CADオペレーターの転職は、ゼネコンから引く手あまた
今、建設業界ではCADオペレーター有資格者・経験者の人材需要が高まっている。特にAutoCAD1スキルの高いCADオペレーターは、大手ゼネコンやコンサルタントなどの企業から引っ張りだこだ。建設系技術者を派遣する人材会社の中には、経験者の採用が重要に追いつかないので1000~2000人規模で新卒・第二新卒生を募集し、社内でAutoCAD教育を施した後、ゼネコンやコンサルに送り出す派遣会社もあるほどである。ゼネコンやコンサルが派遣会社に頼る側面は今後もさらに拡大し、女性CADオペレーターの活躍も増えると予想される。
そこで今回、女性建設AutoCADオペレーターの齋藤奈緒子さんに、建設業界におけるCADオペレーターの仕事内容、転職事情、派遣の実態、女性進出の状況などについて話を伺った。
齋藤奈緒子さんは、AutoCADオペレーターのプロフェッショナルとして、建設業界で10年以上活躍している。もともとOA事務職の派遣社員だったが、たまたま大手鉄鋼メーカーの研究所に配属されたのをきっかけに、一般事務だったら話すことのないエンジニアや金型設計・建築設計・機械設計の方、サービススタッフ、営業など様々な職種と年齢の人と接するようになった。そこで土木・建築・設備と幅広い領域でAutoCADオペレーターの実務経験を積むことになったという。
建設AutoCADオペレーターの業務フローと休日
―― AutoCADオペレーターとして、齋藤さんは現在どんな現場で働いていますか?
齋藤 火力発電所の建設工事現場で、配筋図作成のサポートを担当しています。配筋図の作成は、鉄筋の組み上げ方がなかなか難しくて、今まで経験してきた現場の中でも一番苦労している現場だと思います。ただ、難しい仕事ほど面白くなるのがAutoCADですね。
―― 現場の雰囲気はどうですか?
齋藤 20~30代が多い職場なので、明るく活気があります。鳶工の方、鉄筋工の方などさまざまな職種の方々がいて元気をもらっています。重機オペレーターのテクニックには、いつも惚れ惚れしてしまいます。建設現場は、凄い技術力の集まりです。ベトナム人のCADオペレーターもいて、建設現場も国際色が豊かになってきています。
―― AutoCADオペレーターとしての、1日の簡単なスケジュール、仕事内容を教えてください。
齋藤 自宅から現場までの通勤時間は、自家用車で50分程です。事務所に到着すると、朝一番でCADデータとなる配布図面と提出した要望書に対する回答書の確認をします。追加図面や改定図面をファイリングし、変更箇所にはマーカーを入れ回覧します。現場作業や打ち合わせに支障が出ないように注意します。
その後、配筋図作成のサポート業務として、図面に記号や寸法線を入れる作業に取り掛かります。鉄筋の加工図から、長さや太さの寸法・種類を読み取っていかなければいけないところが難しいところです。
配筋図の作成はチームで行っているので、作業が滞らないようにコミュニケーションを取りながら進めていくのが重要な点ですね。
―― 今の現場で、特に役に立っていると感じるスキルはありますか?
齋藤 以外にもExcel の関数とVBAプログラミングです。大手のゼネコンでは、図面管理や現場写真の管理に専用のソフトを使っている所もありますが、今の現場には導入されていません。
そんなとき、Excelでマクロが組めれば専用のソフトがなくても、簡単に図面や写真を検索したり、大きさを指定して貼りつけたりすることができます。作業時間を短縮し、効率よく仕事を進めることができます。
関数が出来れば、掘削の土量計算や鉄筋の質量計算も簡単ですし、Excelで計算したものをテーブルごとAutoCADに反映させることもできます。若い頃に培ったOA事務の知識が役立ちました。
―― 建設業界のAutoCAD業務ならではの、仕事のやりがい、気を遣う点は何でしょうか?
