
なぜベテランでも初歩的なミスをするのか?
現場で「どうしてあんなベテランがこんな初歩的なミスをしてしまったんだろう?」と驚くようなトラブルが起きたことはありませんか?
事故が起きると、私たちはつい「慣れによる油断だ」「もっと注意して作業しろ」と精神論で片付けてしまいがちです。
しかし、実は人間の脳のメカニズム上、「経験を積んで作業に慣れること」自体が、重大なエラーを引き起こす原因になるとも言えます。
今回は、人間の行動メカニズムを説明する「SRKモデル」を使って、現場の「思い込み」や「取り違い」と、それをどう防げるだろうということを考えてみます。
SRKモデル
人間工学の分野で知られる「SRKモデル」では、人が情報を処理して行動を起こすまでのプロセスを、
脳の負担度合いによって以下の3つのレベル(ループ)に分けています。
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知識ベース (Knowledge): 初めて直面する状況、マニュアルがない事態での行動です。状況を解釈し、頭の中で推論して手順を計画するため、最も高度な情報処理が必要で、脳の負担が大きい状態です。
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規則ベース (Rule): 状況を認識し、「この場合はこうする」というルールやマニュアル、過去の規則と対応づけて行う行動です。
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技能ベース (Skill): 意識することなく、自動的な感覚と動作だけで行う行動(習慣行動)です。脳の負担が最も少なく、素早く処理できます。
なぜベテランの作業は早いのか?
人は、日常的に頻繁に行う作業について、脳の負担を減らすために無意識の工夫をします。
新人の頃は「これはこの手順書でいえば…」とマニュアルを確認しながら作業をします(知識ベース)が、経験を積むにつれて、「これはこの手順で…」とマニュアルを思い出しながら(規則ベース)作業をします。
そして、経験を積むにつれて、状況認識やルールの確認という手間を省き、自動的な「技能ベース」のループへと置き換えていきます。
ベテランの作業が早くスムーズなのは、手抜きをしているからではなく、脳が効率よく「技能ベース」で処理しているからと言えます。
経験者が陥る「思い込み」
しかし、技能ベースの処理に落とし穴(エラーの要因)が潜んでいます。
いつもと少し違う状況(異常の兆候や、いつもと違った特別な指示があった日など)が起きたとき、本来なら立ち止まって状況を確認し、「規則ベース」や「知識ベース」で考え直さなければなりません。
しかし、中途半端な経験者やベテランは作業に慣れきっているため、本当は「規則ベース」で処理すべきイレギュラーな状況を、無意識にいつもの「技能ベース」で強行してしまいます。
こういった事により、「いつも通りだと思った」「勘違いしていた」という、取り違いや思い込みによる重大なエラー(錯誤)が起こりやすくなります。

精神論から仕組みの理解へ
このSRKモデルの仕組みを、安全教育にどう活かせばよいでしょうか?
精神論をやめ、以下のようなアプローチを取り入れてみてはいかがでしょうか。
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「慣れのメカニズム」を教える: 作業員に「慣れると、人は無意識にルールの確認を省略してしまう生き物だ」という事実を教育します。
「自分の脳が自動操縦(技能ベース)になっていること」を自覚することが、エラー防止に役立ちます。 -
ベテランの「切り替えスイッチ」を共有する: 本当に優秀なベテランは、ただ無意識に作業しているわけではありません。「いつもと違う音がした」「手応えが違う」「なにかがおかしい」といった違和感(技能ベース)を感じた瞬間に、サッと「マニュアル(規則ベース)」に頭を切り替える能力を持っています。
OJTなどで、この「どこで手を止めて確認しているか」という暗黙のルールを言語化し、若手に継承させることが重要です。
おわりに
「人はミスをする」という大前提に立ち、脳の特性を理解した上で教育を行うことで、現場の安全管理は説得力のあるものになると考えています。
安全ミーティングの話題として「SRKモデル」を取り上げてみてください。



