【土木学会声明】インフラメンテの処方箋を提示。総合診療的な新規資格制度や民活を導入する契約制度へ変革を(施工の神様)

土木学会は6月8日、社会問題化しているインフラの老朽化に対応するメンテナンスの課題を整理し、解決に向けた方策を盛り込んだ声明を発表した。副題は「今、そして未来に欠かせないインフラメンテナンス、直面する困難を乗り越えるための処方箋」とした。

注目すべき点は、国を挙げて取り組むべき方策として、契約制度の抜本的変革、役割を果たす「インフラ総合診療医」の新規資格制度創設を含めた育成体制の確立を提起した。また、土木学会として、インフラメンテナンス分野の表彰制度を新設し、メンテナンスに関わるプロジェクト、技術、制度、そして人に着目して表彰することも明らかにした。

「メンテナンスと銘打って表彰することはこれまで土木学会としてはありませんでした。インフラメンテナンス総合委員会の中に表彰小委員会を設け、伊勢 勝巳氏が小委員長に就任し、2020年度から具体化します。メンテナンスに関わるエンジニアは、構造物の劣化が進むと予想される地域のお医者さん、看護師さんという認識をもとに、個人に陽をあてていきたい」(家田会長(当時))

インフラメンテナンスが近年、注目を浴びた理由は、いうまでもなく2012年の「笹子トンネル天井板落下事故」が大きな転機となった。日本国内では、約70万の道路橋、約1万の道路トンネル、1万4,000を超える係留施設、延長110万kmを超える上下水道など、多くのインフラストックを抱えているが、このストック時代で土木学会は直面する困難を乗り越えるための処方箋を「インフラメンテナンスに関する土木学会声明2021」として発表したのである。

民間活力を挑戦的に取り入れる契約制度に

声明では、「インフラメンテナンスの変革に向けて今後進めるべき具体的方策」を示し、国の方策としては、契約制度の抜本的変革を強調した。

具体的には、5案を示した。

  1. 施設の劣化状況等が不明で仕様が事前に確定できない維持修繕工事に対する技術提案・交渉方式の積極的活用
  2. 標準設計、標準工法を越えた、現場固有の条件をライフサイクルにわたって考慮する設計・積算体系、入札契約方式への転換
  3. 長期性能保証、維持管理付工事発注方式、性能発注による包括民間委託、「民間事業者による提案制度」等を通した民間事業者の創意工夫の活用
  4. 事業協同組合への委託やフレームワーク方式の活用を通じた「地域の守り手」の確保
  5. 維持管理・修繕更新を含んだ DBO (Design, Build, Operation)、コンセッション契約等の官民連携手法(PPP)の活用

この5点の制度設計について、国が主導的に進めるべきで、地方自治体も新制度を挑戦的に導入すべき訴えている。

「これまでストック効果の観点で投資のところまでは手が差し伸べられてこなかった。経済活動の効果を考えれば、地方銀行の投資対象に入れるべきだ」(久田真インフラメンテナンス総合委員会副委員長)

インフラの総合診療医の創設を提案

次の注目点は、「インフラ総合診療医」の役割を果たす新資格の創設だ。

施設管理者や地方自治体等の技術者は、身近なインフラに接する第一線にあり、異常発生の際には、緊急対応や初期対応を行っている。また、地域のインフラの特徴や歴史・履歴を熟知し、専門技術者と連携することで、包括的にインフラの状態を理解して、適切な対策を立案するキーパーソンでもある。

インフラの総合診療医・かかりつけ医としての必要な資質を明らかにし、また、資格によってそれを裏付ける育成体制の確立が急務とした。

この際には、「専門医」として機能する地域の大学や研究機関と連結をはかりつつ、国土交通省の地方整備局等、NEXCO、JR などの当該地域でインフラを管理している規模の大きい事業者から協力を得ることも有効とした。

一方、土木学会は教材の作成、地方インフラを対象とした情報発信・共有の場も設置、具体的には継続的にwebセミナーを開催する方針だ。

「特に実務に着目した実践論文集を作成していきます。なおかつ鋼構造やコンクリートなどの分野ごとのセクショナリズムに陥ることなく、全体を統合した論文集になります。総合委員会の中に実践研究論文編集小委員会を設け、土橋浩氏が小委員長に就任します」(家田)

「2022年3月14日~15日の両日にインフラメンテナンスのシンポジウムを開催する予定です。論文を事前に集めて、そこで査読をし、採択された内容について論文集として発表する。夏前には論文の募集を行いたい。そのタイミングでなんらかの表彰ができないかと検討中です」(岩波光保インフラメンテナンス総合委員会幹事長)

インフラメンテの危機意識を国民と再度共有

家田氏は、今回の声明の狙いについてこのように語った。

「インフラメンテナンスは時には軽視されがちです。メンテナンス業務は社会の裏方として押しやる傾向が社会の中にもあります。笹子トンネルのような崩落事故が発生すれば危機感を抱きますが、もう一度、国民、政府や行政に対して、危機感を共有し、やるべきことをやっていかなければならない。裏方というわけにはいきません。全面に出てもらうことが趣旨です。