齋藤 やはり建物が出来上がる前に、間取りや内装外観がわかるところは、AutoCADオペレーターならではの醍醐味だと思います。一般の方々より先に知ることができるので、得した気持ちになります。「こんなに素敵な建物ができるんだ」と、モチベーションがあがります。
AutoCAD業務で一番気を遣っている点は、現場で作業する方々の誰が見ても見やすい図面に仕上げる、ということです。特に寸法線の引き方は、多すぎても少なすぎても見づらいので、最も気を遣うところです。
それから、図面管理も重要です。図面を描くことだけがCADオペレーターの仕事ではありません。常に、図面は最新版でなければいけません。”図面が古かった”なんてことは、あってはならないことです。
CADオペレーターの仕事は、外から見ると個人プレーで仕事を進めているような印象もあるかもしれませんが、建設現場での仕事はチームプレーなので、常に全体を意識して作業しています。
―― AutoCADオペレーターの一日はお忙しいと思いますが、もしよろしければ、休日の過ごし方を教えてください。
齋藤 基本的には土日休みなので、休みの日は子供たちと公園やショッピングによく出掛けます。よく行くお店はイオンモールですかね。一般的な家庭の休日といった感じです(笑)
それから私も子供たちも甘いものが大好きなので、コンビニスイーツの新作は、いつもチェックしています。
AutoCADオペレーターに転職した理由
―― そもそも齋藤さんがAutoCADオペレーターに転職したきっかけは何だったのでしょう?
齋藤 私は短大卒業後、コンピューター関連会社に就職し、OA事務として働いていました。結婚後も子育てをしながら、在庫管理や輸出入管理のシステムを作る仕事に携わっていました。パソコンインストラクターの経験もあり、以前からCADに触れる機会はありましたが、本格的にAutoCADを学び始めたのは、派遣社員として大手鉄鋼メーカーの研究所に配属されたときでした。机上で設計したものが現実になる面白さに取り付かれてしまいました(笑)
その後、派遣社員として、実験用大型機械のトレース、住宅用建具の設計補助、土木図面の修正、 土木掘削図の重ね図作成などのAutoCAD業務を経験してきました。
―― これまでの職場で、特に印象に残っている現場はありますか?
齋藤 ハウスメーカーやゼネコンなど、大手企業を中心に大小さまざまな現場を経験してきましたが、特に印象に残っているのは、民間病院の移転に伴う新築工事です。この時は、CADwe”llTfasのオペレーターとして衛生設備施工工事に従事しました。病院の特異な衛生設備のシステム、配管の仕組み等、初めて知ることが多くとても勉強になりました。スーパーゼネコンの大規模な現場で、これまでに接したことがなかった職種の方々にも出会い、設計・施工はもちろん大事なのですがそれらを支える多くの人々がいることを知り、建設工事はチームワークが重要だということを改めて感じた現場でした。
AutoCADオペレーターの「転職成功」の秘訣
―― 今、AutoCADオペレーターの派遣社員は、引く手あまただと思いますが、派遣会社を選ぶポイントなどはありますか?
齋藤 女性は転勤が難しいという理由でなかなか正社員になれませんでしたが、今の派遣会社は正社員雇用した上で、ゼネコンの現場に派遣される仕組みのため、いつも守られている安心感があります。
会社のサポート担当者が現場まで定期訪問してくれて、例えば残業時間といった現場の状況を必ずヒアリングしてくれるので、不安なことや今後の将来のキャリアのことも相談できます。
―― 転職に悩んでいるCADオペレーターの方々に、斎藤さんから何かアドバイスはありますか?
齋藤 おそらく皆さんも仕事に充実感を得られない時や、職場の人間関係で悩んだ場合に、転職を検討すると思いますが、転職の時期を見極めるのはとても難しいと思います。転職にあたっては、まずはどうして転職したいのかを自分の中で理由を明確にすることが大事だと思います。
転職してどうなりたいのか、どんな実務経験を積んできて、どんな技術をもっているのか、持っている資格は何か、5年先10年先に、自分がどうなっていたいかを想像してみると、答えが見つかりやすいかもしれないですね。臆病になりすぎず、未来への扉を開けて欲しいと思います。派遣会社を変えるだけでも、随分と世界や待遇が良くなるものです。
女性AutoCADオペレーターが見た建設業界
―― ところで、斎藤さんが建設業界に転職した当初、この業界はどんな印象でしたか?
