積算通りの工法と機械で施工せよ!
最近、私は愕然としました。公共工事の現場で、あの「変な風習」が復活してきたのです…。
発注者の言い分はこうです。
「積算で計上している機械が現場での施工に使われていない!積算と同じ機械を持って来て施工せよ!」
「施工方法、積算歩掛と違う!積算通りの工法で施工せよ!」
…こんな時、受注者の皆さんは、どう対応していますか?
おそらく、発注者の言われるとおりに変更することが多いのではないでしょうか?
もしくは、写真記録を残すためだけに、わざわざ積算に合わせた機械を調達して、 積算と同様の工法を実施しているフリをする…。
まったく意味のない、意味不明な行為ですが、発注者の言いなりにならざるをえない実体が現場にはあります。
積算の「標準歩掛」と現場施工
そもそも積算は、必要な目的物を構築するための「標準歩掛」で計算されています。
あくまでも「標準」なので、標準歩掛よりも安く造るために、自社の技術力で効率化を図っても何ら問題ありません。逆に不得意な分野では、標準歩掛より多少高くなってしまっても、受注者の都合ですから問題ないわけです。
たとえば、道路を造る場合、土工工事は苦手でコストがかかるけど、舗装工事には特筆した技術を持っているから、トータルで考えれば利益が出る ――これも問題ないので、発注者からとやかく言われる必要はありません。
用いる工法についても所詮、一般的な会社が施工する工法を「標準」と考え、それに基づいて積算しているだけです。なので、自社が開発した工法で施工しても構いません。
積算と現場施工に乖離が生じるのは当たり前。でなければ、技術の進歩はあり得ません。
会計検査で回答できない発注者と積算の標準歩掛
それなのに、なぜ発注者は「積算で計上している機械が、現場での施工に使われていない!積算と同じ機械を持って来て施工せよ!」と言うのか?
その理由は単純明快で、「会計検査対応」のため、です。すなわち、積算と違う施工を現場でされると、発注者が検査時に回答できないから、なのです。
そもそも、積算の根本を分かっていない「技術力のない発注者」がなんと多いことか!
- 標準歩掛の意味を知らない!
- どのようにして歩掛が出来上がっているのかを知らない!
- 手計算で工事費を積算できるスキルがない!
今では、積算ソフトにそれなりの数値を入力すれば金額は出ますが、その積算が正しいか否かの判断ができる発注者は何名いるでしょうか?
個人的な感覚ですが、100人中5人くらいでしょう…。
積算と現場施工は違う
昔は、発注者自身が積算システムを構築している時代がありました。外部の人間(委託会社等)ではなく、発注者が自ら積算システムを構築・検討し、入力ミスや違算を徹底的にチェックして、工事費を積算していたのです。
つまり、歩掛の内容を熟知したプロフェッショナル集団が発注者側にいたわけで、こうしたメンバーは、標準歩掛の内容を理解し、「積算と現場施工は違って当たり前」だということを理解していました。
しかし、積算のプロがどんどん定年退職した今、時代の流れで外注先の委託会社などが積算システムを構築しはじめたことで、積算の根本を知る発注者がいなくなってきました。
もはや「標準歩掛」うんぬん以前に、任意仮設と指定仮設の区別も知らない発注者が出現している状況です。
積算の根幹が分かっていない発注者が蔓延しているため、今後も「受注者泣かせ」の時代が継続するものと思われます。
受注者は今後ますます発注者に反論できるスキルが求められるでしょう。
工事費積算と建設技術者のプライド
今は、電卓すら叩かない時代になりました。数量を入力すれば積算できるし、図面はCADで作成できます。
しかし、こうした便利なシステムに依存しないスキルを会得することも建設技術者は大切です。
システムは必ず正しい答えを出すとは限りません。絶対エラーが生じるので、そのエラーを嗅ぎつける技量を持つべきです。
- 手計算で工事費積算できますか?
- 図面を手書きで作成できますか?
- プラニメーターを回せますか?
…こうした最低限のスキルを身につけることは、建設技術者としてのプライドに関わるのではないでしょうか。