
日本社会全体で、深刻な人手不足が常態化しています。特に地方や建設業など、一部の業種では人材獲得難が経営を直撃し、人手不足を理由とした倒産件数は過去最多を更新し続けています。
なぜ正社員不足は高止まりしているのでしょうか。
最新の統計データに基づき、業種間の深刻なギャップや、非正社員との対照的な傾向、そして倒産の背景にある構造的な課題をみていきます。
3人分の仕事を2人で回す…人手不足が常態化する、地方・建設業の疲弊
「正直、もう限界が近いですよ」 地方で中堅建設会社に勤める佐藤健一さん(45歳・仮名)。
中堅の現場監督として、複数の工事現場を統括する佐藤さんの表情には、慢性的な疲労が色濃く浮かんでいます。
「ここ数年、とにかく人が足りません。特に若い世代が現場監督の仕事に定着してくれない。
うちの会社でも、ここ2年で入った20代の若手は3人いましたが、全員1年以内に辞めてしまいました」 建設業界の人手不足は今に始まったことではありませんが、佐藤さんの職場では、その影響が現場のオペレーションを直撃しています。
「本来なら3人の現場監督(施工管理技士)で回すべき規模の案件を、今は私ともう一人のベテランの2人で見ている状態です。
日中は現場を回り、夕方事務所に戻ってからが書類作成の本番。図面チェック、発注書、安全管理の報告書。
どれも工事を進めるために必須ですが、物理的に手が足りない。
これが一時的な繁忙期ならまだしも、ここ1年以上、毎月似たような状況が続いています」 働き方改革関連法によって、建設業でも2024年4月から時間外労働の上限規制が適用されていますが、人手不足がその遵守を困難にしています。 「会社も求人は出しています。
ハローワークはもちろん、民間の求人サイトにも高い掲載料を払っていると聞いています。
ですが、応募がまず来ない。たまに応募があっても、希望する給与と、うちの会社が出せる額に大きなギャップがある。
結局、今いる社員で何とか回すしかないという悪循環です」 厚生労働省が公表している『一般職業紹介状況(職業安定業務統計)』によると、「建設躯体工事従事者」における有効求人倍率は、常に全職業の平均を大きく上回る高水準で推移しています。
たとえば、直近のデータ(令和7年9月分)では、全職業の有効求人倍率が1.10倍程度であるのに対し、「建設躯体工事の職業」では7.85倍。
職種によっては1人の求職者を8社近くが奪い合う異常事態となっています。
「このままでは、新しい案件を受注するどころか、今請け負っている工事の品質を維持するのも難しい。
工期に追われるなかで無理を重ねることは、事故を誘発しかねない。安全第一といいながら、安全を確保するための余裕が現場にない。こ
れが一番恐ろしいことです」と、佐藤さんは声を落としました。
「高止まり」する正社員不足、倒産件数は過去最多を更新
株式会社帝国データバンクが2025年10月、全国2万5,111社(有効回答1万427社)を対象に実施した調査によると、
正社員が「不足」していると感じる企業の割合は51.6**%に達しました。
10月としては4年連続で半数を超えており、前年同月(51.7%**)からはわずか0.1ポイントの低下にとどまり、依然として高水準で推移している実態が明らかになりました。
一方で、非正社員における人手不足割合は28.3**%**となり、前年同月から1.2ポイント低下しました。
こちらは10月としては2年連続で3割を下回っており、正社員とは対照的に改善傾向がみられます。
深刻化する業種別ギャップ、建設・ITで人材獲得難。 正社員の人手不足を業種別にみると、その深刻さには濃淡があります。
最も高い割合となったのは「建設業」で、70.2**%**(前年同月比+0.6pt)に達しました。
調査(リリース文)では、「人手不足の影響により案件があっても受注できない」(土木工事、奈良県)といった、機会損失に直結する切実な声が上がっています。
次いで「情報サービス業」が67.7**%**(同-2.5pt)で続きました。AI活用やDX化の進展に伴い、調査(リリース文)からは「必要とされるITエンジニアのスキルへの期待値が高くなっている。
以前より案件とITエンジニアのマッチングが難しくなっている」(ソフト受託開発、東京都)という、需要とスキルのミスマッチに悩む状況がうかがえます。
このほか、ドライバー不足が続く「運輸・倉庫」(67.1**%**)など、全51業種中8業種で6割を超える企業が正社員不足を訴える結果となりました。
DXが非正社員不足を緩和か、「飲食店」は大幅改善。 非正社員の人手不足が改善傾向にある背景には、何があるのでしょうか。
業種別で最も不足感が強かったのは、インバウンド需要などの影響を受ける「旅館・ホテル」(59.0**%**)でしたが、正社員とは異なり、全51業種で6割を下回りました。
特に注目されるのは「飲食店」(53.4**%**)です。不足割合は依然5割を超えているものの、前年同月からは10.9ポイント、2年前からは28.6ポイントと大幅に低下しています。
この点について、調査では、DXやスポットワークの普及による生産性向上が背景にあるとみられる、と分析しています。
続く「人手不足倒産」、地方の若手流出が課題。 正社員の不足感が解消されないなか、企業経営への影響も表面化しています。
調査(リリース文)によると、「人手不足倒産」は2025年1〜10月の累計で359件に達し、すでに2024年通年の342件を上回り、3年連続で過去最多を更新しました。
調査では、「若い人材は大手企業への就職が多く、求人を出しても応募者がいない」
(舗装工事、岩手県)といった地方からの若手人材の流出や、ハイスキル人材の不足が、正社員不足を高止まりさせる要因と予想されています。
[参考資料] 厚生労働省が公表している『一般職業紹介状況(職業安定業務統計)』 株式会社帝国データバンク『人手不足に対する企業の動向調査(2025年10月)』https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001190.000043465.html



