国土強靭化施策で地方の公共事業も増加する?
2022年度の土木業界は、2021年度に引き続き、安定した市場を維持できることが見込まれている。2年目を迎える「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」により、地方の公共事業も増加することが予想されているからだ。
政府は12月24日、2022年度予算案を閣議決定した。一般会計の総額107兆964億円で、そのうち公共事業関連費は6兆575億円となった。
内閣官房がまとめた関係府省庁における「令和4年度国土強靱化関係予算案」によると、全体で4兆5577億円(対前年比3.0%増)で、うち公共事業費は3兆8736億円(同3.0%増)であった。
一方、2021年度補正予算もこのほど、参院本会議で可決、成立した。歳出総額は、補正予算では過去最大となる35兆9895億円で、うち公共事業費には2兆19億円を計上し、防災・減災、国土強靱化等に予算を重点配分、1兆2539億円を計上した。2021年度補正予算と2022年度予算案を一体とした「16か月予算」として執行する。
2022年度予算案を閣議決定した後、建設業からからも歓迎の声が大きくあがっているが、この「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」や巨大な「16か月予算」をもとに、2022年度の公共事業についてリポートする。
国土強靭化施策を実施する背景
そもそも国土強靭化とは何か。
これは、大規模災害時に人命を守り、経済社会への被害が致命的にならず、迅速に回復する「強さとしなやかさ」を備えた国土・経済社会システムを平時から、構築していくことを指す。特に日本は、さまざまな大規模自然災害を経験し、その度に甚大な被害を受け、長期間にわたり復旧・復興を行う「事後対策」を余儀なくされてきた。
そこで、2013年12月に、議員立法として「国土強靭化基本法」が成立。2014年6月に「国土強靭化基本計画」が閣議決定、2018年12月に改定している。さらに、2018年12月に「防災・減災、国土強靱化のための3か年緊急対策」(2018~2020年度)が、2020年12月に「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」(2021~2025年度)がそれぞれ閣議決定している。
このうち、現在展開中の5か年加速化対策の目的は、災害に屈しない強靱な国土づくりを進めることや近年、発展が著しいデジタル技術の活用等を推進することにあり、「激甚化する風水害や切迫する大規模地震等への対策」、「予防保全型インフラメンテナンスへの転換に向けた老朽化対策の加速」、「国土強靱化に関する施策を効率的に進めるためのデジタル化等の推進」の各分野について、さらなる加速化・深化を図っているところで、重点的・集中的に対策を講じている。
事業規模は? 対策数は?
5か年加速化対策の対策数は123対策で、追加的に必要となる事業規模はおおむね15兆円を目途としている。
「激甚化する風水害や切迫する大規模地震等への対策」としては、おおむね12.3兆円程度で78対策。うち「人命・財産の被害を防止・最小化するための対策」では50対策、「交通ネットワーク・ライフラインを維持し、国民経済・生活を支えるための対策」では28対策のメニューをそろえている。
次に、「予防保全型インフラメンテナンスへの転換に向けた老朽化対策」は21対策でおおむね2.7兆円程度、「国土強靭化に関する施策を効率的に進めるためのデジタル化等の推進」では24対策でおおむね0.2兆円程度で、うち国土強靭化に関する施策のデジタル化は12対策で、「災害関連情報の予測、収集・集積・伝達の高度化」は12対策だ。
これらは、まさに国家百年の大計の施策と言える。
2022年度 国土強靱化関係予算案のポイントでは、「経済財政運営と改革の基本方針2021」に基づき、切迫化する大規模地震災害、相次ぐ気象災害、火山災害、インフラ老朽化等の国家の危機に打ち勝ち、国民の命と暮らしを守り、社会の重要な機能を維持するため、ハード・ソフトが一体となった取組みを推進する。
本格化する「流域治水対策」
それでは、具体的にどのような施策があるだろうか。やはり、筆頭に来るのは流域に関わるあらゆる関係者が協働し、流域全体で水害を軽減させる取組みである「流域治水」(国土交通省5204億円、農林水産省3687億円)だ。
工事内容は、河川における河道掘削、堤防整備、堤防強化、耐震対策、ダムの事前放流の推進、ダム・遊水地の整備等を実施する。
1級河川での戦後最大洪水等に対応した河川の整備率は2019年度の時点では約65%だが、中長期の目標ではこれを100%とし、達成年次も2050年度頃から2045年度頃へと前倒しにする。次に2級河川での近年災害の洪水等に対応した河川の整備率は2019年度の時点では約62%で、中長期の目標は同様に100%だが、達成年次も同じく2045年度に前倒しする方針だ。
少し先の未来である2025年度では、1級河川の整備率の達成目標は約73%であり、2級河川の整備率の達成目標を約71%としている。
建築部門では、大規模倒壊の防止として、住宅・建築物、学校、社会福祉施設等の耐震化等の促進も行う(国土交通省、厚生労働省、文部科学省、法務省、警察庁)。
高速道路の暫定2車線を4車線化へ
また、道路ネットワークの機能強化対策(高規格道路のミッシングリンク解消等)の推進も大きな目玉だ(国土交通省:1兆4700億円)。
