先日、とある建設会社の社長さんから、若手社員の退職に関するエピソードを聞いた。なかなかおもしろい話だったので、ここで紹介しておく。編集は多少加えたが、当然実話だ。
現場とICTがデキる特別な存在
辞めた社員というのは、入社5年目ぐらい、24才ぐらいの社員Aくん。もともと作業員で入った子だったが、ICTと現場監督を任せていた。
わからないことは自分で調べるような、イキイキと仕事をする「デキる子」だった。県のICT施工研修の講師なんかも務めていた。現場とICTができる若い子という意味で、ウチの会社では特別な存在だった。
4ヶ月のうち、”遅刻欠勤しなかった”のは1週間だけ
ただ、問題もあった。遅刻欠勤の常習者だったのだ。あまりにヒドいので、Aくんがどれだけ遅刻するか、チェックしてみた。その結果、4ヶ月間のうち、3ヶ月3週間遅刻していたことがわかった。
つまり、遅刻欠勤しなかったのは、1週間だけだったということだ。
その後も、スゴかった。Aくんは「体調が悪いでーす」と言って、1週間休んだ。そこから続けて、さらに1週間無断欠勤した。
「パソコンだけやらしてくれるなら、会社にいてやっても良いですよ」
「これはいかん」ということで、Aくん本人とお母さんを会社に呼んだ。お母さんは、Aくんが会社を休んでいることは知っていたが、遅刻をしていたことは知らなかった。
そこで、いろいろ話をしたのだが、Aくんが自分の耳を疑うようなことを言った。
「作業員も監督もやりたくないです。パソコンだけやらしてくれるなら、会社にいてやっても良いですよ」と。
この言葉で、「自分がいなくなったら会社は困るので、辞めさせられることはない」と思っているな、と確信した。
「Aくんにカン違いさせてしまったな」という後悔
この言葉には、お母さんも唖然としていた。お母さんに「どう思います?」と聞いたら、「私ならクビにします」と言った。「ですよね」と返した。
このやりとりを聞いた途端、Aくんの顔色が変わった。「え、まさか辞める雰囲気ですか?」という感じだった。
そこで、Aくんに「ちゃんと会社来る?」と聞いてみた。お母さんが「社長も鬼じゃない。ちゃんと会社に行くと言えば、雇い続けてくれる。『ちゃんと会社に行く』と言いなさい」と説得を試みた。ところが、それを受けたAくんは、「もういいわ。辞めます。もういいっす」と言った。
それで辞めた。
遅刻欠勤以外にも、問題があった。Aくんはよくウソもついていた。あと、態度も悪かった。無断で3日間現場を休んでも、ケロッとしていた。当然謝りもしない。
現場には来ない、ウソはつく、態度は悪いということで、現場の人間からは嫌われていた。
今になって悔やまれるのは、「Aくんにカン違いさせてしまったな」ということだ。
社長の話は以上である。
「好きなことだけ仕事にする」というのはアリなのか?
世の中には、「好きなことを仕事にする」という言葉がある。Aくんはおそらく、好きなことを仕事にできたと感じられた瞬間はあっただろう。ただ、Aくんにカン違いがあったとすれば、おそらく、「好きなことだけ仕事にしようとした」ことだと思われる。
「世の中はカン違いで成り立っている」という言葉もあるので、一概にカン違いは良くないとは言えないわけだが、多様な働き方が称揚されている昨今とは言え、サラリーマンとしては、さすがにこれは通用しないだろう。
Aくん自身が特別な子だったのか、イマドキの若者は多かれ少なかれこんな感じなのか、私には定かではないが、土木業界にとって、「こういう子がいる可能性がある」ということを頭の片隅に置いておくことは、必要なことだと思われる。