「60cm深いのですが…」”過掘施工”が招いた激詰めと土下座(施工の神様より)

施工の神様

私は地方自治体の技師として働いています。

「60cm深いのですが。」という恐怖の電話からこの事件は始まります。

今回私が経験した”60cm過掘施工”の体験談を、①何が起きたか、②行政として動いたこと、③対応に際して考えたこと、④この体験から言えることの順で書いていきます。

順調な工事を暗転させた”レベルの読み間違い”

ため池の防災事業の一つで、全面改修工事を発注、施工していました。

立会も何度か行い終始順調に思えた最中、工事中盤で業者から、「計画より高さが60cm深いのですが。」という報告を受けました。

その言葉の意味が理解できず、現場に直行しました。レベルを確認すると、全体的に60cmほど計画高より深くなっていました。原因は業者が設置した新点のレベルの読み間違いでした。

当初図面にはKBMを記載しており、業者はKBMを基準に新点を3点設置しました。2点は同日に設置、1点は翌日に設置したとのことです。最初に設置した2点のレベルを読み間違えており、翌日設置した1点は正しい読み値でした。

工事中盤で発覚したのは、KBM値と翌日の1点は正しい標高値であり、業者は施工箇所から読みやすい基準点から測量をしたため、正しい標高値を使用したときは設計値と合い、発覚が遅れました。

今となっては、新点設置時の往復観測の徹底、立会時にKBMからレベルを確認することで防げました。

県はブチギレ、ため池管理者には土下座級の謝罪

私が行ったことは、①役所内部での調整、②県への報告・相談、③地元への説明、④業者との調整の4点です。それぞれ順に書きます。

①役所内部での調整

上司への現状報告及び原因の報告、工期延期手続き、今後の現地対応方針の相談を行いました。現状は設計値より60cm深く、業者のミスと自分の確認不足が原因であることを報告しました。工事のやり直しもしくは設計やり直しどちらにせよ、工期内完了が不可能であるため、工期延期の手続きを踏みました。

また、今後の方針として、やり直しが可能か、設計を変更すべきかを協議しました。やり直す場合、盛土での段切りとなるため、不安定な構造になりやすく、堤体上部には黒ボク土が確認されたため、軟弱部に構造物を設置してよいかなどが議論されました。

②県への報告・相談

今回の工事は県の補助事業を利用して行っておりました。そのため、現状の報告、工期延期に伴う事務手続き、現地対応の方針の報告を行いました。

当初県に対して、黒ボク土が確認されたため、基礎地盤まで掘り、結果として当初設計より60cm深く掘る結果となったと説明をしました。

しかし担当者から、「黒ボク土及び基礎地盤の強度や地盤支持力、構造物を設置したときの安定計算等はして、設置可能か不可能か検討したのか。なぜ60cmの箇所が基礎地盤だといえるのか。58cm地点は基礎地盤ではないという証明はしたのか」などを激詰めされ、私では手に負えない状況となり、遂には過掘施工および立会時の確認不足であることを白状しました。担当者にブチギレされたのは言うまでもありません。

その後は工期延期の事務手続きに必要な書類作成、資料整理、対応方針の説明を行い、了解を得ました。

③地元への説明

謝罪、現状の報告、現地対応の方針説明をしました。ため池管理者にまず土下座級の謝罪をしました。今回のミス及び工期延期により耕作に影響が出たことへの謝罪です。管理者の方は優しく受け入れてくれ、今後どのように対応していくかの説明を行い、了解を得ました。

④業者との調整

今後の現地対応のすり合わせ、実現可能な工期の相談、手戻し工事費用は負担できないことの説明を行いました。業者目線で、完全やり直しがため池の安定度確保を前提に可能か、再設計するならどのように変更するのがベストか(ため池の安定度、遮水性、施設の利便性、高さ関係等)を現地で協議しました。

また材料発注及び実働期間、書類作成期間を考慮した実現可能で最速の工期の協議、手戻しにかかる費用は負担できないことの協議を行いました。

「やり直し」か「再設計」か、業者のミスを公開すべきか

行政の立場で考えたことは①完全やり直しをするか、再設計を行うか、②業者の施工ミスを公開すべきかどうかの2点です。こちらもそれぞれ順に書きます。

①完全やり直しをするか、再設計を行うか

発注者として一番簡単なことは、完全やり直しの指示を出すことです。ただ今回の場合、本来切土施工となる箇所が盛土施工となること、黒ボク土のある軟弱地盤部に構造物を設置する必要が出ることが問題となり、役所内部及び業者と協議をした結果、現状をベースに再設計することなりました。

現地測量、取水及び排水施設の水理計算、ため池堤体の堤高及び余裕高の計算、図面作成、数量計算、積算の大幅な変更が発生し、かなり時間を要しました。

②業者の施工ミスを公開すべきか

今回の場合業者の施工ミスとして扱うことは可能です。その際、業者への罰金の発生、指名停止(市、県、国の事業)等のペナルティーが必須となることが、規定により発覚しました。

中小自治体にとって、優良企業1社が長期の指名停止になることは相当の痛手となります。今回のような60cmの過掘は役所の工事としても前代未聞であったため、担当課以外の課とも協議を行い、施工ミスを公開すべきかを検討しました。

基本の徹底が現場の命運を分ける

今回のミスは、新点を設置した際のレベルの読み間違いと、立会時の確認不足です。測量及び工事監督の基本の部分でのミスでした。

このミスを防げなかったかと言われれば、確実に防げました。現場は設計通りにはならず、ミスも起こります。ただ、発生するミスには初歩的で、工事初期段階に防げるものが往々にしてあります。

この一件で、私は立会時にレベルの確認を行うことを徹底するようになりました。また、基本の徹底が確実に工事を進めるコツであると、体で学びました。

なおこの事件後に、別工事でレベルの読み間違いに気づいたことがあるのはここだけの話です。

 

施工の神様

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