【同族経営の末路】都内老舗ゼネコン・奥井建設の破綻。ずさんな工事管理と放漫経営

「倒産するはずがない」ゼネコンが破綻した衝撃

奥井建設株式会社(本社・東京都足立区梅田2-9-4、奥井広大社長)は3月23日、東京地裁に破産を申請し同日、破産開始決定を受けた。

奥井建設は、東日本大震災以降は東北の復興工事需要など積極的に取り込み業績を拡大、2017年10月期は完工高55億2,660万円をあげ、その後も公共工事を中心に受注を獲得。2019年9月期は完工高54億7,100万円を計上していた。

官公庁の公共事業に強みを持ち、都内では老舗名門ゼネコンとして知名度は高く、都内ゼネコンからは「最近ではこのくらいの規模感のゼネコンが倒産するのは珍しい」との声も上がった。

しかし、2018年1月、東京都から受注した「駒沢オリンピック公園総合運動場硬式野球場」の増築・改修工事でずさんな工事管理が発覚。2019年秋頃、同工事関連の下請先に対する支払いを一時的にストップする事態に陥るなど、下請業者への支払遅延が発生。また、複数の取引先から請負代金請求訴訟を起こされるなどしたことで資金面に関する信用が低下していた。

このため運用の徹底を図り、再発防止に努めたものの、受注減少により資金繰りが悪化。年商の半分におよぶ金融機関からの借入金の負担も重く、事業継続が困難となり、破綻に至った。負債総額は約27億円だが、今後変動する可能性がある。

一方、取引先の銀行筋からは、「丁寧に経営をしていれば、決して倒産することのなかったゼネコン。その意味で放漫経営がたたった事例」とのコメントも聞かれた。今回、奥井建設の内部資料を入手、倒産の真相を追った。

※奥井建設は同族会社のため、関係者も奥井姓が多い。中には、資料を読んでいくと親族同士の争いではと思われるケースも多々見られた。そのため、今回の登場人物は、故人と現代表取締役社長以外はすべてイニシャルでの記名とする。

奥井建設 破産当日の取締役会ドキュメント

まず、破産申請当日の取締役会を資料から再現してみよう。取締役会のメンバーは8名、うち奥井姓は4名、1人は欠席していたため、7名が参加していた。

倒産の予兆の一つに、代表取締役社長の交代が頻繁に行われることがある。与信調査では十分に注意すべき点だ。奥井建設でも、株主でもあったY氏が2015年6月から代表取締役社長をつとめていたが、2019年9月に突然辞任したことで波紋が広がった。

破産申請当日は、奥井家の人物ではなく、経理や財政に強いI氏が取締役会の議長をつとめた。I氏からは、率直に「3月末分の手形決済不能の見込みのため、破産申し立てしたい」旨の説明があった。7名のうち6名が議長提案に賛成し、破産の申し立てが決まった。

奥井建設 本社に貼られた破産告示書

次の議題は、奥井家のM氏の代表取締役の解任であった。M氏は2004年2月から代表取締役社長、その後代表取締役会長を歴任し、長く会社の経営に携わるだけではなく、株の大部分を保有する大株主でもあった。そのため、諸般の事情で、破産手続きを実行した場合、M氏が代表取締役の地位に留まれば、重大な障害となるため、その職の解任を諮ったところ、賛成6名で成立した。

奥井建設が施工した集合住宅

さらなる議題は、大政奉還である。I氏は奥井家の関係者から乞われて代表取締役社長に就任した。だが、最後の幕引きについては、やはり奥井家に戻すことが相当であると判断し、I氏が代表取締役常務、代表取締役常務であった奥井広大氏が最後の代表取締役社長にそれぞれ就任した。恐らく、会社の葬式はこの2人によって行われることだろう。

倒産や破産取材をすると、従業員も淡々と受け入れることが多い。しかも、奥井建設は50名の規模であるため、会社の内実についてはほぼ共有しており、問題はいつまで持つかという点に関心が寄せられていた。

奥井広大氏とM氏は、実の親子関係であるが、M氏の代表取締役解任に積極的に動いたのも奥井広大氏であった。その理由についてもさらに追った。

アイディアマン社長の暴走

建設会社は同族会社が多い。同族のメリット、デメリットについては、都内のある建設会社の社長はこのように解説する。

「同族会社は社内での団結力が強く。いい時は、いい。代表が経営判断を間違えず、本業に専念すれば決して悪いようにはならない。しかも、奥井建設は公共事業が中心で安定していたから。悪くない会社だったと思う。それが破産に至ったのも別の要因があったのではないか」

その”別の要因”とは一体どのようなものであったか。それを理解するには、奥井建設とともに奥井家の歴史を紐解く必要がある。

奥井建設は、奥井柳三氏が戦後間もない時期である1947年4月に建築工事業を個人創業したことに端を発しており、1955年1月に法人化された。その後、奥井善太郎氏が代表取締役に就任し、高度成長時代とともに建設業が伸長したことは周知の通りだが、奥井建設も都営住宅、学校建築、一般住宅の新築・改築・耐震工事などを広く請け負っていた。

