「絶滅した恐怖の職人芸」1000℃の鉄の塊を投げて、それを受け取るカシメ屋(施工の神様)

リベットを打つカシメ屋

首都高速道路の第1期工事のほとんどの橋や鋼製橋脚の現場継手には、リベットが使われています。

このリベットを打つ作業者を「カシメ屋」と呼びます。

「働き方改革」や「i-Construction」などというようなことが言われる、はるか以前の話です。

今回は、前回の記事よりも詳しく「カシメ屋」の話をしましょう。

「カシメ屋」の名人芸

カシメ屋の親方ないし棒心は、ほとんどの場合、焼き手(「焼き鋲」という)を担当する大ベテランです。継手個所の作業順序を頭の中で勘案しながら、接合する板厚に合わせて、長さの異なるリベットを順番に焼いてゆき、焼けたリベットの色で適温を判断。次の作業に必要な1個を取り上げ、受け手(「受け鋲」という)に向けて投げるのです。

その投球距離は数十mにもなります。しかも、受け手がこちらと同じ高さに居れば良いのですが、ホゾを置いた場所と継手個所の関係で、水平よりも上向きになることが多いのです。

(※編集部注:ここまで読んで意味が分からない人は、前回の記事を一読してから、続きをお読みください。)

鉄骨ではほとんどの場合、上向きに投げることになります。ある焼き手などは、「5階までなら投げてやる」とも言います。あるいは「受け鋲」が漏斗を火箸で叩いて“カンカラカン”と音さえ立ててくれれば、落下防止網などが掛っていて「受け手の姿が見えなくても、漏斗に入れてやる」と豪語する人もいました。言葉だけで無しに、本当にそういう名人芸を発揮する人もいました。

普通は上向きに投げるのが基本で、下向きでは、コントロールがやりにくくて危険だということでした。

古い人の話を聞くと、戦時中の造船所では、増産に次ぐ増産で、昼夜の別なく艦船を造っており、艦体を接合するために何組ものカシメ屋が作業していたそうです。

夜になると、これら多くの「焼き鋲」が投げる焼けたリベットの光の筋が、花火を見るように綺麗だったと言っていました。

受け鋲も大変

一方、受け手の方も熟練が必要で、いったん“カンカラカン”と音を出せば、漏斗はその位置から動かしてはいけないのです。

上記のように、焼き手はその音を頼りに投げるからです。飛んできた焼けたリベットを、ビシッと漏斗で受け、次の瞬間に飛んできたリベットの慣性に逆らわないように緩衝させながら、漏斗を上に向けないといけません。そうでないとこぼれてしまうからです。

受け手の横に控える「鋲挿し」は、鍛冶屋が作業した仮締めボルトやドリフトピンをばらしつつ、熱いリベットを火箸で掴んで、表面のスケールを落とし、接合すべき穴に押し込みます。

打ち込みは力技ですから、基本的に下向きで作業します。そのため、受け手はリベットを接合穴の下から上へ押し込むことになります。

「受け鋲」は本当に度胸が必要です。何せ1000℃に近い鉄の塊が飛んでくるのですから、焼き鋲と受け鋲の呼吸が合っていないと、作業がはかどらず、また危険な目に合うことになります。正に阿吽の呼吸です。

当て盤も苦労多し

次の作業は当て盤の出番です。当て盤は,あらかじめ形成されているリベット頭に向けてスナップを当て、当て盤機械に圧縮空気を入れてピストンを作動させ「ドン」と固定させます。当て盤機は、鉄砲に比べれば小型ですが、リベット頭の位置で反力が取れるように、鋼管や棒鋼を頭部にかませて突っ張る位置を調整します。

橋の場合、上フランジの継手は、下フランジに反力を取れますが、ウェブ(腹板)の継手は反力を取るところがないので、2~3インチの鋼管の先端10cmくらいのところを、ゆるいZ字状に曲げて、その先にスナップをかまします。そして鋼管の曲がりの上部付近から太いロープを出して、その先端にフックをつけます。このフックを手ごろな位置の、まだ埋まっていないリベット穴に引っ掛けて、てこの原理でリベット頭を押さえます。この道具を「タイワン」といいます。

タイワンの登場する場面は多くあり、このタイワンを使っての作業は、なかなか熟練のいるもので、手だけでなく足も使い、まるで空中サーカスをしているような塩梅でした。

なぜ「タイワン」というのか職人に聞いたところ、台湾人が発明したから「タイワン」だということでした。カシメ屋は1000℃にもなる高温の物を扱うので、寒い国の日本人には不向きだということで、昔は暑い国出身の台湾人が多かったそうです。その他にも、工夫をこらした色々な道具を持っていました。

1か所の継手をカシメてゆくと、その継手の周辺は熱を伝えて熱くなります。通常の鈑桁なら、オープンエアなので熱を気にすることはないのですが、これが箱桁になると、かなり悲惨なことになります。

鉄砲は寸法も大きく取り回しが不自由なので、当然、継手の外側から打つため、当て盤は、箱桁の内側から当てなければならないのです。

そこで当て盤は、まず耳栓をし、両肩には作業服の上から小型の綿入り布団を括り付けます。そうしないと肩に火傷を負うからです。1か所の継手作業が終わって、マンホールから出てきた当て盤の肩の座布団からは煙が出ており、しばらくは聾状態でした。

これを見た時には本当に驚きました。リベッティングをすれば継手周辺が熱くなると頭ではわかっていましたが、現実には、分厚い布団が焼き焦げてしまうほどの熱気の中で作業していたのです!

打ち手(撃鋲)

打ち手は、本当に力仕事です。重い鉄砲を持ち、エアホースを引きずりながら、幅の狭いフランジの上に立って作業にあたります。力の入れ方を間違えると、リベット頭が傾いて偏心したり、場合によっては、鉄砲の反力で体が飛ばされ、墜落事故を起こす可能性もあります。打ち終わって、スナップを上げるまで、リベット頭の状態は見えないので、これも熟練の腕が必要です。

さらに、鉄骨のように梁部材の縦の寸法が小さいI型の下フランジの継手のような場合には、上面からは鉄砲が入らないので、上から当て盤で押さえ、打ち手はフランジの下面から打つ、つまり「かち上げ」作業になり、これまた渾身の力技になります。

エアツールができる以前は、一人がスナップを押さえ、左右から2人がかりで、大ハンマーを揮って打ち込んでいたそうです。この作業を、しかも高い足場の上で1日中やるわけですから、聞くだけでも重労働感が伝わってきます。

昔の人は本当に偉かった。「働き方改革」などというようなことが言われる、はるか昔の話でした。

 

施工の神様より

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