海外の建設現場で施工管理をしていた私は、1年の任期を終え、先日帰国した。帰国してまだ1か月ほどしか経っていないが、もうはるか昔の出来事のように感じる。
不思議と嫌な思い出はよみがえらず、楽しかったこと・感動したこと・感心したことなどが大半だが、帰国する約1か月前に受けた「会社からの衝撃の発表」は今も鮮明に覚えている。
突然の首切り宣言
帰国まで残り1か月となったある日、日本の親会社から来た統括責任者に呼び出され、こんな話をされた。
「業績が悪く、会社の規模を縮小する。まずは希望退職者を募り、その後首切りをする」という内容だった。(私自身は日本の親会社との契約なので首切りの対象にはならない)
統括責任者との面談後、現場の色々な人に話を聞いてみると、どうやらこの会社は20年ほど前にも同じことを実行したらしい。その時は、約124人いた社員数を一気に24人に減らした!というので驚きだ。
人数を減らして再出発のために何か新しいことをやったのか?と聞くと、ただ新たな仕事が取れるまで待ち、また徐々に盛り返して、今の規模になったという話だった。
業績が悪くなって会社の規模を縮小したのであれば、なぜ業績が悪くなったのかその原因を探り、改善する策を考えなければまた同じ事態が起こる可能性がある。会社としてどのような手を打ったのか聞きたかったが、どうやらただ規模を縮小して出費を減らし、仕事量が増えるまで耐え忍んだだけらしい。
現在、会社には130人ほどが在籍している。ちょうど20年前のリストラがあった時期と同じくらいの社員数だ。今回はまずここから社員数を半分に削減する計画らしい。
誰を残して誰を切るかはすでに秘密のリストができているようで、残ってほしい人にはすでに打診してあると現地人の所長に聞いた。話によると、どうやらほとんどの幹部連中は残り、若い人たちだけが切られるようだ。人選を内部の人間に任せたら当然そうなるだろう。
そもそも会社は業績が上がらない理由や改善策を真剣に考えているのだろうか。私が思うに、業績悪化の理由は建てる建築の品質が悪く、その評判が広がり、仕事が取れなくなったのではと考えている。
建設業の会社として建築の品質の向上を目指す集団を作らなくては、鳴かず飛ばずの会社になることくらい目に見えている。古いやり方に固執するのはやめて、新しいことに挑戦しなければ道は開けない!と私は思うが、会社にそんな意思はなく、この会社は今後も人員整理をしてただただ耐え忍ぶだけの時間を過ごすつもりらしい。
建築の仕事を舐めている
実際に現場で働いてみて感じたことだが、この会社には欠点が2つある。
1つ目は、日本に親会社があるが、この会社(子会社)のコントロールが全くできていないことだ。そもそも親会社は日本国内ではゼネコンの仕事はしていない。そんな会社がどうして総合建設の仕事を海外で始めたのか謎だ。
日本でゼネコンとして活動している・していないはそこまで重要ではないが、ゼネコンとしての経験や指導力があまりに脆弱で、ゆえに、海外での建築の品質に関しては全て現地任せで、その結果、出来上がった建築の品質は驚くほど低い。
そんなことでは、この国に進出してる他の日系企業を相手にし、勝ち続けるのはかなり難しい。しかも、競合する相手は、日本のスーパーと名の付くゼネコンだ。努力や工夫をしないと圧倒的に勝ち目がない。
競合となる他社の実力を分かっている人が現地にいないことにも問題がある。提案力や実力すべて劣っているが、何と言っても一番大切な要素である設計力と建築図面においても全て現地の人間任せで、レベルはかなり低い。
現場を管理する人間の教育がまともにできていないせいもあるが、全てサブコン任せになり、その結果どうなっていくかは言うまでもない。日本の親会社も現地の人間たちも全員建築の仕事を舐めている。そんなやり方でまともな建築ができるわけがないだろう!
非情な日本人
2つ目は、日本の親会社と現地(海外の現場)の相互連絡や話し合いが全くないことだ。
現場でこんなことがあった。1人の電気担当の若者が私の所に来て、A4の紙を差し出し、「これって何て書いてあるのか教えてほしい」と私に聞いてきた。紙を見ると電気のケーブルの直径、許容電流量など、日本国内の電気配線に関する規則が書いてあった。
信じられなかったのは、日本語の資料を平気で外国人に渡していることだ。神経が理解できないし、情けないし、恥ずかしいし、許せない!という気持ちになった。
「これは誰からもらったの?」と聞くと、次期社長と噂されてる日本人の名前が出てきた。正直言って呆れてしまった。だが、これがこの会社の実情だ。
書類の中身を一通り訳して説明した後で「いつもこうなのか?」と聞くと、「大体そうだ!」と返事が返ってきた。「でも内容分からないだろう。いつもどうしてるんだ?」と聞くと、「事務所に持って行って、みんなで数字を見ながらこれはあのことを書いてあるに違いない」などと話し合って何とか理解しているらしい。
「なぜ、日本語じゃ分からないからせめて英語に訳した資料にしてくれ!と言わないんだ?」と聞くと、「そんなことは聞けない」と言う。他の人にも話を聞いてみたが、今回がたまたまではなく毎度のことだそうだ。「何とかなってるとはいえ、勘違いする可能性もあるし、困るだろう?」と言うと、「でもずっとこの調子だから…」と気まずそうな顔をしていた。
私は腹が立った。こんなことをやってるから連絡や伝達がうまくいかないし、これでいいと思ってる日本人があまりに情けなく、ひどすぎて恥ずかしくなった。この親会社が抱える現場では、話し合いどころか、意思の疎通すら無いに等しい。ここまでひどいとは思わなかった。これでは何をやってもうまくいくはずがない。
この文章を読んでる人は「まさか~!ほんまかいな!」と思うだろうが、これは実話だ。とても掲載できるような話ではないが、実際に現場ではこんなことが起こっている!ということを知ってほしい。