こんにちは、土木公務員ブロガーのカミノです。
みなさん積算してますか?
土木公務員に必須のスキルである「積算」ですが、みなさんどれくらい理解しているでしょうか?とくに近年入庁組は積算システムで簡略化されていますから、よく理解しないまま積算をしている実態があると思います。皆そんなもんです。
本ブログでは「土木公務員のための積算入門」ということで何回かに分けて積算の全体像をくわしく説明していきます。ここでは、まずは積算とは何なのか、その目的を説明します。
一通り読んでもらったら、ぼんやりとしていた「積算」の輪郭がはっきり見えるようになると思います。
事務職も技術職とおなじように事業費を扱うことが多いので、「積算」とは何であり、どういうことをするのか知っておくことは大事かもですね。
積算とは
「積算」は、建設業界の専門用語のひとつです。
積算とは、図面や仕様書などの設計図書に基づいて、工事もしくは業務委託に掛かる金額を算出することをいいます。
設計図書についてはこちらの記事で解説しています。
ここでは、請負工事、とくに一般土木工事に限定して説明していきますが、他種工事や業務委託についてもほとんど同じです。
公務員目線から、公共工事について解説します。
積算と見積
積算と似たような言葉に「見積(みつもり)」があります。送り仮名があったりします、見積もり、みたいな。
金額を計算する行為を「積算」と呼びますが、「見積」も同じ意味ですよね。
定義はさまざまですが、私のイメージでは、
発注者が工事費(予定価格)を算出することを積算といい、受注者が実際に施工するためにかかる費用に適正利潤を見込んだ金額を発注者に示したものを見積というような使い分けがされているようです。
単に、材料の価格などを提示してもらうことも「見積」と呼んでます。
発注者→積算→予定価格を計算する(原則、公開しない)
受注者→積算→見積価格を提示する
積算は、官公庁も施工業者も同じようにするわけですが、施工業者は予定価格を予想しつつ、さらに自社独自の施工単価にもとづいて積算をおこない、会社の利潤も計算しなければいけません。
そして、受注の意志があれば「見積書」を提出するわけです。
下請けやメーカーもこんな感じで積算をして、見積書を提出する流れです。
なぜ積算をするのか?
積算をおこなうにあたり、積算をする理由・目的をしっかりおさえておくことは大事です。
例えば、家の小規模リフォームをしようと思ったら改修費用を業者さんに聞きますよね?納得できたら契約するはずです。依頼者が積算をするわけではありません。
では、なぜ公共工事では発注者が積算をするのか?なぜ工事費を算出するのでしょうか?
私なりに言いますと、適正な工事費を算出し、公正な競争入札を行い、施工者にちょうどよい利益が出るように施工してもらうためです。
これが土木公務員が積算をおこなう目的であり、この目的を見失うと、間違った積算をしてしまうことになります。
ちょうどよい利益って?
「ちょうどよい利益」というのは、ふつうに工事すれば会社が継続できるくらいの利益で、企業努力をすればするだけ利益が増える状態です。(個人の見解です。)
怠けて仕事をしても利益がガッポガッポ出たら、誰も努力をしなくなるし、不当に高額だとほんとうに必要なところにお金を掛けれなくなります。税金の無駄遣いだと市民から怒られてしまいますよね。積算をしないで受注者側の言い値だけで請負契約がされてしまう世界では、おそらくそんなことになるでしょう。
工事費が安すぎても、入札不調になったり、手抜き工事をされたり、利益があがらず建設業界が衰退することにつながります。
ですから適正な工事費(予定価格と言います)を算出し、この金額を上限として競争入札するのです。
積算された工事費=予定価格
まあ工事費を計算できなければ予算も組めないし工期もわからないし、事業をはじめられないわけで、じつは大昔から建物を建てるときの積算は存在しています。
税金を使う公共事業では、なるべく工事費は抑えたいのですが、それで施工業者が赤字になりつぶれてしまっては元も子もありません。
私たち公務員は、絶妙なあんばいを見極めて、ちょうどよい利益がでるような“適正価格”を算出することが求められるのです。
普段はこんな深くまでは考えていませんが(;´・ω・)
予定価格にまつわる法令
ちなみに、予定価格や入札に関する法令のなかで、知っておくべきものを2つ抜粋して紹介しておきますね。
予決令と品確法です。
予算決算及び会計令(通称:予決令)
第八十条
2 予定価格は、契約の目的となる物件又は役務について、取引の実例価格、需給の状況、履行の難易、数量の多寡、履行期間の長短等を考慮して適正に定めなければならない。
公共工事の品質確保の促進に関する法律(通称:品確法)
第七条
一 公共工事等を実施する者が、公共工事の品質確保の担い手が中長期的に育成され及び確保されるための適正な利潤を確保することができるよう、適切に作成された仕様書及び設計書に基づき、経済社会情勢の変化を勘案し、市場における労務及び資材等の取引価格、健康保険法等の定めるところにより事業主が納付義務を負う保険料、公共工事等に従事する者の業務上の負傷等に対する補償に必要な金額を担保するための保険契約の保険料、工期等、公共工事等の実施の実態等を的確に反映した積算を行うことにより、予定価格を適正に定めること。
品確法の、「公共工事の品質確保の担い手が中長期的に育成され及び確保されるための適正な利潤」ってフレーズが、私の言った「ちょうどよい利益」のことですね。
ほかにも入札については、国であれば会計法、自治体であれば地方自治法などにおおもとの記載があります。
品確法は、社会情勢に応じて改正されたりするので知っておきましょう。
標準ってなんだ?
