施工の神様

【現場レポ】令和2年7月豪雨から1年。氾濫した球磨川、被災地のいま(施工の神様より)

被災したまま取り残された家屋(球磨村渡地区)

氾濫から1年経った球磨川の復旧の様子を見てきた

「令和2年7月豪雨」から1年が経った。

最も大きな被害が出た球磨川流域では、現在も河川、道路などの復旧工事が進められている。今年1月には球磨川水系緊急治水対策プロジェクトが策定され、今後、流水型ダムをはじめ、河道掘削、引堤、遊水地など新たな河川対策が本格化する。

その一方、球磨川沿いを走るJR肥薩線については、駅舎や線路などが流されたり、土砂で線路が埋まるなど、こちらも大きな被害を受けたが、復旧のメドが立たず、その多くが被災からほぼ手つかずのまま。現在も運休が続いている。

6月下旬に球磨川を訪れた際、九州地方整備局八代復興事務所のご協力を得て、人吉市から八代市まで、球磨川沿いを車で約50kmほど走りながら、復旧現場を視察する機会を得た。被災地の1年後の様子についてレポートする。

八代復興事務所職員とともに被災地入り

八代復興事務所は主に球磨川の河川、道路の復旧復興工事を担当する。もともとは八代河川国道事務所内に八代復興出張所として2020年9月に開設。21年4月、八代復興事務所として、新たに設置された。同事務所では、主に球磨川(八代市〜人吉市)の河川復旧工事、ほぼ同じ区間の国道219号の道路復旧工事(権限代行)を担当する。

九州新幹線新八代駅近くにある復興事務所から災害復旧現場(人吉市)までは、50km程度ある。今回被災した国道219号は、八代市と人吉市を結んでいるが、被災前から、八代市〜人吉市間の移動道路として利用されることは少なく、もっぱら九州自動車道が利用されていた実態がある。下道だと1時間半ほどかかるが、九州道を使えば30分程度で行けるからだ。

発災後、九州道の八代IC〜人吉IC間は、被災した国道219号の代替路として、無料区間となっているが、住民からは「移動が便利になった」と歓迎されているそうだ。JR肥薩線が運行中止になっていることも考えれば、九州道が周辺住民の日常生活を支えていると言っても、過言ではない。

今回の取材では、八代復興事務所からは、事務所の車両に乗せてもらい、九州道を使って人吉市まで移動した。その後、国道219号を復旧現場を見ながら走った後、事務所に帰ってくるというルートを辿った。

仮橋設置が完了した球磨村渡地区

国道219号の八代〜人吉間は、発災後間もなく応急復旧が完了し、通行可能になっているが、通行できるのは住民や緊急車両など一部車両のみで、現在でも一般車両は原則通行禁止となっている。一般車両が通行する場合は、許可証が必要になる。

物見遊山の車両などによって交通量が増えると、区間内で行われている工事などに支障が出る恐れがあるからだ。通行規制の期限は未定となっており、当分は続けられる見通しだ。ちなみに、昨年8月に訪れた際は、許可証を所持していなかったため、追い返されたことがある。

球磨村渡地区に設置された仮橋「相良橋」

高速を降りて、国道219号に入り、しばらく走ると、球磨村の渡地区が見えてきた。前回もじっくり取材した場所だ。被災したままの家屋はまだいくつか残っているが、解体され、更地になっていたり、解体作業中の家屋もあった。球磨川に目を向けると、すでに土砂などは撤去され、崩落した護岸も応急復旧が完了している。なにより、前回なかった仮橋が設置されており、ずいぶん様変わりしていた。

渡地区は、球磨川の氾濫で、一帯が完全に水没した。集落は今後すべて撤去される予定だ。渡地区は事実上、消滅することになる。この辺の堤防は、50mほど広げる計画で、それに合わせて本橋の架橋も行われる予定だ。球磨村の方では付近の宅地かさ上げを検討中している。堤防や橋梁などの高さもそれに合わせる必要があるが、まだ宅地かさ上げの高さなどは決まっていないため、「まだなにもとりかかれていない」(八代復興事務所担当者)と言う。

