「真面目に仕事をする人は素晴らしい」
日本では、ほとんどの人がそう思っているのではないだろうか。
もちろん、真面目に仕事をすることは良いことだ。しかし、建設業界では、真面目に仕事をすることが命取りになることもある。
わたしがそう感じた出来事をお話ししよう。
性格が真逆な中途入社の2人
数年前、会社に2人の中途採用者が入ってきた。2人とも業界での経験はほとんどなく、年齢も同い年で、違うところといえば性格くらいだった。
性格は面白いくらい対照的で、A君はよく言えば陽気で悪く言えば適当。もう1人のB君は、物静かで冗談もほとんど言わないような真逆のタイプだった。
仕事はというと、A君は周りの目など気にせずに定時には退社、仕事で怒られても顔色ひとつ変えず数時間後にはすぐに切り替えて全く気にしない様子から、会社での評判はあまり良くなかった。
一方、B君は、毎日黙々と残業をし、仕事でも誰からの言うことも真剣に聞き、会社からの評判も高かった。
・・・さて、A君とB君のどちらが先に現場所長になったのでしょうか?
いち早く現場所長になったのは?
この2人のうち、いち早く現場所長デビューを飾ったのは・・・
「A君」だった。
全員にこの事例が当てはまるとは限らないが、2人の事例から学ぶことは多い。実際にどのような要因があったのか、2人の成長の記録を見ていこう。
A君の現場所長までのキャリア
A君は会社からの評判は良くなかったが、職人や社外の人間からの評判は抜群に良かった。その理由は、持ち前の明るい性格から、さらっと人の懐に入ることができていたからだった。
横着な性格だったため人に頼み事をすることも多かったが、お願い事を受け入れてもらうことが自然とできていたのだ。
さらに、A君は分からないことがあると悩む時間すら無駄だと思い、悩んでいる時間で仕事時間が伸びるくらいなら上司に怒られてでも聞いたほうが早いと、物おじせずにどんどん分からないことは上司を利用して解決していた。
会社では残業もしないし、自分で何もしないと思われていたA君だが、ある時、下請けの業者が名指しで彼を所長にしてくれと懇願してきた。それを聞いた会社の上層部は驚いたが、下請けの頼みならと、彼を現場所長として現場に出すことにした。
それはA君が入社して5年目のことだった。本人もびっくりしていたようで、自信がないと少し弱音を吐いていたが、持ち前の陽気さで現場の方の力をフルに活用しながら、工事を乗り切ってキャリアを積んでいった。
B君の現場所長までのキャリア
一方、B君は会社からの評判は抜群に高かった。毎日遅くまで残り、周りは資格が取れれば現場所長になるのも早いと期待していた。しかし、真面目な彼には決定的な弱点があった。
それは、自分で全て考え込んでしまうことだ。分からない壁にぶち当たった時に、自分でいつまでも考えて、解決しようとする性格だった。ゆえに、彼の苦悩だけでなく、成長スピードが非常に遅いことにすら誰も気づいていなかったのだ。
真面目なのだが、結果、施工計画書や、管理に必要な応用技術が全く身についていなかった。8年経験を積んで、やっと所長を任せるとなった段階でも、彼は自分にはまだ早いと謙遜してしまい、結局初めて現場所長としてデビューしたのは10年経ってからであった。
真面目だけが正義じゃない
この2人の結果から感じたことは、真面目だけが正義じゃないということだ。
確かに、努力する人間が馬鹿を見る世界ではいけないと思うが、建設業界では、どちらかといえば物おじしないイケイケな性格の人間のほうが、成功・キャリアップしている人間が多いと周りを見ていて感じる。
ここだけの話だが、現場所長としてバリバリにキャリアをこなしている人は、結構、適当な性格だったりする。常識にとらわれずに、いかに自分なりに仕事をこなしながら成長できるかが、この業界にとって重要な要素なのかもしれない。