土木学会地震工学委員会(酒井久和委員長)は1月9日、同学会海岸工学委員会や日本地震工学会、地盤工学会と共同で震度7の能登半島地震を受け、被害状況などに関する調査結果の報告会をオンラインで開催した。報告会は「令和6年能登半島地震(M7.6)に関する速報会」と題し、被災地で調査した被害状況「津波」「建物」「地盤」「橋梁」「城郭」(金沢城)のテーマ別に報告した。司会は小野祐輔氏(鳥取大学教授)がつとめた。
冒頭、酒井委員長(法政大学教授)は、「地震が発生することで新たな教訓が生まれる。近年では1995年の兵庫県南部地震、2011年の東日本大震災、2016年の熊本地震など日本は多くの被害地震を経験し、その知見をもとに地震防災や減災などの対策を施した。しかし、今回の地震で津波、土砂災害について対策を進めているものの、大きな犠牲者を出してしまった。本日の速報会ではさまざまな立場の方が出席されている。減災につながる情報を提供し、新たな課題を見出してほしい」と冒頭のあいさつで呼びかけた。
このほか土木学会では田中茂義会長が、「災害対策本部を立ち上げ、各種の情報収集を行うなどの対応にあたっている。救援・救助、復旧・復興支援などを目的として、社会支援部門のサイトにて情報提供を行う」との方針を同日に示した。
「1981年基準」でも倒壊した事例も
「建物被害」の調査は、村田 晶氏(金沢大学助教)と須田達氏(金沢工業大学教授)が行った。調査は輪島市門前、同市中心街、珠洲市、能登町、穴水町、七尾市、中能登町の各エリア。
調査の雑感として、特に珠洲市正院地区や穴水町を中心としてキラーパルス(地震の揺れの周期のうち、1〜2秒周期のやや短い震動)の影響はかなり深刻であった。珠洲市正院地区では、周期3秒の地震により、社寺建築物の倒壊が顕著であり、特に2023年5月の強震やそれ以前の群発地震による建物疲労の影響が強く現れていることは大きな知見といえた。
輪島市の門前地区は2007年能登半島地震の激震地域であり、かなりの建物が新築か改修済みであるものの、地震による倒壊などの事例が多かったとも報告。「建物の補強をどのくらいまで、または金額的なことの兼ね合いになるが、どこに落としどころを持っていく点が課題になる。実際、改修時に構造的にかなり手を入れた建築物では、しっかり自立した建物もあるので建物の評価に組み込んでいくべき」(村田晶氏)
旧耐震基準で建築されている建物の損壊程度は極めて深刻で、1981年以降の新耐震基準で建てられていると思われる住宅もかなりの損傷を受けているものが多い。ただし、その被害の多くは1981年以降に増改築した建物だと思われる。一方、2000年以降に新築されている建物については、震動に起因する損壊については軽微にとどまっているものがほとんどであった。
橋台沈下で交通インフラの機能喪失に
「橋梁被害」は、地震発生後、井上和真氏(群馬高等専門学校准教授)、 植村佳大氏(京都大学助教)、志賀正崇氏(⾧岡技術科学大学助教)、栗間淳氏(東京大学助教)の各氏による調査チームを結成。新潟県長岡市、新潟市中区、西区、富山県氷見市、石川県七尾市、金沢市、かほく市、内灘町を調査した。
国土技術政策総合研究所での従来研究では、東日本大震災で「路面の段差による通行注意」と判定されていた376橋に対して分析したところ、橋台背面部アプローチ部の変状が90%に及んでいた。今回の調査チームによる調査でも同様な傾向であることが分かった。具体的に言えば橋台の背面部が沈下し、段差が発生する。(写真参照)
