裁判長!建設業はなぜ口調が強いのでしょうか?(施工の神様より)

「大丈夫です」はイエスかノーか?

多くの場合、「大丈夫です」はノーです。

たとえば、コンビニでレジ袋の必要性を聞かれたときに「いりません」「不必要です」と言うときつい感じがしてしまいますので、「大丈夫です」と言うことが多いと思います。

「結構です」も同じく、以前は肯定的なニュアンスでしたが、いまでは否定の場合が多いようです。言葉は、時代とともに変化するようです。

恐れ入りますが、金づちを取っていただけないでしょうか?

イベント大工の人たちは、夜中の作業で朝までに仕上げるなど、時間との戦いが苛酷な場合があります。受け取った図面には制作者の思いがこもっていますから、できるだけ思い通りに仕上げたいと考えます。一方で、イベント開始時刻を遅らせることはできません。限られた時間内で、集中して仕事をしています。

このような状況で、たとえば別の人の手元にある金づちを取ってほしいときに、「ちょっとすみません、たいへん恐れ入りますが、お手元にある金づちを取っていただけないでしょうか?」と言っている暇はありません。

ではどうするかというと、あるイベント大工の方に聞きますと、たとえ目上の相手であっても「金づち!」とだけ言うそうです。これで、「はいよ!」と金づちを渡してもらえます。お互いにわかっていますので、これでオーケーなのだそうです。

質問「なぜ建設業の人たちは言い方がきついのでしょうか?」

ネットの知識検索サービス掲示板に「なぜ建設業の人たちは言い方がきついのでしょうか?」という質問がありました。

これに対する答えとして「ストレートなほうが要望が相手によく伝わるから」「一歩間違うと危険という状況があるため、手短に、大声で、注意を喚起する方法に慣れているから」というものがありました。「一歩間違うと危険」が正鵠を射ているように思えます。

『愛と青春の旅だち』という1982年のアメリカ映画があります。航空士官候補生学校が舞台となっており、教官のフォーリー海兵隊軍曹が、生徒たちを心身両面で徹底的に鍛えあげます。あまりに厳しい訓練に、退学希望者が出るほどです。

アメリカの海軍兵学校や士官学校では、いずれも厳しい訓練が行われるそうです。ときには教官が夜中に抜き打ちでやってきて、過酷な訓練を命じます。そのときの教官の襟が真っ白で固ゆで卵のようだ、というのが「ハードボイルド」の語源の諸説あるうちの一つです。

なぜ教官は、まるでいじめ抜くように徹底的に厳しく訓練をするのか?

その理由はたった一つ、戦場から生きて帰ってきてほしいからです。生徒の命を守るためだったのです。

その言葉遣いはパワハラか、愛か?

命の危険は、建設業界でも同じでしょう。ある建設業界関連の裁判で、言葉によるパワハラがあったかどうかが争点の一つになりました。裁判長は、言葉づかいについて次のように言及しています。

『本件現場は橋架替工事現場であって(中略)重大な事故を招く可能性があるものであるから、このような危険が発生する可能性のある工事現場においては、労働者の指揮監督を行う権限を有する者が、指揮監督下の労働者各自の安全を図るために、労働者に対して一定程度の強い口調での指示や注意を行うことは社会通念上許容されるものである

この裁判の場合は、”パワハラではない“と認定されました。

昼間は鬼のような上長が、夜、食事に行くとやさしいので不思議に思ったことはありませんか?

このような上長の場合、昼間の現場での「一定程度の強い口調」は、命を守るという気持ちの表れのようです。そしてこれが、建設業の口調がワイルドな理由と思われます。

 

施工の神様

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