「いいのは東京だけ」施工管理技士の求人と応災力

地方の建設会社・自治体における施工管理技士の転職問題

首都圏の中央大手ゼネコンと、地方建設企業との「地域間格差」が拡大している。さらに、同一地域内でも「企業間格差」が拡大する傾向が顕著である。こうした状況下において、施工管理技士たちが、高い設計労務単価に惹かれて、地方から首都圏(東京、神奈川、埼玉、千葉)などに次々と流出・転職している実態がわかってきた。

ゼネコン各社の経営戦略における生命線は、施工管理技士の人材確保といっても過言ではない。はたして地方建設企業は施工管理技士の流出・転職を防ぎ、生き残ることができるだろうか。

最近、地方ゼネコンの再編という話題も急浮上しているが、本稿では首都圏の大手ゼネコンと地方建設企業の「地域間格差」にスポットを当て、施工管理技士が地方から首都圏(東京、神奈川、埼玉、千葉)に流出・転職している実態をレポートする。

全国建設業協会の会員企業が不在の市区町村

全国建設業協会(略称:全建)の調査によると、全国建設業協会の会員企業が存在しない市区町村が拡大している。全国建設業協会の会員企業は、災害復旧作業や除雪作業など地域の“守り人”としての役割を担うため、これは事実上いわゆる「災害対応空白地域」が拡大していることを意味する。

全国建設業協会の会員企業が存在しない市区町村は、全国1741自治体のうち、188自治体と全体の10.8%を占める。47都道府県中26道府県が会員企業不在の市区町村を抱えている。さらに、全国建設業協会の会員企業が“今後不在となる懸念”のある市区町村は、全国1741市区町村のうち、4.1%の72自治体に上る。日本全国において、大きな災害が増えている昨今、「災害対応空白地域」の拡大は憂慮すべき緊急事態である。

施工管理技士の「給与」と「応災力」の関係性

さて、この全国建設業協会のデータをめぐり、私は「災害対応空白地域」について業界関係者にインタビューを実施したことがある。当初の目的は、各地域の「応災力」を調査することだったのだが、業界関係者の話を聞くうちに、施工管理技術者の給与と「応災力」の関係性が浮き彫りになってきた。

以下は北陸地域の全国建設業協会傘下にある地方建設企業、専門工事会社、自治体発注者の話だ。読みやすいように、箇条書きでまとめる。

深刻すぎる施工管理技技士の県外流出

北陸地方にある建設会社A社の社長談

■首都圏(東京、神奈川、埼玉、千葉)や東日本大震災(宮城、福島、岩手)の被災地などに仕事が集中し、地域建設企業はアベノミクスの恩恵から置いてきぼりをくらっている。

■全国建設業協会の近藤晴貞会長も「いいのは東京だけ」と言っている。

■首都圏との給与格差が拡大し、地域建設企業から首都圏に施工管理技士が流出している。

■新入社員を確保するどころか、施工管理技士の人数を維持することすら厳しい。

■公共投資への依存度が大きいので、国や県は収益性を確保できる公共事業を毎年発注してほしい。

北陸地方にある専門工事会社B社の社長談

■北陸は豪雪地帯だから、除雪に伴う作業が多いが、除雪は収益性が悪いため、冬期は首都圏に出稼ぎに行く技能者が多い。※除雪の採算性が黒字なのは、国交省49%、道府県43%、市町村30%

■出稼ぎによって首都圏(東京、神奈川、埼玉、千葉)や東日本大震災(宮城、福島、岩手)との給料格差の実態を知ってしまい、そのまま首都圏や東北地域に定住する建設技能労働者が多い。

■出稼ぎしない場合、昼は現場、夜はコンビニで働く建設技能労働者も増えた。

■地域と首都圏の格差が拡大すれば、技能労働者の流出が止まらない。

■国や県は公共工事を増やしてほしい。

発注者の県職員談

■公共事業の氷河期時代に必要な技術職員の採用を抑制した結果、監督員の監理技術が伝承されなくなった。

■今後、公共事業が増えても、監理できる職員が少なくなる危機感が強い。

■施工管理技士の資格を取得した職員を確保しなければ本県も厳しい。

■本県の公共事業投資額は平成8年度がピーク。平成26年度と比較するとマイナス51%。

■除雪や災害復旧で頼りになるのは地域建設企業なので、公共事業投資はそういう意味でも必要。

■公共事業関係費拡充に向けた政治解決を国に働きかけている。

つまり、

公共工事投資額の減少  ⇒  地域建設企業の減益  ⇒  首都圏との給与格差  ⇒  施工管理技術者の流出  ⇒  地域建設企業の倒産・減少  ⇒  全国建設業協会会員企業の減少  ⇒  災害対応空白地域の拡大  ⇒  応災力の低下

という負のスパイラルがあったのだ。これは自然災害に緊急対応できない地域が増えていることを意味する。

地域と企業の生命線は、施工管理技士の求人、人材確保

同一地域内での「企業間格差」については、ある元請けゼネコンの役員から、次のような話を聞いた。

北陸地方にある元請けゼネコンの役員談

■現在の公共工事の総合評価方式では、施工管理技士等の技術者確保が必要。

■施工管理技士を確保できる建設会社は好調だが、確保できない会社は、受注機会に恵まれない。

■ズバリ、施工管理技士の人材確保こそ元請けゼネコンにとっての至上命題、地域建設会社の生命線。

・・・どうやら施工管理技士の人材確保が、地域建設会社の存続、そして巡りめぐって、災害対応空白地域の縮小につながるようだ。しかし、一個人である施工管理技士が給与の高い首都圏や東北に出稼ぎに行くのは仕方のないことかもしれない。

最近、地方ゼネコンの再編という話題も急浮上しているが、それについては後日また執筆したい。

施工の神様

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