これは東日本大震災でも大きな教訓となったが、災害に強い国土幹線道路ネットワークの機能を確保するため、高規格道路のミッシングリンクの解消及び暫定2車線区間の4車線化、高規格道路や代替機能を発揮する直轄国道とのダブルネットワークの強化等を推進する。
高規格道路のミッシングリンク(約200区間)の改善率は中長期的には100%を目指しているが、達成年次を2043年度から2041年度へと前倒しする方針だ。2025年度では、高規格道路のミッシングリンク改善率の達成目標は30%。高規格道路約2万kmで、ミッシングリンク(約200区間)の約3割の区間を全線または一部区間供用する。
ほか、インフラ老朽化対策等のための戦略的な維持管理・更新の推進(国土交通省)など、書ききれないメニューがある。一つひとつの取組みを丁寧に書くべき内容ではあるが、今回はポイントをまとめる。おおむね、ドローン点検等を活用した老朽化対策、治水・地震・津波対策など防災・減災、国土強靭化へ予算を重点的に配分したと言える。
この国土強靭化をスムーズに実行していく上では、各地域で、同5か年対策をそれぞれの地域に落とし込み、どのように地域の強靭化を図っていくことが重要な視点となっている。
そこで、各地方自治体が国土強靱化地域計画を策定することが極めて肝要と言える。国土強靱化地域計画とは、どのような大規模自然災害等が起こっても機能不全に陥らず、いつまでも元気であり続ける「強靱な地域」をつくりあげるためのプランであり、強靱化に関する事項については、地域防災計画をはじめ、行政全般に関わる既存の総合的な計画に対しても基本的な指針となるものだ。
市町村の取組みに一部温度差も
だが、東京都、埼玉県、群馬県、長野県、岡山県、福岡県の地方自治体の一部に策定に遅れが見られることが確認できる。
特に、発生が予想される巨大地震のうち、首都直下地震は大きな懸念であり、被害は最大約61万棟、死者最大約2万3,000人、経済的被害は95兆円とも想定されているなかで、首都圏での策定の遅れは気になるところだ。
さらに、国土強靭化は、政府や地方自治体だけではなく、官民が連携し、役割分担し、オールジャパンで進めている。
内閣官房国土強靭化推進室では、「国土強靭化 民間の取組事例集 ~強くしなやかな日本をつくるためのリーディング・ケース」をまとめ、先導的な取組みを紹介している。政府・地方自治体に加え、民間も動き出しており、官民が共同で国土強靭化へと乗り出すケースも増えていくだろう。
建設業界からも歓迎の声
最後に、2022年度政府予算が閣議決定されたことを受けて、建設業3団体の会長が感謝するコメントをそれぞれ出しているので紹介する。
一般社団法人日本建設業連合会 宮本洋一会長
令和4年度政府予算(案)は、前年度とほぼ同額の公共事業予算が確保されました。特に、「防災・減災、国土強靱化のための5カ年加速化対策」は、初年度分に16カ月予算として一体で編成された令和3年度補正予算を加えると、引き続き前倒しの進捗状況が維持されました。
また、今回初めて認められた「事業加速円滑化国債」は、日建連が要望していた予算の単年度主義の弊害を是正する大変ありがたい制度です。予算の確保と新制度の創設にご尽力いただいた国土交通省をはじめとする政府および与党の関係各位に感謝を申し上げます。
「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」で示された対策の着実な実施により、新型コロナウイルス感染症の影響で落ち込んだ景気の回復と、社会経済活動が力強く推進されることを期待します。また、防災・減災、国土強靱化の推進とともに、ウィズコロナの状況下、DX化や2050年までのカーボンニュートラルの実現など、新たな課題にも適切に対応していただくよう希望します。
日建連においては、施工余力は十分に有しているので、引き続き、会員一丸となって公共工事の円滑な施工に万全を期してまいる所存です。(日建連HPより引用)
一般社団法人全国建設業協会 奥村太加典会長
20日に成立した令和3年度補正予算において、公共事業費が約2兆円、うち「防災・減災、国土強靱化5か年加速化対策」の2年目分として1兆2500億円余が計上されたことに続き、22年度予算案に、前年度と同水準の6兆500億円余の公共事業予算が計上されたことは、私どもがこれまで要望してきた内容をおおむね実現していただいたものとして、大変うれしく思っています。
予算案の取りまとめに当たり、ご尽力いただいた国土交通省をはじめ政府および与党の関係各位に心から感謝を申し上げます。
今後は、本年度補正予算から来年度の当初予算にかけて、切れ目なく予算執行がなされ、施工の平準化にも配慮していただくとともに、地域の実情を踏まえた予算の重点的配分がなされるよう重ねてお願いします。
全建と47都道府県建設業協会は、会員企業の施工能力を生かし、事業の円滑な実施に貢献するとともに、国民の暮らしを守り、さまざまな経済活動を支える社会インフラの整備・保全に引き続き全力で取り組んでまいりたい。(全建HPより引用)
一般社団法人全国中小建設業協会 土志田領司会長
22年度予算案は、21年度補正予算を加えると前年度予算を上回る公共事業予算が確保されました。また、22年度補正予算と合わせて切れ目のない予算執行による施策効果の早期実現を図ることされるなど、計画的な執行により、受注者にとって工事発注や引渡し時期の平準化が進むことになり、感謝いたします。
予算配分に当たっては、地域の実情に配慮された重点配分をされることをお願いするとともに、発注手続きについては、国の施策等の趣旨を地方公共団体の担当者まで浸透するようさらなるご指導等をお願いしたい。
全中建としては、会員企業の施工能力を十分に活かし、事業の円滑な執行に努めてまいります。