土木作業の体感温度は約45度
残暑とは名ばかり。土木にとって一番過酷な猛暑の夏が続いている。
先日は気温36度を記録し、アスファルト上での作業時の体感温度は約45度にも及んだ。私の現場でも、熱中症で体調不良を訴える高齢の作業員が出て、作業不可能になる状況もあった。
言うまでもなく、土木の現場では、抜かりない熱中症対策が必須だ。
しかし、現実はそう簡単ではない…。
土木現場のWBGT
土木の現場では、暑さ指数「WBGT値」の計測器を、現場ハウスに設置することが多い。私の現場では、WBGTを具体的に掲示することによって、一定の数値以上になった場合に対策を行うことになっている。
WBGT値は、気温とは異なり、湿度や日差しの強さなども含めたトータル的な「熱中症の危険性」を表す数値。1954年に熱中症を予防する目的でアメリカで提案され、WBGTの数値が高いほど熱中症になりやすい現場環境とされる。
WBGTの基準値は、身体作業の強度(運動量)に応じて、「低代謝率」「中程度代謝率」「高代謝率」「極代謝率」の4段階で定められており、土木の現場では上位2つ「高代謝率」「極高代謝率」と呼ばれる身体作業強度を基準に熱中症対策を行うのが通例だ。
例えば、重量のある材料の運搬、伐採作業、コンクリート積みなどの作業は「高代謝率」の現場とされる。われわれ土木施工管理技士や土木作業員らは普段から「熱に順化している(作業する前の週に毎日熱にばく露している)」ので、WBGT値は25~26を基準値で考えることになる。風が吹いている現場環境では26、気流を感じない現場では25である。
WBGT値が25以上を示すと、水分補給と長めの休憩をとり、15分おきにローテーションで作業するなどの工夫を行う。土木作業員の運動量で、仮にWBGTが28~30を示した場合は非常に危険で、暑さに慣れている作業員とはいえ、熱中症になる可能性が非常に高くなる。
そして、実際に土木現場で基準値を超えるWBGTの計測結果が出た場合、その数値を下げるための具体的な対策を行うことになる。散水によって現場の温度を低下させたり、作業現場に扇風機やドライミストを設置したりして、WBGT値を下げる。WBGT値を下げるのに一番効率が良いのは、私の経験上、ドライミストで、設置が可能な現場状況ならば、ドライミストは必ず設置した方が良い。
現場ハウスを設置しない危険性
猛暑の中で特に危険なのが、現場ハウスを設置せずに工事を進めている現場だ。現場環境の都合で現場ハウスを設置しない現場も多いが、この時期に現場ハウスを設置しない現場は、非常に危険である。
室外の現場で休憩をとっても、外でヘルメットなどを被って作業している作業員の体の熱は中々逃げない。いくら水分補給しても、体の熱が逃げないまま作業を続けるのは非常に危険で、現場ハウスのない現場は危険である。
暑さ指数が高くなってきたら、現場ハウスに入って、冷房で身体の体温を冷やさなくてはいけない。それが不可能な現場はかなり過酷だ。
作業時間をずらす施工計画書
そこで私は、現場ハウスがない現場では、作業員の体調を考慮して、施工計画書で8〜9月の作業時間を変更する書類を作成し、役所に提出している。
この時期の気温のピークは朝10時から昼3時で、この時間帯が日差しも一番強くなる。そこで作業時間を朝8時から10時の2時間と、夕方3時から夜の7時までの4時間に分け、作業員をローテーションで従事させることで、作業負担の軽減を図っている。
作業時間をずらした結果、一日の作業時間自体は短くなってしまうが、暑さがピークの時間帯に作業と休憩を繰り返す時間をトータルすれば、時間をずらした方がはるかに作業効率は高いと実感している。
土木作業員の体力を奪うのは、暑さと何と言っても「日差し」である。日差しを浴び続けることで熱中症になるリスクが高まる。作業員の安全面に配慮するならば、作業時間の変更する内容の施工計画書を提出することで、日差しを避ける選択は正解ではないだろうか。
水分補給と塩分補給をPRしすぎた功罪
熱中症は、土木の現場では非常に深刻な問題となっているが、それは熱中症に対する認識の甘さが根源にある。テレビなどで水分補給と塩分補給の重要性が訴えられているが、それがかえって「水分や塩分補給さえしておけば大丈夫」などといった間違った情報にすりかわっている問題もある。
私の経験上、実際に現場で作業員が陥りやすいのは、体温が上昇して、熱が逃げずに脱水症状を起こすケースである。
単に塩分や水分を摂取するだけではなく、体温を下げるために、ドライミストと現場ハウスの設置が必要である。
大人の事情で難しいのかもしれないが、ドライミストの製造メーカー各社にはもっとPRに努めて、土木の現場に設置必須のアイテムに昇華させていただきたいものだ。
塩飴は平成の夏に十分普及したので、来夏、新年号の夏にはドライミストを土木の現場に普及させていただきたい…。