「土木は底辺の仕事」国のご改革がもたらした建設現場の闇部

土木屋の約9割が家族に建設業を勧めたくない

ある団体が地域建設業で働く土木技術者(土木施工管理技士有資格者)を対象にアンケート調査をしたところ、衝撃の結果が飛び出した。

土木技術者の89.3%が、建設業への就職を家族に勧めたくないというのだ。

これでは土木業は「不人気な業種」と言うより、「お先真っ暗な業種」だと言える。

土木技術者を対象にしたアンケート結果

現役バリバリの土木技術者たちにさえ、見限られつつある地域建設業。

政府が進める「働き方改革」によって長時間労働は是正され、休みも増えているのではなかったのか?

地方の現場では今、なにが起きているのか。地域建設業のウラ事情などに詳しい業界関係者Aさん(仮名)に話を聞いてきた。

建設現場では「規制厳格化」が進んでいる

——建設現場の安全衛生関係のルールがコロコロ変わっているそうですが。

A 日本の労働安全に関するメインの法律は、「労働安全衛生法」だ。法改正には国会承認が必要で、なかなか変えられない。政令である「施行令」は、政府が決めるので、たまに新たなものが追加されている。厚生労働省令である「労働安全衛生規則」は、職場への具体的な規制であり、ここ数年、頻繁に手が加えられてきた。

それらは、2019年にも大きく変わる。近年、省令が改正されるたび、建設現場への規制は厳しくなっており、作業性も著しく低下している。「建設業界の活性化」という観点からすれば規制緩和が必要であり、正直、逆行という印象が拭えない。

当然、改正の意図は規制、罰則の強化による災害減少を期待するもので、労働災害を減少させることは、業界の活性化に繋がることに違いはない。ただ「なぜ今なのか」と違和感を覚える。これら改正に際し、地域建設業からは「地方の中小、零細建設業の実情を理解していない。まさに切捨てだ」などと、不満の声が上がっている

「机上の安全対策」に苦しむ中小零細建設業者

——どういうことに対して、不満が上がっているのか。

A 例えば、2017年にロープ高所作業の規定により、従来の「命綱」が「メインロープ」に代わり、安全帯を取り付ける「ライフライン」の設置が義務付けられたが、2本のロープを操作することで、作業性は大きく落ちた。

さらに、「にわか識者」の発注者の中には、規定のない作業にまで2本のロープを要求する者もいる。「安全第一」とは次元の違う要求だ。要求された現場監督は、「どうしてここまで…。腹立たしさもあるが、あきらめの境地に近い」と言っていた。中小、零細の建設業者は、発注者と「机上の安全対策」に前後を挟まれ、もがき苦しんでいる。

2019年2月1日から「安全帯」の規格が「墜落制止用器具」に変わる。国際標準への対応、ISO規格への変更だ。建設業のみならず、安全帯を墜落防止の保護具として使ってきた日本の産業界では、法的に買い替えが要求されることになる。過去からの災害事例を探っても、安全帯が災害に起因したものは、そんなに多く見受けられない。だったら「なぜ今」という疑問が生じる。墜落災害を減少させるに至る効果より、規格替え、買い替えが先行しているように思えてならない。

ただ、国が決めれば、それに従うしかない。パブリックコメントとは単なる「ガス抜き」で、何らかに反映されるものではないことも重々承知しているが、やはり釈然としない。労働安全衛生法の主旨は、「快適な職場環境の形成による事故・災害の防止ではないのか」と言いたくなる。言葉の言い回しとか、後付け理屈、規格品、適用日など、こだわるものが違うのではないか。もっと職場の第一線で働く人のことを考えた措置が必要ではないだろうか

過去には規制緩和が進められたこともあった。民活という言葉もあった。ところが、ここ数年の規制強化は、「民活の粛正」になっていないか。職人と呼ばれる方たちの仕事場は、どんどん働きにくくなり、新規参入者も定着することなく、失意の中、業界を去っている。

