就業規則の大幅改定に至った”裏事情”
昨年8月、決算を機に就業規則の大幅改定をし、「昭和カンパニー」から「令和カンパニー」への変身を図ったことを前回の記事に書いた。
なんとか若手社員を確保して会社の若返りを図りたい、というのが表向きの理由だったが、実は会社には”裏事情”があった。
2024年4月から適用される「建設業の時間外労働の上限規制(罰則付き)」、さらには2023年4月から適用される「時間外労働に対する割増賃金率UP」。これらに対応するには、今のままの就業規則ではどうにも具合が悪い…と踏んだのだ。
ちなみに、それまでの技術職社員の休日は「週一日」。祝日は「休める者は休んで良し」の体制。みなし残業15時間を超える残業代は、賞与の際に半年分を加算して支払うというザックリしたものだった。(就業規則に残業代に関する記述はなし)
それでは万が一、労基の査察でも入った日には、ブラック企業のレッテルを貼って帰られることは明らかだった。就業規則改定の相談をした社労士にも「これではダメです」と言われたらしい。そりゃそうだ。
念のため言っておくが、社長は鬼畜な人ではない。社員にノルマを課して「働け!働け!」とムチを振るうタイプではない。初回の記事にも書いたが、社員の給与や賞与はそれなりに高いので、残業代は賞与に加算されていると言われれば、そうなのだろうと頷ける。
なら、なぜ今まで事態を放置していたのか?
答えは簡単だ。単に「めんどくさがり」だったのだ。昭和の初期に創業した会社を、訳あって引き継いだ3代目の現社長。これといったビジョンもなく、イノベーションを起こすこともなく、真面目に会社を存続させてきた人。船の進む先にできるだけ大きな波を当てないよう慎重に舵を取ってきた人だ。
そんな社長に、「きちんとした就業規則が必要です」と何年も前から申し立てていたところだった。それがここにきて一気に加速したのは、やはり政府が提示する「2024年の働き方改革」のお陰だろう。
「完全週休二日制」を推し進めた先には
実を言うと、「完全週休二日制」は、最初から「完全週休二日制」だったわけではない。当初は週一日の休みと、一日の半休(3時間労働)という何だかよく分からない内容だった。
どうも、それまでの就業時間数(7時間20分就労+70分休憩/日)をベースに社労士と相談し、「これなら労基的にOK」な時間数を割り出したようなのだが、それでは労基的にOKでも、採用を考えた時にNGに決まっている。
なので、就業時間を一般的な8時間、休憩時間を60分、週二日の休みを確保し、「完全週休二日制」と求人票に記載できるように提案をした。
ちなみに、週二日の休みには「祝日」も含まれる。私も後から知ったのだが、どういう形にせよ、週に二日の休みが毎週取れる体制であれば、「完全週休二日制」と謳うことができるらしい。
かくして始まった、我が社の「完全週休二日制」。案の定、大きな波があちこちで立ち始めた。
我が社の社員は基本、スタンドアローンで仕事をこなしている。一つの現場に担当者は一人。現場の大小によって助け合うことはあっても、複数人で担当することはまずない。受け持ちの現場が重なれば、それを一人で見なければならない。当然、「休む暇などない!完全週休二日制なんて、絵にかいた餅だ!」となるわけだ。
さて、ここで初心に立ち返ってみる。今なぜ「完全週休二日制」が必要なのか。そこに至るまでの経緯を振り返ると、こうだ。
- 仕事が多すぎて残業をしないとこなせない。週一日の休みは何とか確保できているものの、社員の高齢化も進んでおり、このままでは健康被害が出る恐れもある。
- 社員を増やし、複数担当制とすれば業務を分散でき、休暇も取れるのではないか?
- 増員をするなら、会社の若返りも考慮して若手社員を増やすほうが賢明。
- 若手社員確保のためにも、「完全週休二日制」を掲げたい!
という流れだった。要は、”卵が先か、ニワトリが先か問題”だ。
所詮、人数が揃っていない状況では仕事の分散ができるわけはないし、休暇も取れない。それは最初から分かっていたことだ。会社の思惑は別として、考慮すべきは『何のために、誰のために、今それをやっているのか』ではないだろうか。
他社が「完全週休二日制」を実現できているカラクリ
今回求人広告を出すにあたって、他社の求人も参考にさせていただいた。その際、「完全週休二日制」を実現し、若手社員の採用にも成功、残業も少なくテレワークもできているという、夢のような会社を見つけた。
創業は我が社と同じ昭和初期。社長は3代目の若社長。若い社員や女性をピックアップしているためか、社員紹介の写真を見る限り、平均年齢は我が社より10歳以上は若そうな印象だ。社員のコメントを見ると、「土日休み」も取れているらしい。
なぜ?建設業界においてそんな夢待遇が可能なのか?本当か?
ホームページを隅々まで眺めてみて、あることに気が付いた。受注案件に「公共工事」が多い。いわゆる「入札案件」だ。それで合点がいった。
前記の2024年4月から適用される「建設業の時間外労働の上限規制」を受けて、国土交通省が「週休二日の公共工事」を推し進めているからだ。施主の意向で現場が週休二日になるのなら、請負う側も大手を振って休暇が取得できる。
国土交通省のホームページには、「週休二日応援ツール」なるものまでアップされており、応援サイトには「土日休みに家族と過ごす現場代理人」の写真が並ぶ。
確かに、我が社も公共工事を扱う本社では、比較的休みが取りやすい状況ではあるが、公共工事はあくまで「入札案件」だ。常に落札できるとは限らない。そこに主力を割くのはいかがなものか。
民間工事が主となる我が社においては、国土交通省が各企業やゼネコンに「週休二日工事」の推進を呼びかけてくれるのを待つのが現実的だろう。
結局、我が社は「完全週休二日制」を実現できたのか
賛否両論が飛び交う中で強行された我が社の「完全週休二日制」。開始から半年が経ったが、果たして実現できているのか?
回答は「8割方できている」だ。
実は、私も驚いているのだが、Microsoft Teamsで休日・休暇のシフト表を共有したのが良かったのか、社員同士の助け合いが成功しているのか、たまたま現場が入っていない時期だったのかは分からないが、意外と休みは取れている。代替わりしたばかりの協力会社の職人さんたちも、休める時にはガッツリ休んで、英気を養っているようだ。
ただ、もちろん例外はある。残り2割の管理職の人間だ。
本来ならば、彼らは仕事を振り分ける立場であり、自ら実行部隊にはならないのが原則。だが、我が社では重要な現場は責任ある立場の者がそれを仕切っている。当然、現場の規模は大きく、面倒な内容であることも多い。それを「週休二日になったので」という理由で留守にできるはずもない。
ここはやはり、国土交通省の「建設現場も週休二日にすべし」というお触れに基づいて、各所で尽力していただくしか道はないのか。悩ましいところだ。
建設業こそが、生き残れる業種?
建設業は世界的に見ても深刻な人手不足だ。このままでは50年先、100年先の未来、誰が設計図を形にしてくれるのか、と心配になってしまうほどだ。
でも見方を変えれば、建設業こそが「生き残れる業種」ではないか?とも感じる。
様々な職種がAIに取って代わられる未来、AIに勝てるのは「手に職」+「汎用性」だ。AIに設計図は描けても、それにクライアントの意見を反映させて、いい塩梅にすることはできない。それができるのは、人間だけだ。
望むべきは今、嬉々としてITなどを勉強している若者の志向が建設業にシフトしてくれること。国土交通省の方々には、その辺りへのアプローチもぜひお願いしたいところだ。