奥井建設が施工した住宅

しかし、同氏が死去し、一時的に善太郎氏の妻が代表取締役に就任するも、辞任。甥のM氏が代表取締役に就任し、長く舵取りを行っていた。

「代表就任した頃、建設景気は不況が続いていたことで運が悪かったと思う。しかし、当初は業容も拡大していたと聞いている」(前述の都内建設会社)

M氏は建設業界での経営で驚くべき奇手を打ち出したことでも知られている。M氏の友人が東日本大震災の被災地である岩手県山田町出身であったこともあり、被災地の復興事業に関わるため、国土交通大臣許可を取得し、復興事業に取り組んできた。一時的には、受注を有利にするため、登記上の本社を東北に置き、東京・東北の2本社制を採用するなどのアイディアマンでもあった。

とはいえ、東北の復興も一段落していることから、2018年1月に実質本社が置かれている東京江東区に移転し、東北本社も廃止し、東北の拠点から撤退することになった。その後、東京都内の受注に注力する方針を示したばかりの倒産であった。

そのM氏だが、顔が広いことでもよく知られていた。奥井建設だけではなく、特定非営利活動法人国際科学技術協議会清真会館を設立し、代表理事に就任。ほかM氏は一級建築士の資格を取得するほか、2013年3月には働きながら通学していた慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科を修了、現在は公益財団法人OK-U&I財団の理事長に就任しており、趣味の空手人脈もある。

同時に建設会社の経営よりも、芸能関係やビジネス、空手等のスポーツ、政治家の支援活動に傾注するようになり、奥井建設から資金が次々と流出することになった。さらに、工事全体の管理も緩み、赤字工事も頻発した。

建設業界にとっては政治家との付き合いは必要であるとともに一方、鬼門であるため、「ほどほどにすべき」と指摘するのは都内の建設会社の社員Aだ。

政治家との関係が深まると恐ろしいほど現金が流出する実体験を語る。というのも、政治資金パーティー券の開催により、政治家の秘書は、1枚2万円の政治資金パーティー券を各会社・団体に売り込むことはよく知られているが、一度付き合いができると「10枚くらいお願いしますよ」と懇願されてもむげに断れなくなる。

さらに会社の社員も選挙活動に使われるため、社員の疲労度も高まると力説する。メリットがあればまだ良いが、パーティー券を購入しても得られるメリットは少ないというのがこのA氏の言葉だ。政治家との付き合いを深めると本業が疎かになる怖さがあるという。

会社と自分の財布の区別がつかなくなる恐怖

さらに、資金に余裕があれば別だが、スポーツなどのタニマチになれば、これも同様、会社から資金が流出する。

一昔前では、相撲取りのタニマチになることが花形経営者の証と言われていた。だが、タニマチになったところで、その人物が工事を発注するわけでもない。A氏は、本業に身を入れ、儲かったら社員に還元すべきと力説する。

同族会社の欠点は、会社と自分の財布の区別がつかなくなることだ。多くは書けないが、奥井建設でも3年間で最低でも約3億4,000万円の私的流用が行われ、会社から次々と現金がなくなる事態に陥っていたという。そのため、書面上は別として長期間赤字体質が続き、金融機関の借り入れによって凌いでいたとも考えられる。

奥井広大氏がIT会社を経て、奥井建設に入社し、取締役に就任したのは2017年11月であった。入社後、経営の合理化、経費の削減、IT化、ペーパーレス化にも着手。I氏とともに、財政健全化につとめることを試みたが、想定以上に財政は傷んでいたという。2020年3月末には必要な決算資金約4億5,000万円の支払いの目途を立てることができず破産に至った。

倒産には様々な教訓がある。今回は、会社はやはり本業に専念し、丁寧な経営を心掛けることが一番であるということだ。政治家、スポーツ選手、芸能人等のタニマチになると、経営者はどうも自分が偉くなると錯覚するらしい。政治家やテレビなどで身近な芸能人等に頭を下げられると、自分が格上の人間になったと思いこんでしまうということだ。

すると、会社や自分の財布関係なく、資金を流出させるようになる。同族会社は、大株主が経営者であるケースが多いため、意思決定を早急に実施できるメリットもあるが、暴走した時に止める人間がいないという欠点も持つ。

本来、暴走をストップさせるためには、取締役会が健全に機能することが大事であるが、経営者トップの意思がイコール会社の意思という体制となると、暴走は止まらず、倒産したケースは多々ある。世間的には、取締役はトップに諫言すべきではないかという見方もあるが、同族会社でエキセントリックなトップに対して諫言することはかなり困難であることは容易に想像がつく。

会社経営者は、趣味や政治家との付き合いはほどほどにすべし、という教訓を示した事例となった。

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