現場監督だけが知らない?建設現場の不都合な真実
私は、ひ孫請クラスの作業員だが、自分自身の経験から日本中の現場監督さんにどうしても伝えておきたいことがあり、今回の記事を執筆した。
現場監督は、最良の図面を頭の中で描くことが出来る技術を持った優秀な方々だと思うが、現場で仕事する作業員の中には、そんなことはお構いなしの低レベルの人間が多いのもまた事実だ。
建物のエンドユーザーの気持ちなどは、露ほども理解・想像できない作業員や職人が、現場でどのように現場監督の目を欺いているか、ぜひ知っておいてほしい。
作業員の悪行プロローグ「現場監督 VS ダンプ屋社長」
私には特に思い出に残っている一人の現場監督がいる。その現場監督は、とてもフレンドリーな現場監督で、ひ孫請クラスの作業員にも「コーヒー飲みに行こうぜ」と気さくに誘ってくれる人徳者だった。
その現場監督と出会った現場は、ボックスカルバートを埋設する公共工事の現場。
その現場監督は、ボックスカルバート設置後の埋め戻し時に、雨水の取り入れ口に単粒採石を入れるか入れないかで、ダンプ屋の社長と揉めたことがあった。ダンプ屋の社長の言い分は、そんな見えない所にいちいち規格通りの単粒採石を入れなくても大丈夫だというスタンスだった。
それに対し、現場監督は、ただの破採石では目詰まりを起こしてしまうので、単粒採石を詰めると主張。つまり、ダンプ屋の社長は面倒臭いからごまかせ、という姿勢だった。もちろん単価的なものもあると思うが結局、現場監督はそのダンプ屋社長の主張には一歩も譲らず、きちんと単粒採石を入れて施工した。
この例はほんの序の口だが、当たり前のことを当たり前に進めるだけでも苦労する現場監督は、よくプレッシャーに潰れないものだと感心する。そんな現場監督への尊敬の念を込めて、一部の低モラルの作業員たちが、どのように現場監督を欺いているか、ランキング形式で3つ報告する。
現場監督という重責を担って仕事をしている施工管理技士の皆さんに、ほんの少しでも役立てばと思う。当然だが、作業員や職人の中には真面目に仕事をしている優秀な方々も多く、悪者ばかりではない、ということも誤解のないように言い添えておく。
作業員の悪行ワースト3「4枚張りの天井」
2011年3月11日、未曾有の災害を引き起こした東日本大震災。その数ヶ月後、ちょっとした縁で、私は某高級マンションの建築現場に立つことになった。
まだ建設業界に顔を出し始めたばかりの素人作業員だったのだが、その現場で勤務している作業員たちのモラルやレベルの低さに、私は驚愕した。基礎杭データの偽装ほどではないが、公になればおそらく問題になるかもしれない。
まず、その高級新築マンションの中でも、販売価格が高めのクラスの部屋で目撃した作業員の悪行を紹介する。
そのマンションのクローゼットでは、施工時の出来上がりが図面より30ミリ高い天井があったのだが、作業員たちは、そのズレを埋めるため、9ミリボードをその上から3枚重ね張りしたのである。
つまり、通常より30ミリ高い下地を下げる手間が面倒なので、天井に4枚のボードを張ったことになる。
当然、現場監督に見破られることはなかった。
作業員の悪行ワースト2「現場からの脱走」
ワースト2の事例は、建物に影響はないが、とても低レベルの若い作業員の行動だ。
現場監督にとって、工期や納期はとてもシビアな問題だと思う。例えば、日程が一日延びただけで、百万円単位で損するケースもあると想像する。しかし、よりによって計画通りに作業を進められていないときや、現場が忙しいときにかぎって、悪行を働く作業員がいる。
いまどきは小さな現場でも、大きな現場でも、仕事を始める前に朝の点呼やKYなどが行われる。作業する人数の把握も、そのときにチェックすると思うが、点呼後に現場から脱走する作業員がいたのだ。
この作業員が行方をくらました理由はつまらないので省略するが、作業が遅延しているときほど、作業員が実際に現場で作業しているのか確認することが必要かもしれない。現場監督にとっては、あきれて言葉が出ないだろう。
だが、こうした作業員の行動はいずれ発覚するし、建物には問題ない。
作業員の悪行ワースト1「ホール施工現場のランナー」
私が見た中でワースト1の悪行は、某高級マンションの現場で起きた。私は、ひ孫請クラスの作業員として参加。私の会社は通常、毎日3人で工事に参加するのだが、当現場では、他の会社も合わせて、軽天屋20~30名で作業していた。
ある日、わが社の社長が二日酔いで休み、その片割れの社員も点呼後、風邪の悪化で早退、という情けない状況があった。その旨を現場監督に報告し、私は一人で仕事をすることになった。
その日の作業は、玄関ホールのケイカルボード張りだった。私はまだ軽天屋になってから数ヶ月目くらいの素人作業員だったが、現場監督から丁寧な施工図面を貰っていたので、社長たちが不在でも作業に困ることは何もなかった。
むしろ、技能習得という意味で、一人で楽しく仕事していたときに、現場で事件が起きた。ワンタッチSDを入れた瞬間に、LGS下地がランナーごとブッ飛ぶ事態に見舞われたのだ。
通常はコンクリートにガス銃で釘打ちしてあるはずのランナーなので、そんなことはそうそうない。さすがに一瞬、焦ったが、原因は一発で判明した。ランナーを木工用ボンドで天井に貼り付けあったのだ。木工用ボンドが使用されていたのは、高級感をバリバリ演出している某高級マンションの玄関ホール。現場監督がこの事実を知らないまま施工は進められ、竣工を迎えたことは言うまでもない。
……そして私は、この某高級マンションのエントランスの現場で、木工用ボンドに遭遇したとき、建設業界を辞めようと決意したのである。
建設業界への期待。登録基幹技能者制度の拡大
作業員の悪行をすべて見破るのは、いくら現場監督でも超能力者ではあるまいし不可能だと思う。私は数年間、建設業界のひ孫請クラスの作業員として仕事をする中で、さまざまな現場監督を見てきた。現場監督の仕事内容は多岐にわたり、民間工事や公共事業の工事現場など、どんな現場であっても工事現場の指揮を取る現場監督の背負っている責任の重さや、プレッシャーを理解することは、実際に現場監督を経験してみなければわからないと思う。
言えばわかる作業員や職人ならまだ管理できるが、言ってもわからない作業員や、言ったらあえてやらない職人もいる。そういう作業員や職人すら、まとめあげていかなければならない現場監督。私はそんな現場監督への尊敬の念を込めて、この記事を書かせていただいたが、もしこの密告が、何らかの形で現場監督と建設業界のお役に立てば幸いである。
平成8年に「基幹技能者制度」としてスタートした民間資格が、平成20年の建設業法施工規則改正によって、国土交通大臣登録講習制度「登録基幹技能者」という資格制度になったが、この登録基幹技能者制度のさらなる拡大を建設業界の外から望むばかりである。
もちろん、作業員や職人は真面目で仕事に熱心な人がほとんどである、という前提を忘れてはならない。