齋藤 入る前は建設業というと男性ばかりのイメージでしたが、いざ業界内に入ってみると、女性の現場監督も複数名が活躍されていて驚いたのを覚えています。女性も建設現場にいるのだと。男性に混ざって、ヘルメットを被り安全帯を装着している姿はとても凛々しく素敵でした。
それから、常に危険を伴う仕事を共にしているせいか、現場の絆がとても強いです。所属会社や職種など関係なく、一人ひとりが仲間を気遣いあっている感じです。
最近は女性のCADオペレーターも増えてきている印象ですが、他業界に比べると、まだまだ多いと言うほどではありません。私の周囲では、設計業務ですと男性のほうが圧倒的に多いのが現状です。
―― 最近、建設業界で働く女性技術者を「けんせつ小町」と呼んで、官民一体となって建設業界の女性就業者を増やそうとしていますが、女性AutoCADオペレーターとして、このような運動をどう思いますか?
齋藤 とても良いことだと思います。女性がいることで、建設現場の雰囲気がソフトになります。昔ながらの、怒声が飛び交う荒々しい現場の時代はもう終わりだと思います。そういう職場のイメージのせいで、建設業に就きたいと思う若者が少ないという現実もあると思います。
AutoCAD、CADwe”llTfas、3DCAD、CADオペレーターの将来像
―― 一口にCADと言っても、AutoCADを筆頭に、Jw_CAD1、CADwe’llTfas、3DCADなど様々な種類があります。斎藤さんはパソコンインストラクターの経験もあるなどPC関連に精通していますが、AutoCAD以外にも操作できるCADソフトはありますか?
齋藤 CADwe”llTfasは、衛生配管図設計やプロット図作成等で使用していました。総合図から建築・空調・衛生・電気の取り合いのチェックや衛生器具の納まり確認です。CADwe’llTfasとAutoCADの一番大きな違いは、レイヤーの使い方だと思います。建築の総合図(重ね図)を作成するには、CADwe’llTfasのほうが便利だと思います。
―― 最近は、3DCADなども登場していますが、将来のCADオペレーターの働き方はどうなると予想しますか?
齋藤 CADオペレーターという特別枠は、なくなるかもしれませんね。CADソフトは、もっと使いやすく誰でも扱えるように馴染んでいくでしょうから。今後は、CADオペレーターも専門知識を必要とする設計寄りの働き方がメインになるのではないでしょうか。実際現場で作業をしていると、土木建築の知識がかなり要求されます。日々、勉強です。
―― 斎藤さんご自身、これからAutoCADオペレーターとして、どう成長したいですか?
齋藤 もっとAutoCADスキルを上げることはもちろん、もう一歩踏み込んで測量や設計の勉強もしたいと思っています。トレースのスピードは、正直に言って若い人にはかないません。その代わり、これまでの経験から学んだことをCADオペレーターを目指す人に限らず、これから社会で活躍していく若い人達に伝えて役立ててもらえたらいいなと思っています。
―― 最後に、これから建設関係のCADオペレーターになろうとしている方に、アドバイスをお願いします。
齋藤 まずは、どのCADソフトでもいいので実際に触って図面の描き方を知ることだと思います。現場で学ぶことも多くありますが、ある程度図面が描けないと現場で使い物になりません。現場では、派遣社員=即戦力です。私も最初の頃は、独学とeラーニングでAuto CADを学びました。
周囲との連携を常に意識して、業務を円滑に進められるAutoCADオペレーターが、もっと増えることを願っています。そして女性AutoCADオペレーターがもっと建設業界に増えれば嬉しいですね。
―― ありがとうございました。