは別」と説明されています。
そして「皮膚温が下がることで、涼しいと感じる効果があるのは間違いない」とも話されています。
つまり、あの画像は嘘では有りません。写っているのが身体の表面だけ、というだけです。
それを我々は勘違いしていると言うこと。
脳や内臓の温度は下がっていない
熱中症は、脳や内臓など身体の中心部の温度、つまり深部体温が上がる事をきっかけに発症する病気です。
だから深部体温の上昇を抑えられるかどうかが、熱中症を抑制できるかの判断指標になる、というのが時澤氏の説明です。
先程の検証では、着用しても深部体温の上昇は変わらず、一方で作業服内部の皮膚温を下げる効果は確認されています。
皮膚は「涼しい」と感じているのに、中心部の熱は溜まり続けている。
身体の危険信号である「暑い」「きつい」という感覚だけが先に消される、コレが一番怖い所だと私は思っています。
年齢で差が出るという事実
もう一つ、やばい数字が有ります。
先程のJNIOSH-SRR-No.53(2023年)では、高齢者群10名(66±4歳)と若年者群10名(28±4歳)を対象に、
WBGT27.0度から31.5度の4段階の環境で1時間の軽作業を行い、直腸温を比較しています。
WBGTが1度上がった時の深部体温の上がり方は、高齢者群で0.1度、若年者群で0.05度という傾きだったと報告されています。
高齢者の方が、倍のペースで熱が溜まっていくという事です。
さらにWBGT31.5度で1時間作業を行った場合、高齢者群ではISO12894で定める上限値の38.0度に達し、若年者群は37.6度で止まると記載されています。
同じ現場、同じ時間、同じ作業でも、身体の中で起きている事はまったく違うという事です。
うちの現場も高齢化していますから、真剣に考えないといけない数字だと思っています。
汗をかいているのに水が足りていない
同じ報告書の実験2では、室温37度・相対湿度50%の環境で1時間の歩行運動を行い、乾いたインナーでファンを止めた条件と回した条件を比較しています。
ファンを止めた条件では直腸温が38.0度に到達し、回した条件でも上昇はやや抑えられた程度でした。
さらに休憩中は自由に飲める条件だったにもかかわらず、それぞれ0.4kgと0.3kg、発汗量の方が飲水量を上回っており、
脱水のリスクにつながる可能性があると報告されています。
夏場に体重が落ちる人、心当たり有りませんかw

サウナで考える、気化熱の限界
ファン付き作業服が涼しくなる仕組みは、汗の気化熱です。
では、その気化熱がどこまで通用するのか。
気化熱で涼しくなる!とSNSでは根強い気化熱ファンがいっぱいいるのですが、サウナで考えると分かりやすいと思います。
90度のサウナで火傷しない理由
一般的なドライサウナは、室温80度から100度、湿度は10%程度と言われています。
100度のお湯を浴びたら大火傷ですが、100度のサウナ室には10分以上入っていられる。
その理由の一つが、湿度が極めて低いために汗が盛んに蒸発して、気化熱で身体の表面から熱を奪ってくれるからだと説明されています。
つまりサウナの中の人間は、全身で気化熱冷却を最大出力で回している状態で、原理としてはファン付き作業服がやっている事と同じです。
ロウリュとアウフグースが教えてくれる事
ところが、サウナストーンへ水をかけるロウリュが入ると湿度が一気に上がり、さらに熱波師の方がタオルで扇いで風を送るアウフグースになると、もっと熱い。
各施設の解説を読むと、アウフグースは湿度が急上昇して体感温度が高まり、発汗が促進されるものだと説明されています。
風を送っているのに、涼しくならないどころか熱くなっているんですよ。
私はサウナが嫌いで、ロウリュを受けた時にイライラが止まりませんでした!!w

湿度が上がって気化熱が効きにくくなった状態で、自分より高い温度の空気を身体に当てると、風は熱を運んでくる側に回るという事です。
同じ事が、今の日本の真夏現場でも起きる可能性が有ります。(というか起きてて地獄モードw)
先程のJNIOSH-SRR-No.53(2023年)にも、電動ファン付き作業服は外気を衣服内に取り込む事から、
体温よりも高い外気の場合は体温を上げる作用が働くと考えられる、と記載されています。
同報告書では、扇風機による身体冷却効果は、室温だけでなく相対湿度や発汗量の条件によって有効にも無効にも、
あるいは有害になる場合もあると、海外の研究を引用して触れられています。
販売元は「50度超では着用するな」と書いている
ファン付き作業服を扱う専門サイト(株式会社フジワークが運営)の使用上のご注意には、
サウナなど温度が50℃を越える環境下では着用しないでください、やけどを負う危険性があります、と書かれています。
上限が有る事は、ちゃんと書かれているんですよ。商品ページの一番下だというだけでwww
カタログの数字は30度前後の世界の数字かもしれない。
でも我々が着ているのは、38度・湿度70%の現場だったりするわけです。
実際は、40度から50度の間は分かりません
正直に書きますw
安全衛生コンサルタント2026年4月号(No.158)に掲載された時澤氏の解説記事によれば、
室温32度・相対湿度80%の高湿条件と、室温40度・相対湿度30%の高温条件の両方で検証が行われ、
湿らせたインナーを着てファンを回した場合の方が深部体温の上昇が抑えられ、全身発汗量は半減したと報告されています。
つまり40度・湿度30%までは、インナーを湿らせるという条件付きで有効性が確認されているという事です。
一方で、販売側は50度を超える環境では着用しないでくれと書いている。
では、その間はどうなのか。
私が調べた範囲では、その答えは見つけられませんでしたw
まぁそう言う実験の結果は無いという事でしょうねーw
ただ、日本の自然環境で50度に届かなくても、熱源のある作業現場では起こりうると同記事にも触れられていました。