——ただでさえ、職人不足で困っているのに、ダメ押ししていると。

A その通りだ。職人さんの作業に望む装備は大がかりになってきた。当然、保護具は身体を守る最終手段であり、法の有無とは関係なく、安全第一のためにある。

しかし、近年重装備となり、身体影響は著しく増加している。新規に発売されるものは高額になり、金銭的負担も大きくなっている。現状の胴ベルト型安全帯は1万円程度で購入可能だが、フルハーネス型になれば軽く5万円を超える。

新規格のモノは、国の肝いりなので、購入しやすい単価になる事を期待するが、果たしてどうだろう。いずれにせよ、大手製造メーカーや販売店は、さぞかし潤うことだろう。

カタチだけの週休2日導入で、賃金、工期にシワ寄せ

——国策として「週休2日の導入」を進めているが。

A 政府が進める「働き方改革」の本質が分からない。世間一般では、週休2日制は過去の話だが、建設現場はこれからの話だ。日給月給として働く職人さんが多い業種も同様だろう。ただ公共事業がもっぱらな建設業では、発注者の「ご意向」が大きく影響する。公共工事の発注者自身は週休2日で、年休制度も万全だ。従って他も同様に考えてしまう。

発注者に話を聞くと、設計では「週休2日に対する給与も含まれている」と言うが、含まれる額は現実的なものとは思えない。職人さんは休めば収入が減る。休んでも、収入が確保されている者には分からない理論かもしれない。休みがあっても使える金がない。ツライいことではないか。高額トイレやイメージアップ看板に税金をかけることの意味が分からない。高額な看板が国民の生活向上につながるとは、とうてい思えない。現実を直視すれば、国民であり、納税者である働く人の賃金をまず上げるべきではないか。

「この現場は週休2日です」という看板

さらに、「適正工期」と言うが、現実的に現状の工期では厳しい。発注者は「週休2日を視野に入れた工期を設定している」と言うが、実際に週休2日で現場を進めている技術屋さんは、ギリギリでやっている。現場での労働負荷は、以前にも増して、身体的、精神的両面にのしかかっている。現場は休んでも、事務所で書類をこしらえているのが現状である。土木の技術屋さんの研修会で行ったアンケート結果では、最も多くの技術屋さんが「週休2日にすると、工期的に厳しくなる」と回答した。切実な問題だ。

——発注者サイドは、カタチだけの「週休2日」を追い求め、中身が伴っていないと。

A 近頃、公共工事の建設現場で「この現場は週休2日です」という看板を見る。「建設業は週休2日ではない」と世間にアピールしているのか、何のためのアピールなのか、現場で働く人の総意で掲示しているのか、建設業法によるものなのか、誰かの指示によるものであれば、指示した人はしっかりと根拠を示すべきだ。

まさか、公共工事の点数制度による点数を付ける立場の者をおもんばかる行為ではないと思うが、決してそうであってほしくない。「建て前の週休2日」や「にわかづくりのやりがい」を捏造して、達成感を示しても、中身が伴ってなければ、若い担い手が入ってくるわけがない。仮に自分の家族や近親者を建設業、建設現場の第一線で働かせるとしたら、これで良いのか。良くないものを他人に勧めることは、人の倫理に触れる行為になる。

ムリだけど、受注したんでしょ?

——まさに「お役所仕事」という他ない。

A 発注者は「最小設計」という言葉を良く口にするが、これって「安全第一」ではない。「安全は第二、第三」になってやしないか。事故・災害があった現場は、仕事を止められ低い点数と、会社は指名停止という法にはない行政処分の対象となる。設計、発注段階ではお金を優先しておきながら、仕事が始まれば、金銭は関係なく「安全を優先させろ」と言う。ムリがあると思わないか。このしわ寄せを「請け負け(うけまけ)」と言うのか。「甲乙対等」って何のことだ。本気で思っていないなら、「嘘偽りの文書」に過ぎない。

「設計はこうなっていますが、現状ムリですよね?」(現場監督)