適正な予定価格を算出するために、よく「標準的」という言葉が使われます。
役所でも頻繫に使いますし、業者さんからの質問に対しても「標準的な積算をしてます」という回答をよく目にしますよね。
一番ベースとなる「国土交通省土木工事積算基準」の公表にさいしても、直轄工事に係る“標準的な”工事費の積算について定めたものであるとうたわれています。
ん~標準的ってどういうことなんでしょう(´・ω・)?
デジタル大辞泉によると、「標準」は平均的な度合いとか最も普通のタイプといった意で使われることが多い。とのこと。
つまり標準的な積算基準とは、材料のほとんどがその価格で流通している(平均値のようなもの)で、施工業者のほとんどがその歩掛で施工している、という状態が標準的であると考えられます。
私のイメージでは、市内の施工業者のうち8~9割がその歩掛で施工できるのならそれは標準的であると思っています。1割くらいはよくわからん施工をする業者さんもいますから100%は考えずに8~9割でOKです。
歩掛(ぶがかり)とは、労務・材料・機械の単価の組み合わせのこと。
ある施工にたいして、労務・材料・機械がいくつ必要かを表した数量表。
ですから、もし市内の材料メーカー5社に聞いて半分以上が「その価格では出せません」と言えば、それは標準的な単価ではないですし、施工業者5社に聞いて半分以上が「この歩掛では合いませんよ(赤字ですよ)」と言うのならその歩掛は標準的ではないと言えます。
積算基準書どおりに積算システムで計算していたとしても、現場の条件に合わないことがありますので、実態をよく考えて、必要であれば歩掛や材料の見積もりをとって、なるべく「標準的な」積算をめざしましょう。
業者さんは利益のためになんとか設計金額を上げてもらおうとするので、業者の意見が本当のことなのか見極めなければいけません。
積算基準書をよく読もう
さきほど書きましたが、積算するにあたって「土木工事積算基準」というルールブックがあります。
国交省が発表しているこの本は、国の直轄工事が対象です。
それにたいして自治体は、独立した予算で工事を行っていますから、独自の「積算基準書」をつくっています。(補助事業は国の積算基準書を準用するべきですが)。都道府県のWebサイトを探せば積算基準書が出てくるはずです。
この他にも、
下水道の「下水道用設計標準歩掛表」(国交省管轄)
水道の「水道工事実務必携」(全国簡易水道協議会・厚労省管轄)
農業土木の「土地改良工事積算基準(土木工事)」(農水省管轄)
公園の「造園修景積算マニュアル」(建設物価調査会)や「公園・緑地の維持管理と積算」(経済調査会)
など、たくさんの本があり、また規模が大きめの自治体によっても各分野の基準書が作られていたりします。
これらの本には、工種ごとの条件やそれに対応した歩掛が載っていますので、積算にあたっては、書いてあるページを隅から隅まで読まなければなりません。
超大事なことが小さい字で書いてあったりします(;´・ω・)
詳しくは次回紹介したいと思います!
おわりに
ということで、積算入門のさわりの部分を説明しました。
適正な工事費を算出し、公正な競争入札を行い、施工者にちょうどよい利益が出るように施工してもらうため。
これが土木公務員が積算する目的です。
積算については、5回くらいに分けて講座やりたいなと思っていますので、お楽しみに。
では、今日はこのあたりで。
またぬん(*’ω’*)ノ