見下されている土木施工管理技士
われわれ建設業界人はよく、「建築と土木の施工管理技士は、どちらが偉いの?」と比べられる。
何をもって偉いのか分からないし、そもそも分野が違うから比べること自体がまず間違いなのだが、世の中の風潮では建築のほうが偉くて優秀で、土木のほうがバカだと思われている。
建築の施工はミリ単位の細かな作業が伴い、土木の施工よりも細かな技術が要求されるといった実にしょうもない理由で、土木は建築よりも下に見られている。
確かに建築施工管理技士は土木施工管理技士よりも細かい施工管理が要求されるのはその通りかもしれない。
土木施工管理技士は、構造物を造る時でも規格が設計値内に収まっていれば、多少の誤差は許容範囲であることが多い。
しかし、建築施工管理技士の場合、ビルや建築物などを設計するため、小さな誤差で建物そのものの設計が大きく変わってくる。そういった細かな作業を要求されることから、建築施工管理技士は土木施工管理技士よりも上というイメージが勝手に定着したのであろう。
しかし、むしろ土木のほうが難しいから、みんなに理解されていないんじゃないだろうか?
建築大工に土木の話は理解できない
ちなみに、私は土木の施工管理技士だ。そんな私に、「建築の施工管理の方が難しいんでしょ?」と言ってくる輩がたまにいる。
しかし、はっきりと断言しておこう。われわれ土木施工管理技士は、建築施工管理技士に劣ってなどいない。むしろ優れていると言っていい。
当たり前と思われるかもしれないが、建築の施工管理をしている人間がいきなり土木分野に飛び込んでもほとんど使い物にならない。
例えば、型枠作業の際にも、建築大工の型枠の組み方と、土木作業員の型枠の組み方は異なる場合があるように、建築と土木は全く性質が異なるからだ。
一番代表的なのは、「レベル回り」という考え方が建築大工には理解できないことだろう。土木分野での型枠は、折れ点と縦断勾配が重なった複雑なものを組み立てることが多い。その際に、必ず必要となってくるのが「レベル回り」という考え方である。
型枠の折れ点の部分で縦断勾配が変わっている場所では、水平器などを用いて、折れ点から水平に回転させながら型枠を組み立てる場所をマーキングしていく必要がある。この作業をせずに、型枠をスケールの値で設計値通りに組み立ててしまうと、そのポイントだけ構造物の幅が変わってきてしまう。
建築大工にこのことを説明しても、今まで理解してくれたことは一度もない。
応用力とスピードも土木の方が上
土木分野は、応用力を建築分野よりも多く求められる。建築は基本的に用意された材料を使って図面を見れば、問題なく施工できる状況がほとんどだからだ。
しかし、土木は山の地形や地盤などによって施工状況が大幅に変化するため、現場ごとにその場その場での判断が求められる。
法面の現場ならば、既設の水路が逆勾配に設置してあり水の排水が出来ていない現場にも直面したこともある。地形的に勾配をつけて自然排水するためには、地盤を大幅に下げる必要があった。しかし、そのような大掛かりな工事をしている時間と余裕などなかった。
そこで、既設の水路を撤去し、新しい水路を再設置するのではなく、ある程度の深さまで床掘を行い、大型の集水桝を設置して、その通りにコルゲート管を通して埋め戻しを行った。そうすることで、今まで排水されなかった水が、コルゲート管を通して綺麗に排水されるようになったのだ。
土木技術者は常に、最善の施工方法とコストを考えながら施工している。一つの仕事を行うのに、ここまで頭を捻って考えることがあるだろうか?
局、建築と土木どっちがバカなのか?
ここまでの話を聞いて、まだ建築よりも土木の方が下だと言えるだろうか。
そもそも、土木施工管理技士と建築施工管理技士を比べることが間違っている、と思うかもしれない。
だが、待ってほしい。勝手に比べられて勝手に低い評価を受けているのはわれわれ土木施工管理技士だ。決して建築施工管理技士に劣っているとは思わないし、むしろ私からすれば「建築施工管理技士の方が優秀だ」と言っている人は何を基準に言っているのか、意味が分からない。
土木の仕事は単純なものではないし、誰でも出来ることではない。勝手な偏見と評価はあまりに失礼な侮辱であるからやめていただきたい!
まあ、私から一つ断言できることがあるならば、土木施工管理技士を勝手に見下しているあなたが一番バカだということだ。