
「建設DX」という言葉が飛び交って久しいですが、現場の皆さんの実感としてはどうでしょうか。
「結局、紙で出せって言われる」「システムが使いにくい」……
そんなボヤキが聞こえてきそうです。
(一社)施工管理ソフトウェア産業協会(J-COMSIA)は2025年12月に、全国の自治体職員を対象に実施した「建設DXと業務プロセスに関する実態調査」の結果を公表しました。
そこに見えてきたのは、華やかなDXの掛け声とは裏腹な、「紙」と「人手不足」に阻まれる生々しい現場の実態でした。
現場を苦しめているのは「図面」と「書類」
まず、工事管理業務の中で「最も負荷が高い工程」についての回答結果を見てみましょう。

工事管理業務で最も負荷が高い工程(上位4項目) / 引用元:(一社)施工管理ソフトウェア産業協会(https://www.jcomsia.org/about/pressrelease/20251225)
「図面の作成・修正・共有(29.2%)」と「提出書類(施工計画書・日報など)の作成・確認(26.8%)」の2つだけで過半数を占めています。
現場の安全管理や品質管理といった「本質的な業務」よりも、図面や書類、写真だけでなく果物の整備と確認作業に、受注者(施工会社)だけでなく発注者(自治体)も忙殺されているのです。
また、とくに注目すべきは「図面や設備台帳の管理方法」です。なんと「紙の図面・台帳が正本で、書庫等で保管」という回答が41.6%で最多。4割以上の自治体が「紙が正本」と答えているのです。

図面・設備台帳の主な管理方法 / 引用元:(一社)施工管理ソフトウェア産業協会(https://www.jcomsia.org/about/pressrelease/20251225)
「紙、Excel、専用システムが混在」という回答も合わせると、まともに一元管理できている自治体はごくわずかと言えるでしょう。
これでは、「あの現場の過去の修繕履歴が見たい」と思っても、ホコリをかぶった書庫からキングファイルを探し出すだけで半日が終わってしまいます。
実際、調査でも「過去履歴の検索に時間がかかる(53.0%)」が課題の上位に挙がっています。
「連絡は電話とFAX」がいまだに8割超
DXの初歩中の初歩でもある「連絡手段」についても、現実はシビアです。
施工業者とのやり取りで使っているツールを聞いたところ、一番多かったのは「電子メール(84.2%)」で、次いで多かったのが「電話・FAX(81.8%)」でした。
ビジネスチャットの利用率はわずか4.8%。ASP(情報共有システム)も16.7%に留まっています。
「言った言わない」のトラブルを防ぎ、移動時間を削減するためのチャットやASPがこれだけ普及していないとなると、日中は電話対応に追われ、夕方はFAXを送る……という昭和のような働き方がなくならないのも納得です。
「3次元データ」なんて夢のまた夢?
今回の調査では、DX施策の導入状況について「二極化」が進んでいることも明らかになりました。
電子納品やASPといった基盤的なツールについては、「運用中」または「試行中」との回答が約4割あり、一定の浸透が見られます。
しかし一方で、BIM/CIM、遠隔臨場、点群活用といった高度な施策については、「関心はあるが予定なし」との回答が過半数を占めました。
国交省主導の直轄工事ではBIM/CIM原則化などが進んでいますが、多くの現場監督が関わる地方自治体の工事では、高度なICT施工以前に、「普通の電子化」すらままならないのが現実です。
電子納品などの施策は運用が進みつつあるものの、「3次元でシミュレーション」といった自治体側の設備や投資が必要な施策は「雲の上の話」であり、まずは「写真整理を楽にさせてくれ」「遠隔で立会させてくれ」という足元のニーズに応えることの方が先決ではないでしょうか。
阻む壁は「予算」「人材」「やり方不明」
では、なぜ自治体は変われないのでしょうか。
決して職員の方々がサボっているわけではありません。調査から見えてきたのは、自治体特有の構造的な課題です。
DX推進の阻害要因として最も多くの票を集めたのは「予算獲得が難しい(56.5%)」でした。次いで「人材不足(52.6%)」、「施策理解不足(47.4%)」と続きます。

建設DX推進の課題 / 引用元:(一社)施工管理ソフトウェア産業協会(https://www.jcomsia.org/about/pressrelease/20251225)
「予算がない」という回答の裏には、「いくら予算をかければ、どれだけ業務が減るのか」という費用対効果が見えにくいという事情があるようです。
前例踏襲が基本の役所組織において、効果が未知数のDXツールに予算をつけるのは至難の業。「よその自治体はどうやってるの?」「いくらで入れたの?」という実績データがないと動けない、というジレンマが浮き彫りになりました。
「書類のフォーマットを統一してくれ!」
最後に、この調査で現場監督の皆さまからも最も共感を呼ぶであろうデータ紹介します。
「国や業界団体に統一・標準化してほしい項目」を聞いたところ、圧倒的多数(58.4%)で「提出書類の標準フォーマット(施工計画書、日報など)」が1位となりました。
自治体ごとに微妙に違う書式、担当者が変わるたびに指摘される「てにをは」の修正……。普段、現場監督の皆さまも苦労されている部分かと思いますが、これらが統一されるだけで自治体職員の残業時間も劇的に減るはずです。
3次元データやAIといった派手な技術も大切ですが、現場が真に求めているのは、こうした地味でも効果絶大な、足元の取組みなのです。
まずは「守りのDX」から始めよう
本調査を実施したJ-COMSIAは、今の自治体に必要なのは、高度な技術導入以前の「図面・書類のデジタル整理と標準化(守りのDX)」であると結論付けています。
まったくもってそのとおりです。 最先端の機材やソフトを使っていても、その報告書を紙で印刷してハンコを押して持参しているようでは、生産性は上がりません。
J-COMSIAでは今後、自治体向けの勉強会や、導入効果を可視化する取組みなどを進めていくとのこと。現場の悲鳴にも似た「あるある」が解消され、建設業界に携わるすべてのみなさまが、本来の「ものづくり」に向き合える環境が整うことを切に願います。
【調査概要】
- 調査期間:2025年11月1日〜12月15日
- 調査方法:各自治体へのアンケート調査
- 有効回答数:209
- 実施主体:一般社団法人施工管理ソフトウェア産業協会(J-COMSIA)
※引用元:【調査レポート】全国209自治体の建設DX実態。「DX以前の課題」が浮き彫りに(https://www.jcomsia.org/about/pressrelease/20251225)



