オリンピック工事と中間貯蔵施設の求人
今、日本国内で施工されている工事現場のうち、もっとも重要な工事を一つだけ選ぶとしたら、あなたは、どこの現場を挙げますか?
談合疑惑で世間を騒がせているリニア中央新幹線でしょうか?それとも、2020年の東京オリンピックに向けて建設中の、自殺者も出した隈研吾設計の新国立競技場でしょうか?
あるいは、100年に一度と言われている渋谷駅再開発でしょうか?いや、官から民まで個人主義が浸透している日本では、自分のマイホームの建設が一番重要と言う人もいるかもしれません。
しかし、私なら迷わず、福島県の中間貯蔵施設が一番重要な工事だと答えます。
スポーツの祭典も重要ですが、復興を目指す福島では、建設技術者が不足する事態に陥っています。
私も一応、中間貯蔵施設の関係者ですが、除染事業に関しては、さまざまな良からぬ報道があるのも事実です。そのため情報規制も厳しいのですが、伝えなくてはいけないことまで封印してしまうのはいかがなことか。それこそ建設業の悪しき風習に従うことになるのではないでしょうか。
そう思って、中間貯蔵施設での問題について書かせていただきます。マスコミとゼネコンの架け橋になり、中間貯蔵施設の技術者不足を少しでも解消できれば幸いです。
中間貯蔵施設の工事は3種類
中間貯蔵施設とは、福島県内の除染作業で発生した汚染廃棄物などを貯蔵しておく施設です。最終処分するまでの間だけ貯蔵するので、「中間」と言っており、仮置場に置いてある除染土壌等の受け入れ先になります。
地理的には、爆発事故を起こした東京電力福島第一原子力発電所の敷地を取り囲む形で、大熊町と双葉町に整備を進めています。国会周辺に置けと言う人もいますが、もちろん悪い冗談です。
中間貯蔵施設の工事は、大きく分けて次の3種類があります。
- 受入・分別施設の造成、建築工事
- 減容化施設の造成、建築工事
- 除染廃棄物の輸送施工管理
上記2つの造成工事は、いわゆる切土・盛土等の造成工事で、一般土木と何ら変わりません。ただし、タイベックスーツを着る場合もあります。
仕事内容も、一般の土木経験者であれば対応でき、かつ重機も使えるので、土木工事ではそこまで人員を必要としていません。
建築工事についても、ベルトコンベヤーの敷設など、メーカーが施工管理するケースも多いため、建築人員はさほど不足していません。
もっとも人材不足が深刻化しているのは、3つ目の「除染廃棄物の輸送施工管理」です。
中間貯蔵施設の輸送施工管理の求人
環境省によると、中間貯蔵施設へ輸送する予定の除染廃棄物の量は約1400万m3にのぼります。そして、仮置場の数は、仮仮置場や一時保管場所等を含み、全部で321箇所あります。
そのうち、搬出が完了している仮置場は、2018年7月31日時点で102箇所。つまり、残り219箇所の仮置場から、除染土壌等を搬出しなければなりません。
1つの仮置場に対して、1名以上の施工管理者が必要となるため、のべ人数ではありますが、219名の施工管理者が必要になります。また、実際には今も除染作業が一部継続し、仮置場が増えているエリアもあります。
2018年8月28日時点での輸送状況を見ると、まだ8%しか搬入が済んでいません。極度の人手不足です。しかも、中間貯蔵施設の仕事内容は従来の除染作業のように、そこらへんの建設をかじったような素人では務まりません。
除染廃棄物を行方不明にできない中間貯蔵施設の仕事
「除染廃棄物の輸送施工管理」の業務内容は、以下の2工種に大別できます。
- 福島県内全域の仮置場での搬出担当
- 中間貯蔵施設での搬入担当
搬出作業も搬入作業も基本的には同じような作業です。
除染で発生した廃棄物は、1つ1つタグで管理されているので、仮置場からの搬出時には、バーコードで読み込んだ後、施工管理者がiPadでサインします。その後、除染廃棄物を積んだ輸送車が中間貯蔵施設に向けて出発します。
積み荷の際の安全管理は当然の業務ですが、1つの仮置場には環境省、JESCOなど発注者側の管理者が4〜5名常駐しているので、輸送時のトラブルに関する行政側との対応なども仕事になります。発注者側の方針はコロコロ変わり、施工計画もあってないようなものなので大変です。
そして何よりも現場担当者として一番やってはいけないことが、除染廃棄物を行方不明にしてしまうことです。
つい先日も、大手ゼネコンの下請企業が除染廃棄物を指定場所以外に埋め、「放射性物質汚染対処特措法」違反の疑いがあるとして、テレビで報道されていました(2018年8月1日)。この事件は仮置場に搬入する前の、家屋解体に関する報道でしたが、除染廃棄物の搬出搬入に当たっては、管理を徹底しなければなりません。
除染廃棄物の輸送施工管理の求人内容
はっきり言って、「除染廃棄物の輸送施工管理」の業務自体は複雑ではありません。
ただ、あまりにも狭いエリアの中で巨額な金銭が動いており、旧態依然とした建設業界の悪しき慣習や偏見もあるので大変です。
作業員のモラルが低い部分もあります。除染で使用したマスクや軍手を近隣のコンビニに捨てたり、どろどろの長靴のまま、お店に入ってしまったり、作業員さんのモラル啓発も業務のうちです。施工管理者の管理が甘いと、ニュースで報道されるような除染廃棄物の違法投棄にもつながってしまいます。
除染作業の延長で、輸送施工管理もできると思い込んでいる人もいますが、それは大きな間違いです。
発注者への対応も含め、施工管理者は少人数で現場を管理しなければならないため、大型工事の施工管理経験者や、元請けのゼネコン、国土交通省、NEXCO等の出身者が必要です。
中間貯蔵施設の輸送施工管理として働きたいという、気概のある技術者は、日本のどこかにいませんでしょうか?