下請け業者の一斉入れ替え
初めて建設現場に足を踏み入れた日のことを、最近よく思い出す。
私が入社した会社の現場は、サングラスをしたガラの悪い人たちが威圧的な態度で仕事をしている、そんな現場だった。まあ当時で言えば、それが建設会社のカラーだと言われていた部分もあった。
しかし、ここ数年で、会社の建設現場は格段に雰囲気が良くなってきている。理由は、会社が一斉に下請け業者の入れ替えを行ったからだ。
今回は、当社がそんな思い切った決断に至った経緯をお話ししよう。
施工者不足で横柄になる下請け
私の会社の工事現場では、現場監督と職人が常に対立していた。
現場監督の仕事上、安全に対して口うるさくなってしまうことと、発注者の細かい指示を職人に伝えると煙たがられるといった理由から、どうしても職人が現場監督を毛嫌いしていた。
その嫌われっぷりは凄まじく、現場資材などの片付けも行わずに帰宅してしまうなど、明らかに業務にも手抜きが発生していた。
それを指摘しようもんなら、現場監督の粗探しが始まり、「監督の段取りが悪いから」などと理由をつけて、職人たちは業務をまともに行おうとしなかった。
当時の現場環境は、それはもう最悪だった…。
その当時は施工会社が本当に少なく、特に地方では工事があっても施工者がいない状況が続いていた。
そういった背景から、元請けの現場監督たちは、行儀の悪い下請け業者だったとしてもグッとこらえて言うことを聞かなくては工事が進まない、という状況だった。
それゆえ、横柄な下請け業者の存在が社内でも問題視されていた。
ある日、会社が強気の姿勢に
ある日突然、会社がいきなり下請けの選定をやり直すと動き出した。
会社の中堅役が各現場を視察、現場の環境や勤務態度を厳しくチェックしたのち、大胆にも、行儀の悪い下請け業者に対し、「今の工事が終了したら今後仕事を発注することはない」と役員直々に申し出たのである。
これには正直驚いた。下請け業者が少なくなれば、当然会社としては苦しいはずだ。しかし、そんなことなどお構いなしに、会社が横柄な下請けを全て切ったのだ。
実はこの頃、下請けの手抜き工事が問題になり、品質低下に伴う発注者からのクレームが後を絶たなかった。
これを受け、会社は『発注者が満足しない品質ならば工事をしていないも同然だ』という考えに至ったようで、品質向上のため現在の下請けを切り、苦しい状況になってでも丁寧な仕事をしてくれる業者の選定に乗り出したのだ。
会社が生き残るために必要な選択
結果的に、この判断は正しかった。
いざ会社が次から仕事を発注しないとなると、最終的には、横柄な下請け業者も現場監督に謝罪をしていたらしいが、時すでに遅しだ。
下請けの入れ替え当初は苦しかったものの、地場コンである会社の1次下請けとなると話は別だ。すぐに代わりの業者は見つかった。
もちろん業務も大変真面目で、円滑にコミュニケーションをとることもできる。結果として、品質の高さが評価され、社名がより広く知れ渡ることとなった。
――この話を聞いて、同じ建設業界で働く皆さんはどう思っただろうか?
仕事をもらうため、無理難題な内容の工事を請けてしまってはいないだろうか。また、好き勝手ばかり言うクライアントや発注者と、目の前の利益のためだけに付き合ってしまってはいないだろうか。
確かに、今の建設業はそういったこともしなければ生き残れないほど厳しいかもしれない。しかし、そのような仕事しか受注できないのであれば、それはそもそも自分たちの方向性が間違っているのかもしれない。
今の環境が悪くて悩んでいる人は、思い切って嫌な仕事を断る勇気も時には必要だ。