サンダルで現場入り。常識はずれな新人監督
ある日の定例役員会の出来事。
その日の役員会は協力業者の社長達も集まるような重要な会だった。そんな威風堂々たる場であったが、血相を変えて一人の基礎業者社長が大声でこう叫んだ。
「あの新しい監督はなんなんだぁ!?俺らが捨コン打ってる時によ、現場にサンダルできやがって!写真撮って帰ってったぞ!?舐めてやがんな!」
身長は190くらいあり、熊のような体格、手なんてまさにグローブ、眼力も獲物を狩るような鋭い目をしているその基礎業者社長は、怒らせると厄介だと有名な人物だった。役員会は無事終了したが、社長はとにかく怒っており、その日は社内でもその話で持ちきりになっていた。
別の日、どこからともなく現れた上司が、力なく私にポツリと言った。
「基礎業者の社長を怒らせてしまったなTakict君。。。まずいよ。。。」
そう。その社長を大激怒させた新人監督こそ、何を隠そうこの私である(笑)。
謝罪したいのに会えない!焦りはピークに
職人時代、私は外履きはクロックス、中履きは安全靴と使い分けていた。
さすがに監督業になってからは普段から靴を履いていたのだが、車にクロックスが積んであったがために、乗車時のクセでクロックスに履き替えてしまい、そのまま現場に乗り込んでしまったのだ。
悪いことは重なるもので、その時たまたま名刺を切らしており、写真を撮ってすぐ会社に戻って欲しいという指示があったため、挨拶もろくにできず現場を後にした。何より一番最悪だったのは、その日は社長も現場で作業にあたっていたことだ。
会社にとって有力な協力業者なのにも関わらず、最悪の印象からのスタートとなってしまった。
その後、社長に直接謝罪しようと、何度も色々な基礎工事の現場を回ったが、なかなか会うことができずただ時間だけが過ぎていった。相変わらずとても怒っているということだけが、風の噂でよく耳に飛び込んできていた。
そんなある時、住宅1棟を監督として任されることになったのだが、そこの基礎工事があの社長の会社だということを知った。
「やべぇ。。。早く謝罪しなくては。。。」
後回しにしたい時ほど、諦めて行動!
時に人生には、唐突に覚悟を決めなければならない瞬間がある。心の準備はしていたつもりだが、恐れていた“その時”は、不意に訪れた。
「あれが社長だよ。挨拶してきな。」
一緒に現場周りをしていた上司が指をさしたその先には、声を荒らげ、まさに熊をも素手で倒してしまう、漫画のキャラクターを彷彿とさせる巨大な人物がいた。しかもその日は特に機嫌が悪そうで、心なしか体もさらに大きく見えた。
あれだけ会いたかった人物だが、いざ目の前にするとなかなか勇気が出ない。人は誰しも怒られることを避けたいし、嫌なものだ。また今度にしよう・・・そんな言葉もびゅんびゅんと頭をよぎっていた。
ただ、そういう時、私は「諦める」ことにしている。
一見ネガティブに捉えられがちだが、実はこの感覚は現場で役に立つ。現場というものは、大小構わず必ずトラブルがついて回る。近隣との問題も、お客さんとの間でも、予期していない何かしらの問題が起こるのが常だ。その時に逃げてしまうと、現場は問題を抱えたまま進んでしまうし、後々に大問題となって表面化してしまう。
次元は異なるが、こういう時は諦めて前にでるように心掛けている。
とはいえ、相手がデカすぎて恐ろしい。あの手で張り手されたら、漫画のように遥か彼方まで飛んでいくだろうな、そんな事を思いながら、覚悟を決めて挨拶に向かった。
失敗を真摯に受け入れる姿勢
「社長はじめまして。新人のTakictというものです。」
そう言って名刺を差し出した瞬間、社長の顔色がみるみる変わり、目が飛び出そうなくらいの眼力で叫んだ。
「てめぇかぁ!俺らが仕事してる時に人の現場にサンダルで来るなんて、てめぇ新人のくせに随分度胸あんなぁ!どの面下げてここに来たんだおめぇはよ!よし、ぶっ飛ばす!」
覇気が凄い。顔が近い。でも引かない。ここで引いてしまっては、今後一緒に仕事ができなくなる。
「その節は大変申し訳ありませんでした。」
発する言葉はその一言のみに絞り、誠心誠意、社長の怒りを一身に受け続けた。どのくらいの時間だったか記憶にないが、一通り言いたいことを言い終えると、少し声色が落ち着き、名刺を受け取ってくれた。
「そんで、今日は何の用だ?」
嵐が過ぎた瞬間だった。その流れでなんとか無事に仕事を依頼することもできた。
ビルダーの世界は怖いくらい真剣勝負で、汗水流している強者の腕自慢たちがたくさんいる世界だ。だから、管理する側も同じ熱量で臨まないと失礼にあたる。今回は、自分のとてもくだらないミスで怒られてしまったが、腹を括り、ミスと向き合ったことにより、非常に沢山のものを得ることができたと実感している。
「サンダルのTakict君」が切り開いた未来
あの日、諦めて腹を括り、自分からあえて怒られに行く姿勢をみせた私に対し、社長はいつしか「サンダルのTakict君」というネーミングで呼んでくれるようになった。
後には、無理難題とも言える仕事のお願いや我儘も、もちろん怒鳴られ、文句を言われながらだが、聞いてくれるようになっていった。あの鬼の形相をしていた時からは、決して想像できなかった未来に、今、私はいる。
怒鳴られても、怒られても、変わらぬ姿勢でこちらも誠意をもって真っ向勝負を挑んでいけば、向こうが怯む時もある(笑)。職人との信頼は、そういう駆け引きから生まれていくものではないかと思う。
今後の未来を担う、若い施工管理者に伝えておきたい。
今の世の中、本気で怒られ、怒鳴り散らされることは少なくなってきているため、怒られ慣れることはないかもしれない。しかし、この建築の世界だけは「怒られ、怒鳴られているうちが華」「怒られ、怒鳴られた時が成長のチャンス」と覚えておいたほうがいい。
怒鳴られた時には怯まず、逃げずに潔く立ち向かっていくこと。それを乗り越え、一丸となってよい仕事ができた時に、施工管理の本当の魅力が見えてくるのではないだろうか。