「確かにムリだけど、分かって受注したんでしょ?」(発注者一同)

もう、こんなやり取りをする時代ではない。発注者から、契約にない作業、安全管理上問題のある作業を簡単に「やってくれ」と言われることもある。業者にしてみれば、後々の報復を想定し「やるしかない」と覚悟を決める。赤字になってもやる。これが「請負」業だ。仕事へのプライドとはほど遠い、「やけくそな自分への言い聞かせ」だ。

——ただの「パワハラ」では。

A 例えば、急傾斜崩壊対策工事では、安衛省令で規定された安定勾配の工事は、ほぼ発注されない。受注した業者は、設計通り「5分」「3分」で切る。型枠作業では法違反が生じることが多々ある。

リスクの高い起工測量や準備作業、架設通路は、そもそも設計にないケースが多い。支障木などの先行伐開も同様だ。「最小設計」と公共工事の「安全第一」には大きな乖離がある

困難な現場の情報は業界間で水平展開する。同様の小工事が発注されても、不調不落が続く。発注者による見直し、設計変更の後、再度発注されることは稀だ。「設計と異なる部分は、後でちゃんと費用はみてやるから」と言うフレーズも良く聞く。

甘い言葉はだいたい根拠のないものばかりで、その場しのぎの詭弁が多い。要した費用の請求に対し、「点数を上げる、下げる」の恫喝的な言動もちらつく。因果関係は不明だが、実際に低い点数を付けられた現場もあるらしい。弱みにつけ込むやり方は、反社会的な行為に等しい。

——役人に「打算と保身」は付きものだが、ヒドイ。

A 「要した費用」に対する考え方は、個人の資質により大きく変わる。役人でも、自分が担当する現場、地域に真摯に対応する者は、上に対し熱意を持って説明し、業者に対し補填を図ろうと努力する。一方では、組織内の評価だけに固執する事なかれ主義のお役人さんの存在も聞く。

人事異動転勤制度は、地元との疎遠に拍車をかける。地元対応は地域業者の重要な任務となった。だったら、もっと地域の会社を活性化させる手立てを考えてほしい。自分がいるときだけ地元建設業者を重宝がられても、建設業者にとっては迷惑な話だ。

やりがい、達成感?「もういい加減にしてほしい」

——道理で現場監督に「コミュ力」が強く求められるわけだ。

A 土木技術者へのアンケートに「家族が就職する際、建設業種を勧めるか?」という質問があった。回答者の89.3%が「いいえ」と答えていた。理由として「給与が安い」、「仕事が危険」、「休みがない」が上位を占めた。中には「底辺の職種だ」と回答した技術屋さんもいた。忖度なしの本音だろう。ケガなく安全で、週休2日で、収入も将来も安定している業種で働く人には信じられない回答だと思う。

今年、スーパーゼネコン各社は過去最高額の賞与、昇給があったと聞いた。同じ日本で同じ業種で働く者でありながら、この差はいったい何なのか。これが「二極化」か。いったい誰が二極化を進めているのか。地方の会社は努力していないと言うのか。

——技術屋の「本音」は、なかなかオモテには出てこないようだ。

A これはある技術屋さんから聞いた話だ。「農家のトラクターは公道に土を落としても、誰も文句を言わない。建設業者のトラックが土を落としたらどうだろう。誰かがお役所に通報し、清掃とお詫びが要求され、発注者による叱責もある」。

「ところが、地元からは『あれやって、これやって』。まさに便利屋扱い。何をやってもタダでできるように使われる。常に低姿勢。汚れる仕事も厭わない。雨にぬれても休まない。少々熱があっても我慢する。だって納期も、使えるお金も人員も決まっているから、しかたない。やりがい、達成感?もういい加減にしてほしい。こんな嫌な仕事はない。息子は県外へ就職させるんだ」。

地域建設業を取り巻く様々な構造が変わらない限り、地場の技術屋さんの嘆き節が止むことは、当分ないと思う。

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