橋脚だけが残されたJR肥薩線第二球磨川橋梁

ところで、仮橋から下流側に目を向けると、2~3の橋脚らしきものが取り残されているのが見えた。JR肥薩線の第二球磨川橋梁の残骸だと思われる。後に触れるが、JR関係のインフラの多くは、被災後そのまま放置されたままのようだ。

地盤もろともドライブインが流失

国道219号の権限代行区間は約50km。至るところで、復旧工事が行われている。

至るところに敷かれた片側交通規制

少なく見積もっても数百箇所がありそうだと感じたが、工事箇所数は、日々変動するので、「公表している数字はない」(同)とのことだった。工事箇所の多くは道路の川側車線に集中しているが、法面工事をしている現場も何箇所かあった。なので、片側通行区間が何箇所もある。

とあるカーブにさしかかったとき、「ここはもとドライブインがあったんですよ」(同)と言われた。見ると、ガードレールの外にはなにもない。

「なにもないでしょ。地盤もろとも、流されたんですよ」と続ける。あとで調べてみると、ドライブイン味里があった場所のようだ。川が大きく曲がっているようなところから察するに、相当強烈な水流が発生し、ごっそり流されたのだろう。「暴れ川球磨川」の一面を垣間見たような気がした。

国道219号から対岸を見ると、いたるところに護岸を応急復旧した白いブロックマットのようなものが点々と敷かれているのが見える。その後ろには県道が走っている。県道の後ろの一段高い場所に、ガードレールのようなものが続いているのも見える。JR肥薩線だ。

現在、この県道の復旧も権限代行で行われているが、道幅が狭いため、車両を通行させながらだと、作業ヤードが確保できない。

じゃあということで、県道の隣を並走するJR肥薩線の線路を代替路に転用。車両はこちらを通行させ、県道での工事を進めているということだった。JRには使用料を支払っている。鉄道線路を応急復旧工事の代替路として活用するのは、全国的にもかなり珍しいそうだ。

JR肥薩線の運行再開する意思があるのか?

JR肥薩線は、今回の水害で壊滅的な被害を受けた。瀬戸石駅舎は周辺施設もろとも跡形もなく流失したし、橋は流され、線路は土砂で埋まった。現在も運休が続いており、JRは代替タクシーを走らせている。驚いたのは、線路に堆積した土砂や流木などがそのまま放置されていることだ。

駅舎を含めすべて流失した瀬戸石駅

「JR九州は運行を再開する意思が本当にあるのだろうか」と思った。復旧には数十億円はかかるだろうし、それだけの投資を投資を回収できる見込みもなさそうだからだ。鉄道ではなく、タクシーやバスでサービスを継続するのが、現実的な方策かもしれない。

土砂や流木などが堆積したまま取り残されたJR肥薩線

1.2ha、3mのかさ上げを目指す八代市

今回の取材の締めくくりとして、八代市坂本町の坂本駅に立ち寄った。この一帯は、駅舎の上まで水に浸かった。市役所の出先である坂本支所も被災し、現在は移転し、仮設事務所として業務を行っている。

ただ、駅近くにある鉄工所らしき工場は、もとの場所で操業を再開していた。八代市では今回の水害を教訓として、坂本支所一帯の約1.2haを3m程度かさ上げするとしている。しかも、それを2024年度までやると言っているのだから、かなり大胆な政策だ。

この点、八代市の担当者に聞いてみると、「住民などとの合意形成、財源確保などはこれから」と話していた。思わず「本当にそれでいけるんですか?」と聞き直してしまったが、「ええ、今のところそれで進めています」と淡々と答えた。「これが例の『創造的復興』というやつか」と思った。いろいろ言いたいことはあったが、とりあえず今後の行方を見守ろうと言葉を飲むことにした。

復旧復興はまだまだ遠い道のり

10ヶ月ぶりに被災地を訪れて思ったことは、「球磨川水害の復旧復興の道のりはまだまだ遠い」ということだった。

創造的復興の名のもとに、被災自治体のまちづくりと道路や河川などのインフラの復旧が強くリンクされているからだ。この政治的スローガンが、復旧復興の足を引っ張る「呪縛」とならないことを願うばかりだ。

 

施工の神様より


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