「ここは私の居場所ではない」
派遣社員として働いている私は、6月末で前の現場を終了し、7月月初からここの現場に来ている。配属されて2週間経った頃から、実はある思いを抱いている。
それは、生意気な言い方だが、「ここ(今の現場)は私の居場所ではなさそう」ということだ。どんな組織にいても、どんな立場であっても、自分が100%満足できる仕事と出会うことはほぼ奇跡に近い。それは理解しているが、この現場は異空間すぎる。
私が配属された部署は本来、現場監理が主業務のハズだが、この組織では、まともな現場監理など到底できていないことがハッキリとわかってきた。この組織の人たちは、他の組織を知らない、知ろうともしてこなかったようだ。
私のように新たに来た助っ人に対する仕事の説明も極めて不十分で、『どこの現場でも同じようにやっているだろうから特に説明がなくてもできるでしょ?』と本気で思ってる雰囲気だ。
その証拠に、業者と打ち合わせした内容を一方的に変更し、それを連絡もせず、金額を減らせばいいと言い、どう施工するのか問い合わせ等もせず、全部勝手に決めてしまい、鉄筋配筋の定着長が規定よりはるかに短く図面に描かれていても、もう決めたことだ!と意味の分からない返事が返ってくる有様だ。
何を言っても聞く耳を持たない現場
施工要領書さえできれば、あとは施工者に任せておけば工事は進む!と主張し、エクセルが自由に使いこなせるかだけが能力の判断材料のようで、私が施工図を描けば、こんな図面なくてもできる!と言われ、私は一体何のためにここにいるんだと思うようになってきた。
角が立たないように、できるだけやんわりと「これではまずい」と警告を鳴らしても、何一つ聞き入れようとしない。誰が何と言おうと今までやってきたようにやるんだ!と、ここの組織の人たちに言われているような気がしてならない。
何を言ってもダメなら、間違いだろうが何だろうが、言われた通りにだけやっておけばいいかと心が折れそうになる。でもそう考えるようになったら終わりだとわかっているし、何より自分自身の仕事の質も落ちることは明白だ。
じゃあ、「これはマズイ!これは間違っている!」と一人で主張し続けるべきなのだろうか?ここは流れに任せ、誤りも見て見ぬフリをして、あまりイライラせず、無心で過ごすのがベストの選択だろうか?
どう考えてもそれは正解ではない。自分に嘘はつきたくない。逃げたくはない。もっと違う考え方、もっと前向きな対策があるはずだ。それとも、いっそのことド~ン!とぶち当たってみるか?、なんてことを悶々と考えていたある日、こんな出来事があった。
“ド~ン!”とぶち当たってみた
図面を渡され、パラパラっと見たところ、『ん?これはどう見てもマズイな!』と思われる点がいくつかあったので、質問をぶつけてみた。
小さな建屋の土間スラブの配筋がD10シングル@300と描かれ、その外にある屋外の土間は、直径10@300のワイヤメッシュと描かれている。なぜ屋外だけワイヤメッシュなのか不明だが、直径10のワイヤメッシュを最低3枚重ねると、それだけで厚さは60となり、その土間スラブの厚さが100と描かれているのと考え合わせると、どう考えてもつじつまが合わない。
「それでいいんですか?」と担当の人に聞くと、何も言わず、立ち上がってどこかへ行ってしまった。すると、2~3時間後にメールがきて、「6のワイヤメッシュだ!」と一言だけメールに書かれていた。
それくらい口頭で答えてくれたらいいのに…。コンクリートのカブリは計算上32でまだ不足だが、面倒なので、私ももうそれ以上は突っ込まなかった。
さらに、構造の簡単な特記仕様書が添付されており、その中のコンクリート強度の欄に設計基準強度18Nと記載されていたので、またいくつか口頭で質問をしてみた。
「呼び強度は+3+3の6足して24Nの解釈ですか?また、生コン量も全体で150m3以下なんで、供試体は脱型用一週四週用で3×3の9本で足りると思うんですが、どうでしょう?スラブの鉄筋配筋がシングルですが、平面の形に応じて主筋方向が入れ替わるのですが、それは現場で指示すれば足りると思うのでそれでいいですか?どうでしょうか?」
一気に質問を投げかけてみたら、「質問はメールで送ってくれ!」とだけ言われ、何も回答を得られないまま、また席を立ってどこかへ行ってしまった。
私は席に戻り、メールで質問を送ったが、返事が返ってきたのは2日後だった。2日待った返事の内容は、「そのやり方が常識だ!」と、ただそれだけだった。
私が現場に来た意味
全てがこの調子で、それ以降は私が何を質問したとしても、大半は「それが正しい!」と回答が返ってくるだけだった。何も返事が返ってこないよりはマシだが、何一つ向こうの解釈や意見を含めた回答が返ってこないので、本当にこれでいいんだろうな?と疑問が残る。
間違った提案はしていないつもりだが、これじゃ全部私が思い通りにやってるだけだ。あとで何か言われるのも嫌なので、メールの回答は全て印刷し、いつでも見せられるようファイリングして持っている。
私から現場にあらゆる提案をし、付け加えることで、自分自身の知識の復習にもなるし、そうすることで最低限、私がここの現場に来た意味もあるのではないかと思っているやっている。
あまりに気になったので、「ここの事務所の仕事の進め方は大体こんなもんなんですか?」と、事務所のすぐ後ろに座ってる人に聞いてみた。すると、曖昧な笑みを浮かべ、「さぁ。部署が違うから私は知らない」と手を振られ、まるで触れてくれるな!と言わんばかりに逃げられてしまった(笑)。
つくづく「この現場は私の居場所ではない」と日々違和感を感じながら、今も働いている。