残業100時間超の現場監督。サービス残業の元凶は、労働基準監督署?

残業100時間超の現場監督は多い?

現場監督で残業80時間を超えている人は多い。残業100時間超えが当たり前という現場監督も少なくないと思う。

しかも、電通の過労自死事件が明るみになってから、労働基準監督署も厳しくなっているため、残業80時間を超える場合は、サービス残業を強要する現場も出てきていると聞く。

このままでは労働基準監督署によって、残業が減るのではなく、「給与だけが減らされる」と指摘されても仕方ない状況だ。

私はこの問題について、建設業界のスキャンダルや、若手離れに発展しかねないと危惧している。

建設業は「36協定」の適用除外業種

厚生労働省は、時間外労働に関して労使間で締結する「36協定(サブロク協定)」において、1ヶ月あたり45時間などの上限を告示で定めているが、建設業は適用除外業種となっている。

建設業は工事の受注量が変動しやすく、作業が天候に左右されやすいことから、時間外労働に一定の上限を設けることが難しい、というのが適用除外の理由だ。

しかし、これが建設業の超過勤務を招いているという指摘は以前から多い。

労働基準監督署による「残業80時間」の線引き

厚生労働省は平成13年、労働基準局長通達として『脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準について』を出した。

これをもとに「時間外・休日労働は1ヶ月あたり80時間」という、いわゆる「過労死ライン」が引かれたわけだ。この「80時間」という線引きは、それなりの統計数値からはじき出されたのであろうが、厚生労働省・労働基準監督署は電通の過労自死事件以降、この「80時間」を建設業にも遵守させようと躍起になっている。

今までよしとしてきたことを一切鑑みず、他産業と同等のルールを敷こうとすれば、逆に違法労働を強要するブラック企業の存在を助長しかねないのは当然である。しかし、そんなことにおかまいなく、労働基準監督署は今、建設現場に直接調査に入り、容赦なく是正指導を出している。

公共工事に依存しているゼネコンは、お上には逆らえないので従わざるを得ない。そして是正指導を受けると、概ね1ヶ月以内に是正報告書を提出しなくてはならない。

80時間以上の残業はつけるな!忖度しろ!

サービス残業は建設業全体の根が深い問題であるにもかかわらず、1ヶ月で是正を求められる。これに対する建設現場の早期解決策は「80時間以上の残業をつけるな」である。現場所長クラスでできることと言えば、この程度というのが本音だ。

会社をあげて「工期やコストを気にしなくていいから、みんな残業を80時間以内に抑えよう!」となれば話は別だが、そんなことはあり得ない。建設業界に限らず、営利企業にとって「働き方」は2次的なことであり優先度の低い課題だからである。

私自身も普通に「これ以上残業はつけるな」と指示したことはある。部下にしてみれば、上司の指示だから選択肢は「残業をしないで帰る」か「サービス残業をする」かの2つに絞られる。

残業しないで帰ること自体は難しくはないだろうが、結果として与えられた仕事を決められた期日までに終えられなければマイナスの評価を受ける。それを避けるにはサービス残業をせざるを得ない。技術者として品質にはプライドを持ってこだわりたいという責任感もこれに加わっていく。 そのシワ寄せは結局、現場にやってくる。

某ゼネコンの知人によれば、「労基対策で残業は80時間以上つけられない」というのは業務指示ではなく「忖度」だという。

長時間労働はゼネコンと発注者の問題

厚生労働省は「平成28年版過労死等防止対策白書」の中で「所定外労働が必要となる理由」として、企業側の回答を公表している。上位4点は以下の通りである。

  1. 顧客(消費者)からの不足な要望に対応する必要があるため
  2. 業務量が多いため
  3. 仕事の繁閑の差が大きいため
  4. 人員が不足しているため

企業側の回答であるにも関わらず、個人の能力・資質に起因する回答が少ない。つまり、長時間労働は、労働者に責任があるわけではなく、企業側に起因するものと断言しても問題はないと思う。

日本の雇用システムは「人」に「仕事」をつけていく。「仕事」に「人」をつける諸外国と違って、担わせる業務の範囲が際限なく広がる可能性があり、仕事の絶対量の増加を促す可能性も大いにある。業務の範囲が広がり、複数の担当を持つようになると、主たる業務が順調に進んでいても、ほかとの関係でトラブルが発生した場合には残業を余儀なくされる。たとえば、ハウスメーカーで施工管理をやっている知人は、何件もの住宅工事を一人で担当している。

良い意味でも悪い意味でも、この国における残業は合理的に生まれていると思われる。そして建設業の場合、公共工事も民間工事も含め、発注者の存在も長時間労働の問題と無縁ではない。

「働き方改革」は茶番 ?本当に「残業は悪」なのか?

一億総活躍社会の実現に向け、「働き方改革」の議論が進んでいるが、政府は日本の労働制度の課題として、以下の3点を挙げている。

  • 世の中から「非正規」という言葉を一掃していく
  • 長時間労働を自慢するかのような風潮が蔓延・常識化している現状を変えていく
  • 単線型の日本のキャリアパスを変えていく

「働き方改革」では、長時間労働の抑制をすれば、優秀な人材が集まるという意見もある。今年の3月には「働き方改革実行計画」として、残業時間に関する上限規制を設ける方向性も固まった。

しかし、建設現場の実態は逆ではないか、というのが私の本音だ。

私の経験上、優秀な施工管理技士ほど「たくさん働きたい」と言う傾向がある。裁量権を与え、自由に好きなだけ仕事をやらせ、それに対する見返りをしっかり与える。そして成果をきっちり出してもらうのが、現状の建設業界ではベストである。

健康面に配慮するのは必要だが、個々によって価値観は違うので、1秒でも残業をしたくない人もいれば、見返りがあることを前提に、残業を100時間でも200時間でもやっても良いという現場監督もいる。

そういう点で、労働基準監督署による「時間外・休日労働は1ヶ月あたり80時間」という形式的な指導は、疑問が残る。

厚生労働省は2020年をめどに、大手企業に対して残業時間の公表を義務付けるようだが、 果たして残業は減らせるのだろうか。現時点で私が考えているのは、それまでにいかに派遣社員を確保し、自社社員のサービス残業を減らすかと言うことだ。

しかし、本音では、一億総活躍社会は、労働時間に縛られない自由な働き方も許されるべきではないかと思っている。もちろん個人的な見解である。

施工の神様

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