2008年6月14日に岩手・宮城内陸地震が起きました。
現地調査に行きましたが、その後関わることがなかったので、詳しいことを知っているわけでは有りません。今年の9月の地すべり学会全国大会の現地見学会の一つが荒砥沢地すべりでした。このツアーはすぐに満杯になったようで、私はレンタカーを借りて一人で観に行きました。
ところが、地すべりを眺められる場所は入れないようになっていたので、遠方からチラ見することしかできず、ほとんど見ることができませんでした。すごい雨だったし・・・。ツアーは、中に作られた道の中まで入っていけたそうです。どこに入る道があったのだろう?
現地調査に行ったとき、写真を撮影しましたが、CG合成したような大スペクタクルでした。こういう自然のダイナミックな活動を見ると、自然科学をやっていた人はエキサイトします。犠牲者が出なかった場所なので、あまり遠慮することはなかったし・・・。人工的な構造物があるわけでもないので、人災好きのマスコミを気にすることもないし。
上の写真は、当時撮影したものです。下の写真はネットから拾ってきたものをいくつかまとめました。すごい景色です。
下の写真は、地すべりの前後の写真ですね。地形判読でこの形に滑ることがわかった人はいないでしょう。後付けでもわからなかったでしょう。でも、後付けで、3D地質構造と過剰間隙水圧の設定ができれば、ある程度は計算で再現できるかも。。。でも極限平衡法やFEMだと土塊が連続体であり続けないといけないので、いいセン行くとこまでは達しないでしょうね。
地質調査結果が公表されて、ほとんど水平のすべり面形状だということがわかり、更にエキサイトしました。直径1kmくらいの大地すべりなので、亀の瀬地すべりと同じような規模です。カルデラ跡に溜まった堆積物だったと記憶していますので、亀の瀬と言うより、奈良の室生地すべりに近いかもしれません。室生地すべりもでかいですよ。
地すべりは土塊荷重Wとすべり面傾斜角θとの関係で、W・sinθが重力によって土塊が斜面下方に動こうとする力になる、というのが基本です。でもすべり面が水平、すなわちθ=0だと滑動力もゼロです。滑動力がないのにこんなに大規模に動くのか?と誰もが思うでしょう。
山が割れて、重力の作用でそれぞれがくさび状に鉛直方向に引っ張られるので、それに伴って横方向の力が生まれて、その結果横方向の地すべり変動になったのだろうと思いますが、厚さ100mもある土塊底面に、ごくごく普通の強度があれば、摩擦で動きません。
それがこれだけ動いたのだから、すべり面強度はほぼゼロだったと考えなければなりません。ところが、すべり面強度がゼロになることを中心に論じた話をあまり聞いたことが有りません(誰も言わなかったとは思わないけれど)。
おそらく、この地すべりの本質はその「すべり面強度ゼロ」にあって、、、実のところ、そのことは他の地すべり、あるいは盛り土の滑動崩落、さらに言えば表層崩壊にもすべて通じる話です。
なぜこんな血湧き肉躍る話が大きな話題にならないのか不思議でなりません。
私は、土の塊が滑るとき、それはすべり面強度が様々な理由でゼロに近づくからだと考えています。さまざまと言っても、過剰間隙水圧が本ボシですけどね。
荒砥沢地すべりでは、不動層の上に水が有り、その上に土塊があったのでしょう。最初からそうなっていたわけでなく、1Gを超える鉛直地震動によって、その構造が作られました。その構造ができると、その水には土塊荷重分の過剰間隙水圧が発生しますから、どんな巨大な土塊でも易易と滑らせることができます。
谷埋め盛り土の滑動崩落も、すべり面傾斜角は5度前後ととても緩いです。これを滑らそうと思えば、すべり面強度はほとんどゼロでないといけません。側面がブレーキをかけるので、それをはねのけて滑るわけですから、ゼロでないとバランスが成立しないのです。
これは一般のスベリでも、非常に弱いすべり面粘土の強度に、水圧がかかるので、これもかなりゼロに近いはずです。
表層崩壊は、記録的豪雨時に土を持ち上げるくらいの過剰間隙水圧が発生しますので、ここでもすべり面強度がゼロになります。
要するに、土砂災害の根本原因は、すべり面強度がゼロになる条件になることがある、ということです。
