若手を教育する建設技術者の不足
今、中小零細の建設会社には、若手を教育する技術者がいない。
いや、正確に言うと「4大管理」を教えられる、あるいは「4大管理」が出来ている技術者が圧倒的に少ない。
1級施工管理技士、または2級施工管理技士の資格取得者なら、誰しも理解しているだろうが、「4大管理」とは主に、工程管理、品質管理、安全管理、原価管理を指す。この4つ全ての管理については、実際に現場に出ている施工管理技士でも、自信をもって「出来る!」と言う人は少ないのではないだろうか。こと、原価管理が出来ている技術者はそう多くない。
よく採用面接などで「官積算が出来ます!」と言う自信満々の方もいるが、実際に仕事をしてみると残念な結果が続く。これは実行予算と官積算の区別がついていないからである。実行予算は実際に施工した際の予定であり、見積もりである。対して官積算は、設計者がどの歩掛りを使用して設計したかどうかである。
官積算が出来ないということは、「設計の考え方が分からない=実行の原価が適切かどうか把握できていない」ということである。すなわち、問題の原因がどこにあるかが分からず、一生懸命にやったのに結果的に持ち出し工事となってしまい評価されない。
厳しい予算と週休2日制の弊害
中小零細の建設企業においては、「一人一現場」が主流である。特に1億円前後もしくは1億円未満であれば間違いなくそうではないだろうか。
実行予算をしっかりと自ら行っている技術者ならば必ず直面する問題なのだが、自身の経費(給与)で工事の予算が圧迫することが割と多い。
これは経費の考え方があくまで直接工事費に対しての割合であって、工事の日数まで考慮していないためである。また近年では週休2日制の推進もあり、工期の短縮が難しくなってくるため、教育する余裕がなくなる可能性がある。
勘違いしないで欲しいのだが、週休2日制も残業の減少も重要事項であり、筆者自身も推進派である。ただ、週休2日制は工事の年平準化などで劇的に改善すると考えており、まだ対策がなされていない現状での導入は、若手の教育という面において、改悪につながる可能性がある。
発注者側のレベルも同様に低い
中小零細の建設企業の若手技術者は、非常に低い技術レベルのまま現場を持つことが現状である。ただこれは発注者側も同様である。
関係法令を理解していない人や工事管理基準を勉強していない人、建設業法自体を知らないという監督員にあったこともある。
知らないから上司に説明できない、説明できないけど責任取りたくない、すると彼らのとる行動は私の経験上ほぼ同じである。「今までそうだったので…」「前例のように…」「他工事現場が先にそうなったので…」である。
しかし、長期計画の公共工事で1期、2期などがあれば別だが、場所も条件も違う工事で前例と全く同じ理由などありえない。まして施工業者にとって、他の工事現場がどのような理由で、どのような施工を行い、どのような書類をつくろうと、極論関係ないのである。というよりは関連づけてはいけないものだ。
現場に問題があるので資料を作成した上で監督員に説明した場合も、勉強不足のため「可能性だけではダメ」という決まり文句で上げてもらえない。そして、のちのち問題が発生すれば、現場を止められ、われわれは頭の上にクエスチョンマークをつけながら残業し、変更計画書や対応対策書類等をつくるのである。
厄介なことにそれらの監督員は決して故意ではないのだ。なぜならそう教わり、ずっとそうしてきたから、それが問題のある行為だと認識すらしていないため、なおさら性質が悪いのである。
ただ、もう一度言うが、その逆もしかりである。
施工管理のやり方が、もう昔と違う
実務的な面で言えば、若手教育の最大のネックは「もう昔とは違う」という点だろう。
現場監督の仕事は昔と違い、現場とデスクワークの両方の技術が必要となった。それゆえ書類の簡素化がたびたび話題になる。
だが、上述のように監督員の保険保身であったり、設計変更のための追加資料であったり、書類は簡素化どころか、増えているような気さえする。また電子化の進みとともに、さまざまなガイドラインが登場し、毎年覚えることや確認することが増える一方である。
よってデスクワークをいかに効率的にこなすかが、技術者としての能力であり、疲労軽減にもつながる時代になってきた。最近では、さまざまな施工管理ソフトや ICTとの連動など、今まで1日がかりだった書類も半日で作成できるようになったし、日報と連動しているソフトやタブレットの活用、各ソフトの互換性も高くなっている。
しかし残業は減らない。何故か?
単純明快に、こうした新しい技術を「使わない」からである。使わない人は「難しい」と言い訳をするが、これは勘違いで慣れていないだけだ。CADを始めた頃、手書きのほうが早いと感じたのと同じだ。または、他製品のCADソフトを使ったときや、しばらく使っていなかったCADソフトを使ったときも同じだ。電子機器に慣れてくると新卒の技術者のほうが、ベテランよりも業務が早い可能性すらある。事実、残業せずに使いこなしている若手もいる。
しかし、そもそも最新技術を使うという概念がないベテラン技術者は、若手の教育に関しても当然、ソフトの存在自体を教えていないか、あるいは自分自身の様式や、やり方以外を認めていないケースがある。
もちろん管理方法は10人技術者がいれば10通りだし、会社によって定められている部分もあるだろうが、最新技術を導入している会社であれば使うべきだし、それが若手技術者の育成に必須になりつつある。