土木学会でもインフラメンテナンスの健康診断を実施してきました。2020年からインフラメンテナンス総合委員会という常設委員会を設置し、時の学会長が委員長をつとめる形で統合的に進める動きをしました。これまでに地方で働いている自治体や建設会社のメンテナンス技術者を対象に、無料webセミナーを開催し、”インフラメンテナンスとは?”から始まりました。

今回の声明は、インフラメンテナンスを取り巻く危機感をもう一度国民と共有することと、具体的になにをしなければならないかという政策論、次に土木学会として何を実施するかについて説明することが声明の狙いです」

以上の発言から、声明を発表した狙いが読み取れるだろう。危機意識を国民と再度共有することと、時として裏方に位置付けられているインフラメンテナンスを表舞台へと全面に出すことにある。

続いて、岩波氏が声明の内容を、中村光インフラ健康小委員会委員長が「インフラの健康診断の現状」についてそれぞれ説明があった

「その地域での環境社会条件がインフラの劣化にどう影響を与えたかの要因が大きいのではないか。そもそも劣化しやすい場所にインフラがあると見ても良いのではないか。劣化しやすい地域ではより注意して維持管理につとめ、国土交通省も全国同様な対応ではなく、劣化しやすい地域をより応援するような施策も必要だ。また、地域住民にもそのことをしっかりと伝えて、地域からのサポートが得られることも大切である」(中村)

土木学会は2016年から、「インフラ健康診断」を公表しているが、特に道路橋にフォーカスし、都道府県から市町村単位までのマップを作成中。これを今後、マップも含めて正確な内容を発表し、合わせて土木学会としてメッセージを発信する考えだ。

ただ、インフラメンテナンスでは大きな障害がある。人口減少・少子高齢化が続く日本では、地方の衰退が継続しているからだ。国内には道路橋約70万橋存在するが、うち市町村が管理する橋梁は約50万橋。そこでインフラ総合診療医の役割はかなり重要である反面、担い手に課題があるのではないか。この点について質問した。

「市町村の技術者は減少傾向にある。だから、インフラ総合診療医についても官庁が担当する発想ではだめだと思う。そこでインフラメンテナンスを産業化し、技術のある人が面倒を見るという視点であるべき。メンテナンスについても民間のチカラを活用し、産業医化していくことが望ましい。これから必要なことはコンクリートや鋼の分野を超えたメンテナンスの総合診療医である」(家田)

「地方に行くと担い手が不足している傾向が見受けられます。そこで、”ヒト・モノ・財源”も欠ける地域もあります。ですから、日本全国おしなべて均等に支援をすることではなく、重点的に支援をしなければならない地域が、恐らくキモになっていきます。

さらに何かインフラで課題があれば地域ごとに、相談やアドバイスできるような技術者がインフラ総合診療医のイメージの一つ。従来からあるコンクリート診断士などの既設の有資格者が有力メンバーである」(久田)

インフラメンテナンスは「予防保全が基本」

最後に、谷口博昭氏は6月11日から土木学会会長・総合委員会委員長に就くが、インフラメンテナンス等についてこう語った。同氏は、東京大学工学部土木工学科卒後、建設省(現・国土交通省)に入省、近畿地方整備局、道路局長を経て事務次官に就任。現在、一般財団法人建設業技術者センターの理事長に就任している。

「予防保全が基本だと思います。概念としては理解されていますが、浸透しにくい考え方です。理由は、トータル費用としては予防保全の方が安く合理的であることが分かっていますが、当面の予算でやりくりができないことが問題なんですね。

そこを政府の理解を得られるように一生懸命やっていく。限られた財源の中で構造物・地域の中で優先順位をつけてメンテナンスを講じていくことが必要になっていくでしょう。

次に費用のほかに担い手です。最近ではIT技術が進歩しておりますので、構造物の遠隔診療も可能になるのではないか。そうした技術を活用することも大切です。

また、先ほどから議論にあります民間活力も重要であり、私は「民助」という言葉を使いたい。PFIを超えて、どういうカタチの民間活力が望ましいかについてやっていくことを考えていきたい。

こうした問題のほかに広域連携ネットワークを組み合わせて、トータル的に土木やインフラはどうあるべきかについて大きな転換期に差し掛かってきていると思います。生活経済社会のあるべき姿に合わせて、国民との対話を深め、全体的な俯瞰を提示し、議論していきたい」

技術者の多能工は実現していくか?

今回、土木学会のインフラメンテナンスに関する声明は国民とともに危機感を共有したいという表れでもあった。インフラで何か大きな事故が発生するとマスコミもインフラの危機を訴えるが、遺憾ながらそれは一過性のものと言える

これからの未来社会を考える際、少子高齢化により、限界集落も次々と増え、どう俯瞰的・鳥瞰的な施策を施していくかは悩ましいところだ。

そんな中、重要な点はやはり、政策とともに技術者個人の役割は重要であろう。最も注目した点は、土木学会が「インフラ総合診療医」の新規資格の創設について言及したことだ。

技術者が不足していく中で、「自分はコンクリートが専門だからスチールについてはまったくわからない」ということよりも、「コンクリートもスチールも分かる」ように技術者の多能工化が求められるのではないだろうか。

(施工の神様より)

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