建設業の体験談を募集 “月3万円~”で水害大国・日本を守る。河川工事でも水位計の設置がスタンダードとなるか?

月額3万円~で水位計が設置できる?

横河グループで、センサとクラウドによるソリューションサービスを展開するアムニモ株式会社は2020年1月、「簡易無線水位計測サービス」を発表。無線水位計、通信、クラウドのオールインワンパッケージを初期費用0円、月額3万円~で利用できる、破格のサービスだ。

水位計については、近年の大規模水害を受ける形で国交省が指針・ガイドラインを策定するなどし設置を推進している。だが、従来型の水位計は高額で、なかなか設置が進んでいない現状がある。

水害の事前予測・対策には水位計の設置が必至だ。しかし、高額な本体費用や設置費により、とくに規模の小さな河川、自治体ほど進んでいないのが現状だ。

国内最大手の計測・制御機器メーカーである横河グループであるアムニモが、水位計というニッチな製品を開発し、展開するに至った背景には、こうした導入コストを抑え、「一時でも早く水位計の設置が普及させ、水害対策に貢献したい」という強い思いがある。

同社の新井崇氏と鈴木義弘氏に開発までの経緯と、従来の水位計が抱える根幹的な課題について話を聞いた。

もっと手軽に水位を図りたい

アムニモはなぜ、水位計を開発したのか。そのキッカケは、意外にも近年多発する水害によるものではなかった。

「3年前、クライアントからある相談があった。『工場の敷地内の用水路が、1年間に何度か氾濫してしまう』と」(新井氏)

概して、工場は河川や海に隣接している土地に誘致されることが多く、土地条件が芳しくない場合が多い。もし浸水すれば、工場の稼働ができなくなり、致命的な機会損失となる。そのため、水位計測は工場の安定稼働のために必須の予防措置となる。

だが、既存の水位計を設置するとなると、配線工事の手間が掛かる上に、本体費用や設置費用も高額だった。

「話を聞いていくと、建設業者が河川工事などで短期間に利用したいというニーズも見えてきた。『もっと簡単に、手軽に水位を測りたい』という要望に、どう応えられるのか知恵を絞った」(新井氏)

長年にわたり、プラント内のセンサ開発に従事してきた生粋のエンジニアだった新井氏の頭に、「横河電機のコア技術である圧力センサを水位計に転用できれば、正しいソリューションを提供できるのではないか」という考えが廻った。

2017年、横河電機の新規事業として水位計の開発が始まる。さらにその1年後、センサとサーバー、クラウドサービスをパッケージ化し提供するアムニモ株式会社が、横河電機からスピンアウトする形で発足。アムニモと合流し、クラウドを活用した水位計測サービスの開発へと進んでいった。

投込式、電池式にこだわる理由

実際の河川をフィールドに開発は進められた。開発に際し、ポイントとしたのが”電源を電池に”することだった。

当初、外部電源を利用する形式だったが、自身で河川に赴くと、電源のための配線工事の手間が事業者の負担となっていることが分かった。

「電池だけで動く水位計はまだまだ少なく、どうしても大きな電源が必要になるモノが多い。今はソーラーパネルも主流となっているが、山間部などは日当たりが悪かったり、天候条件にも左右されやすい。すると、どうしても電源に不安が生じてしまう」(鈴木氏)

そのため、電源は電池とすることにしたが、電池式ではバッテリーの保ち時間に不安が残る。携帯電話も同様だが、データ通信の際が最も電池の消費が激しくなる。そこで、水位の計測時は、監視モードでは20分ごとに測定・通信し、しきい値を超えると観測モードに切り替わり、即座にクラウドサーバーに通知する。電池消費を抑え、メンテナンスフリーで1年間以上駆動する省電力化を実現した。

測定方式は投込式に。超音波式では、河川の真上から超音波を照射し、水面で反射した超音波を受信し計測するため、橋梁などに設置する必要があり、条件を選んでしまうからだ。また、データの通信には、遠隔地での利用も想定し、携帯電話の回線である3Gを採用しており、今後LTE等にも容易に変更可能な設計としている。

新井氏は「全国各地、あらゆる現場を想定している」と語る。

完成した水位計の送信BOXと水位センサ

“安かろう、悪かろう”では意味が無い

従来、無線水位計の導入には膨大なコストが必要だった。アムニモの試算では、一般的な無線水位計を導入するには、最大80万円ほどの本体費用に加え、通信契約やクラウドの開発費に300万円、電源を繋げるための電気工事や設置工事費に数十万円と、400万円前後の初期費用は必至だという。

その上に、月々の通信費や維持費用が上乗せされていくため、どれだけ利便性が高くとも設置・運用を阻害する最大要因でもあった。

アムニモでも開発当初は買い切り型でのビジネスモデルを検討したが、こうした背景から利用期間に応じて料金を支払うサブスクリプション方式に舵を切った。事業者は水位計の設置工事費の負担こそあるが、それ以外の初期費用は一切なく、必要なのは月々の通信費と維持費用のみ。その額、わずか3万円~。

「大手建設業者ならば、自社で水位計を購入し、システムを構築することができる。だが、中小建設業者はテンポラリー(一時的)で利用するため、水位計本体を購入するのは負担が大きく、クラウドの構築も敷居が高い。

私たちの水位計測サービスはクラウドも通信もすべてオールインワンで、設置し電源スイッチを入れるだけですぐに利用できるようにした」(新井氏)

工場内の用水路での設置状況

とくに河川工事においては、中小建設業者は「施工費に見合わないから」と水位計を設置しない現場も多い。現場監督たちは雨が降るたび休日だろうと水位確認のために現場に駆けつけなくてはならず、天候によっては水位監視のために現場に寝泊まりしているのが実情だ。

無線水位計なら、遠隔地からパソコンやスマホで水位を確認することができる。サブスクリプションによりコスト負担を抑え、導入の敷居を低くすることは、結果的に現場を管理する技術者、作業員の安全管理だけでなく、人件費の削減にも大きく寄与することになる。

ため池での設置状況。設置は1時間半程度で完了する

ただ、水位計は人の命を守るモノ。”安かろう、悪かろう”では何の意味も無い。アムニモの無線水位計に使用されている圧力センサは、横河電機が独自開発し、プラントや計装分野で使用されている”シリコン振動式センサ”を電池で駆動できるようにしたもの。「横河電機30年の技術の粋」が詰まっており、その精度は「世界最高クラス」(新井氏)と豪語する。

既にアムニモの無線水位計は、2018年の西日本豪雨で甚大な被害を受けた広島県で進められるため池の遠隔監視システムのモデル事業に試験的に導入され、その優位性を確認している。

河川工事で水位計の設置がスタンダードになってほしい

埼玉・川越に住む新井氏自身も、昨年の台風19号による入間川流域の氾濫を目の当たりにした。浸水被害により、今も避難所生活を送る友人もいる。だからこそ、今回開発した水位計には並々ならぬ思いがある。

「治水対策は、一朝一夕に出来上がるものではない。だが一方で、昨今の異常気象を鑑みると喫緊の課題でもある。一時でも早く水位計の設置が普及するべきだと考えている。周辺地域への安全管理が課題となっている河川や水路等の工事現場で、まずは一度使っていただきたい」(新井氏)

コストが、安全管理ひいては人の命を守る障害となることはあってはならない。アムニモの無線水位計測サービスが、日本の治水対策を加速度的に推し進めていく未来に期待したい。

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