そう考えると、すべての土砂災害が一つの理屈で説明できるようになります。
さらに重要なことは、過剰間隙水圧が原因であれば、「土を滑らせてから、その土の動きを抑止杭などで力尽くで止める」のが愚かなことだと気がつくはずです。ドンキホーテ的です。
発生する過剰間隙水圧が地表に抜けるバイパスを創っておくだけで、過剰間隙水圧が発生しなくなる(あるいは小さくなる)のだから、そもそも力で止める必要すらなくなるわけです。
「すべり面強度ゼロ回避工法」こそが最も斜面変動に対して効果的で、しかも超安価な工法なんですね。
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水圧リフトってご存知でしょうか?現代の重量物運搬にも用いられますが、ピラミッドの巨石を高い位置に運搬するのにも使われていたらしい、という話もあります。水圧で山を持ち上げることは原理的には割と簡単にできるんです。熱海市伊豆山の盛り土土石流もそんな原因があったはずです。ところが不思議なことに土質屋さんは静水圧しか考えないんですよね。
古代エジプト人はどうやってピラミッドの巨石を積み上げた? 新たな説が浮上
https://www.cnn.co.jp/fringe/35224686.html
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斜面対策工事をしながら、その原理を考える人は思いつくことなんですね。この業界では有名なエンタさんも、考えられました。
新!エンタの法面管理塾
水抜きロックボルトを打設する事によって水圧による過剰間隙水圧が掛からなくなります。
と、核心部分に迫られています。
エンタさんはこの工法の相談に何度かこちらに来られました。この設計方法は、基本的に排水補強パイプと同じ考え方でできます。過剰間隙水圧消散工が主で、剪断補強工が従の関係ですね。
この工法だと、過剰間隙水圧発生が押さえられますので、崩壊防止効果が高くなります。過剰間隙水圧が発生しないので、容易に破壊モードに入ることは有りませんから、摩擦抵抗での検討は不要です。抑止工的に効くとしても剪断補強として考えればいいでしょう。
そして破壊モードに入らないのだから、法面低減係数などという妙竹林なものも考えなくていいし、そもそも、受圧盤すら不要です。
計算方法は、以下に示すとおりです(と言っても読み取れないだろうけど)。これも当然知財権を取得した計算方法なので、この設計をする場合には私との契約が必要になります。エンタさんとは協力関係にあるってことですね。
逆算法に慣れた人には違和感満載の、斜面の安全率推移グラフです。斜面は普段、非常に高い安定度をもっています。ちょっとした大雨で地表まで満水になったくらいではスベリません。記録的豪雨時でも、平均安全率Fs>1.0です。
公共事業なら、「安全評価」するでしょうね。でも、実際には土質強度や過剰間隙水圧比にはばらつきがあるので、確率的に考える必要があります。そうすると、Fs>1.0でも、確率的にFs<1.0となる場合が出てきます。崩壊が散発的に起きるのはこうした理由です。
計算上平均安全率がFs<1.0になるなら、斜面という斜面が崩れて、崩壊率50%以上になってしまうでしょう。どんなに大きな雨でも、崩壊率は10%くらいがいいとこなので、平均安全率はFs>1.0ですね。
水抜ロックボルト工で、個別計算においてこういう確率解析までする必要はないと思います。道路屋鉄道などの大規模予防事業で、土質工学的理由付けが必要な場合には、いくつかのケースで計算して、一覧表にするのが実用的でいいでしょう(実際、その方法で設計している事例があります)。
それ以外は、従来型の設計法に近い方法で代用できます。具体的には逆算法と計画安全率による方法で、補強効果は摩擦ではなく剪断補強にすればよいだけです。そそうすれば、れほど異なる対策の絵にはなりません。
でも「ほんまはこうなんやでぇ~」がわかって設計するのと、そうでないのは、月とスッポンです。
予防市場が出てくると、類似工法(パチモン工法)がどんどん出てきます。でも、過剰間隙水圧消散の設計をする際(本来はその効果を謳う場合にも)には、私に挨拶してくださいね。広報は契約してからですよ。