個別の被害事例は、氷見市の「上庄川橋」(2000年竣工)では、橋台背面アプローチ部の地盤被害があったものの、橋梁本体の被害は確認されなかった。ただし周辺地盤には液状化や水道管の被害による漏水が発生し、周辺は断水した。同市の「尾湾橋」(1991年竣工)を含めた御祓川(みそぎがわ)に架かる複数橋梁のアプローチ部で段差を確認、尾湾橋では橋座や竪壁上部に軽微な被害を認めた。赤浦橋(1972年竣工)とその周辺では、周辺の地盤変状と橋台の背面の地盤被害が発生した。また、能登島大橋(1982年竣工)でも橋台背面の地盤被害があったものの、本体への被害は確認されなかった。金沢市の才田大橋(1980年竣工)は北側のアプローチ部で大きな段差が生じ、支承も損傷し桁が落ちている状態であった。その影響で伸縮装置が大きく開いた。(写真参照)
今回の調査を総括すると、橋台背面アプローチ部の沈下に伴う段差が生じた事例があった。橋梁本体は健全であっても、段差の存在で「交通インフラ」としての機能は低下あるいは喪失したことが分かった意義は大きい。
海岸工学委員会では浸水深と痕跡高を調査
土木学会海岸工学委員会「R6年能登半島地震津波調査グループ」の由比政年氏(金沢大学教授)が津波被害を報告した。地震発生1月1日にはすでに海岸⼯学委員会有志で、調査チーム結成の可能性について協議開始。海岸⼯学委員会内に「R6年能登半島地震津波調査グループ」の設置が決まり、先遣隊として、⾦沢大学、北陸先端大学、⾦沢工業大学、東北大学の合同チームを結成した。⾦沢から珠洲市間の道路状況、被害状況把握、現地の状況や津波調査結果を報告した、現在、継続中も含め合計20の大学や機関が順次調査をスタートしている。全体の調査地域は、石川県、富山県、新潟県に渡るが速報会での報告エリアは、輪島市、珠洲市、能登町の3地域に絞った。
調査は、地面から計測した浸水の深さである「浸水深」と、ある基準面からの痕跡の高さの「痕跡高」の2項目。これは、トータルステーション、RTK-GPSや航空機からの撮影観測などで痕跡高、浸水深や浸水範囲などを計測した。速報会では、輪島市西部では「琴ケ浜」以北で地盤隆起による汀線(ていせん)の変化が顕著、珠洲市東部や南部の「寺家地区」、「飯田地区」、「鵜飼地区」で浸水被害、能登町北東部の「松波地区」や「布浦地区」で浸水被害が発生したことを確認した。
今回の調査結果は、沿岸地域の被害状況の全容把握や今後の復旧に向けた基礎的資料として関係諸機関に提供。今後、土木学会海岸工学委員会では1月27日に金沢市内で調査報告会を予定しており、その際により包括的な形で調査報告を示す準備を進めている。
干拓地では広い地盤被害を確認
「地盤被害」では、調査メンバーとして井上和真氏(群馬高等専門学校准教授)、 植村佳大氏(京都大学助教)、友部遼氏(東京工業大学助教)、 志賀正崇氏(⾧岡技術科学大学助教)、栗間淳氏(東京大学助教)の各氏が参加。新潟県新潟市、富山県氷見市、石川県七尾市、河北潟周辺を調査したところ、新潟県、富山県、石川県に渡って広範な地盤被害を確認した。新潟市は能登半島から離れているが、地盤の沈下、舗装のひび割れも見受けられた。
金沢近郊では、特に干拓地にあたる部分に広い地盤被害を確認し、河北潟に面した道路沿いで広域に液状化が発生。内灘町やかほく市の干拓地内では、液状化の発生・道路の沈下・家屋や電柱の傾斜が認められた。同地区の小学校では建物の損傷はなかったが、玄関部や校庭のひび割れや沈下が発生した。また七尾市中心部では、沿岸部、河川周辺で液状化現象が発生し、市街部では木造家屋の倒壊もあった。特に伝統工法の土蔵造りの建物が倒壊し、車道を閉塞する被害もあった。また市街南西方向の丘陵面上と城跡付近の谷地では、寺社仏閣の全壊が見られた一方、城跡の尾根部に位置する寺社仏閣では瓦に乱れがほぼない一帯もあった。
調査の総括では、「都市部から農村部に至る広域に渡って地盤被害」「道路の陥没、家屋・電柱の傾斜/倒壊や液状化、地すべりを確認」「風化砂岩からなる斜面で至る所で地すべりが発生」などが認められた。
最後に阿部慶太氏(日本地震工学会理事、日本大学准教授)が「速報会での報告と意見交換で共有した内容が今後の調査、復旧支援、将来の大地震に対する減災対策につながってほしい」と速報会の意義について述べ、閉会の挨拶とした。