現場が正念場を迎え、ピリつく所長
安全専任者として働いているプラント工事現場はまさに今、正念場を迎えようとしている。電気計装の作業員も150人を超えそうな勢いだ。ここの現場に来てから、今が一番作業員数が多く、注意の対象も増えてきた。
案の定、最近の合同安全パトロールや月1回の安全衛生協議会前の安全パトロールでも、指摘や是正対象が増え、私のいる会社の所長は常にピリピリしている。
こういう時期は、誰にも言えないような文句は全部、安全担当にまわってくると覚悟したほうがいい。事実、ここの現場でもそうなってきた。
いくら神経質になっているからと言っても、言っていいことと悪いことがある。ちょっとやそっとのことは私も気持ちを抑えるが、さすがにプツッとキレそうになったことがあった。
所長の八つ当たり
現場には、私の所属してる会社を含め、9社ほどのサブコンが元請けの下についている。それぞれが安全担当者を抱えているのだが、専任ではない会社の場合は、安全に関し、目の行き届かないことも多くなってくる。
ある日、他社の作業員が、監視人や交通整理する人間が誰もいないことをいいことに、安全通路の左右のバリケードを開き、安全通路を横断してフォークリフトで資材を運んでいた。安全通路はメインの通路で、作業員がひっきりなしに通っている。
フォークリフトの運転者は、資材を運ぶのに一生懸命で、どうにかこうにか渡ろうとしている。他の作業員たちに道を譲ろうとする気はさらさらなく、一心不乱に安全通路を横断している。交通整理も何もなく、極めて危険な状況だった。
それをたまたま発見した私は、他社の仕事とは言え、私も安全のチョッキを身につけているので見て見ぬ振りはできず、フォークリフトの運転者に「歩行者の交通整理しながら合図するから!」と言って、5分位の間そこで歩行者を止めたり、フォークリフトに合図を送るなどしていた。
すると、そこに私の所属会社の所長が通りかかり、「何してるんだ」と聞かれたので事情を説明すると、「よその会社のことはほっとけ!余計なことしてると金払わねーぞ!」と怒鳴りだした。
私もさすがに黙っていられず、「そんなこと言ったってホンの4~5分じゃないですか!危ないと感じたからやってることじゃないですか!」と言うと、「全く余計なことばっかりやりやがって!」とブツブツ言いながら歩いて行ってしまった。
そんな所長の態度は自然と他の職員にも伝染し、極めてぞんざいな横柄な態度で私に接してくるようになった。
ただのガス抜きが思わぬ展開に
正直腹は立ったが、こんなことは今まで何度も経験してきた。現場だけではなく、他のゼネコンでもいくらでもあり、いちいち腹を立てていたら始まらないと、ただただ自分の感情が乱れないよう気を付けている。
ただ、自分の中だけにその気持ちをため込みすぎてしまうと、それが小さなきっかけで爆発するかもしれないので、しっかりガス抜きをすることが大事だと心得ている。
今回の場合はガス抜きの方法として、派遣会社の私の担当にメールを送った。事情を話し、多少愚痴を交え、それだけでガス抜きをしようと思ったのだが、思わぬ展開になった。
私の話を聞いた担当者が「それは酷いパワハラだ!」と言いだし、所長の上の人間に直接連絡して抗議したのだ。
担当者から話を聞いた所長の上の人間も『それは酷い!』と思ったらしく、私に直接電話がかかってきた。
改めて事情を説明すると、「本人にはきつく話し、今後そんなことはないようにするから、今回はここだけの話にしておいてくれないか?」と言われた。
私は事を大げさにしようなんて全く思っていないので、了承して電話を切ったが、話はそれだけでは終わらなかった。
数日後、所長に呼ばれた。すると怒った顔で、「何もできねぇくせに上に言いつけてんじゃね~よ!」と言いだした。
それ以来、ネチネチネチネチ…色々言われているが、そんなくだらないことで感情が乱れていては私にとって損になるだけなので、ただただ淡々と業務をこなして過ごしている。
「パワハラ」で私が思うこと
現場でこんなことが起こっているが、恐らく私はまだマシなほうだ。世間には、人には言えないようなパワハラを受けている人がたくさんいるだろう。
どうにかしなくては、と真剣になって解決しようとしてくれる周りの人間がいないから、パワハラはなくならないのではないだろうか。ただただ形式通り、上から注意すればそれで解決すると思っている人間が多すぎるように思う。
本当に困ってる人が、覚悟を決めて誰かに相談しても、大半が『こんなことになるなら相談なんてしなければよかった』と思ってるんじゃないだろうか?
パワハラに負けずに頑張れ!と口で言うのは簡単だが、耐えながら仕事を続ける精神的な疲労は、心身をドンドンむしばんでいく。
表面上、綺麗なことを言っている人がたくさんいるが、そもそも世間の考える基準が狂っているように思う。被害を受けてる人の視線に立った考え方になっていない。
パワハラを訴えようとしている人の大半は、パワハラを会社に話した瞬間、クビも覚悟している。そもそも、その後も同じ組織の同じ部署にいられるハズがないし、同じ組織にいたいとも思わない。
本当に困って、最悪自殺する人さえいる中で、今と同じ働き方・やり方を継続させていては、問題は何一つ解決しない。
もっともっと会社の社員に対してキメの細かい配慮をし、会社上層部に対しても指導をしていかないと、悲劇は増え続けるだけだ。