なぜ「自分は大丈夫」になってしまうのか
ここまで数字の話をしてきましたが、最後は人間の問題です。
SNSを見ていると、「外気温40度でもファン付き作業服が有れば余裕」という投稿が出てきます。
「ファン付き作業服が無いと仕事にならない」という声も非常に多い。
私はコレを批判する気は有りません。その感覚には根拠が有る部分も有るからです。
個人差は、確かに有ります
先程の安全衛生コンサルタント2026年4月号には、汗の量には体質的な個人差が大きいと書かれています。
真夏の炎天下で1時間ウォーキングを行った場合、全身の汗の量は多い人で1500mLに達する一方、少ない人は500mLに満たないという例が挙げられています。
汗をよくかく人ほど、ファン付き作業服の効果は大きく出るという事ですね。
つまり「自分は40度でも平気」と言っている方は、本当に汗の量が多くて、本当に効いている可能性が有ります。
ただし同時に、脱水のリスクも大きいという事になります。
問題は、その感覚を隣の60代の職人さんに当てはめてしまう事です。
先程の数字の通り、身体の中で起きている事は倍のペースで違いますから。
「涼しい」と感じる効果も、本物です
誤解の無いように書いておくと、快適感が上がる事にはちゃんと意味が有ります。
安全衛生コンサルタント2026年4月号には、暑さの不快感から集中力や生産性が低下するのを防ぐ事につながる可能性が有ると書かれています。
日本農業新聞の記事でも、時澤氏は熱中症を防ぐ効果は得られなくても、暑さの感覚や喉の渇きが抑えられるため、作業効率や注意力低下を抑える効果が期待できると話されています。
集中力が落ちない事は、我々の仕事では安全そのものです。
法面の上で注意力が切れたら、熱中症より先に別の事故が起きますからね。
ただ時澤氏は、身体が受ける負担は変わらないので、つらい・きついという感覚に頼らず、
未着用時と同じように給水や休憩を挟む事が大事だとも話されています。
高い買い物ほど、否定されると腹が立つ
ここからは資料の話ではなく、私が思っている事です。
ファン付き作業服は安い物では有りません。
服とファンとバッテリーを揃えて、自分で選んで、自分で金を出して買った物です。2万~・・・・(電池がとにかく高いw)
だから「効果が無い場合も有るらしいですよ」と言われると、否定されたような気分になる。
私も最初は「なんだと!」って思いつつイロイロ半信半疑で調べましたからねw
人間には、自分が信じたい方向に合う情報だけを集めて、都合の悪い情報を軽く見てしまう傾向が有るとされています。
このブログでも何回も書いてきた、確証バイアスと呼ばれるものですね。
「俺は去年も一昨年も、コレで倒れなかった」という経験は、確かに強力な証拠に感じます。
でも、それは「たまたま倒れなかった日の記録」でも有ります。
否定して終わらないための、打ち水インナー
じゃあどうするのか、という話です。
湿らせたインナーを着て、その上からファン付き作業服を着る、時澤氏が「打ち水インナー」と名付けた方法。
今回、の株式会社空調服の投稿の続きです。
ハフポスト日本版の記事によると、同社は
「インナーを濡らしたり、水冷式のアイテムなど、汗だけではない水分をプラスすることで、気化熱冷却効果は高まります」と説明。
メーカー本家が、濡らしたインナーを勧めています。
やり方は、水に浸してよく絞った肌着を着るだけ。
日本農業新聞の記事によれば、化学繊維より綿製が向いていて、高温下では2時間程度で乾くため、休憩の際に霧吹きで再び湿らせると効果が長く続くそうです。
安全衛生コンサルタント2026年4月号では、インナーを湿らせる水の量は350mLで、この水分量による気化熱は約200kcalになると書かれています。
同サイトの説明では標準的な大人の歩行(時速3km)の産熱量が1時間あたり約200kcalとされているので、
肌着を濡らすという原始的な方法で、それに相当する熱量を逃がしている計算になります。
費用はほぼゼロ、バッテリーも要りません。ペットボトルの水と綿のシャツが有れば良いだけです。
今は、インナーに水を入れるとか、内ポケットにアイスバッグ入れるモノまで有りますよね。
そう言った製品との併用が必須という酷暑時代になってきた感じですね。

結局、ファン付き作業服は「悪い物」でも「万能な物」でも無いんですよね。
メーカー自身が示した有効範囲の中で、汗をしっかりかける人が着れば、ちゃんと仕事が楽になる道具です。
でもその範囲を超えると、道具は静かに性格を変える可能性が有り、一番厄介なのは、それに着ている本人が気付けないという点です。
皮膚は涼しいと言っているのに、中は熱い。
私が言いたいのは、ファン付き作業服を脱げという事では有りません。
「今日は効いていないかもしれない」と一度でも疑える人でいて欲しい、という事だけです。
その一回の疑いが休憩をもう10分取らせるかもしれない。
その10分が誰かを守るかもしれない。
かもしれない!と言う考え方が、安全対策には特に有効なのはご存知の通りです。
うちの職人も、私も、皆さんも来年の夏も普通に現場に立っていたいので。
しっかり温度を確認しつつ、施工していきましょう!
それではまた。
※「空調服®」は株式会社空調服の登録商標です。



