現場に配属される際、工事の請負金額や施工量などを考慮して人員配置が行われます。それが時として、主任技術者が20代、担当技術者が40代という立場が逆転する現場もあると思います。
私が過去に担当した下請の空港工事の現場が、まさにそうでした。
一番年下の私が主任技術者(現場代理人)に
下請工事、かつ過去に私が同じような現場を経験したことがあるという理由から、私が主任技術者(現場代理人)になることが社内会議で決定しました。
そこから、人員をどれだけ投入するか、誰を配置するかなど決めるわけですが、私の意見はそっちのけで、会社側の意見で「この人とこの人が今空いているから」という流れで話が進んでいきました。
結果、主任技術者の私(当時26歳)と、ベテラン社員数名(当時30代2名、40代1名、60代1名)が配属されることになりました。
この時はまだ、あんなにクセの強い社員がいることは知りませんでした。
“突然の捨て台詞” 衝撃の初対面
私は誰よりも先に現場事務所に入り、机・椅子・印刷機・光回線引き込みなどの各種設備を整えました。一通りの作業を終え、あとは顔合わせのため、ベテラン社員が現場事務所に来るのを待ちます。
最初に現場に来たのが40代の人でした。すると、誰もいないことをいいことに、大声でこんなことを言い出しました。
「なんで俺が下請工事の担当技術者で、施工管理(若手がする仕事)をしないといけないのか。前の現場では、元請で数十億円の監理技術者としてお金の管理ぐらいしかしてなかった」
おそらく私に対して文句を言いたかったのでしょう。悔しさもありましたが、普段からおどおどしているタイプなので、委縮して何も言えませんでした。
その直後、30代の2人と60代の1人も来たため、顔合わせを開始。挨拶もほどほどに、着工前にどのような流れで元請に挨拶するか、施工の流れなどを一通り説明して初対面の日を終えました。
昼間、夜間の工事開始
私が主任技術者(現場代理人)である以上、人員配置と原価管理を考えなくてはなりません。
40代のクセの強い人と60代の人に昼間作業を担当してもらい、30代の2人が夜間作業担当、私が総括指揮者として全体を見ることにしました。
昼間作業
夜間作業が始まるまでには、単体のPPC版の搬入と接合作業、PC鋼棒の緊張、PCグラウトが必要です。PC鋼棒の緊張までは難しくない作業なので、特に気にはしていなかったのですが、PCグラウト作業が問題でした。
通常、PCグラウト作業をする前に、袋詰めセメントの計量をして単位水量を決めるのですが、たまたまその作業をするのがクセの強い40代の人でした。
現場を見に行くと、計量器・黒板を書いて、茫然と立っています。
私が「どうかされましたか」と聞くと、「袋詰めセメントの計量(管理方法)が分からない」と言うので、一度事務所に戻り、テキストと袋詰めセメントの計量記録表を紙に打ち出して持っていき、40代の人と一緒に測ることにしました。
これで作業自体はミスなく進めることができたのですが、40代の人は一気に不機嫌になりました。どうやら、自分より年下に教わることがものすごく気に食わなかったみたいです。
「私をバカにしているのか」とまで言われる始末。このクセの強い人とは一生分かり合えないだろうな、とこの時に悟りました。
夜間作業での不具合
夜間作業では、既設のNC版を大型のオールテレーンで吊上げ、3枚に接合したPPC版を敷設していきます。
敷設するにあたり、灯器(誘導灯)があるPPC版が何枚かあり、そのうちの一枚が設置する場所を間違えていることに気付きました。
発見したきっかけは、協力会社からの指摘でした。「PPC版とPPC版を繋ぐダウエルバー(スリップバー)が、いくら試しても移動しない」と言うのです。
私含め、夜間の担当者がすぐに確認を行いました。ダウエルバーが移動しないことを確認し、夜間の担当者と図面を確認すると、PPC版の配置間違いがあることに気付きました。
すぐに作業を中止。飛行機が走れる状態に現場を戻して、急いで原因を探します。
原因追及
敷設したPPC版の配置間違いが他にもないかをすぐに全て確認し、配置間違いが2枚あることをつきとめました。
そのことを元請けに謝罪し、再発防止策を提出しました。その夜はPCC版の配置移動をして、どうにか事なきを得ました。
不具合が起こった原因
なぜ不具合が起こったのか、それはすぐに分かりました。
昼間の人たちが、敷設するPPC版の配列の番号をPPC版に印字をして暗くても分かるように工夫をしていたのですが、その印字が2枚だけ逆になっていたことが原因でした。
そして、その配列番号を間違えたのが、クセの強い40代の人でした。
自分のミスで夜間作業が中止になったと知った日の夜、やけ酒をしたみたいで、翌朝パンパンにむくんだ顔、酒が残っている状態で出勤してきました。
現場の総指揮として、「酒臭い状態で出勤するのはやめてください!」と言いたかったのですが、結局言えずじまいでした。
クセの強いベテラン社員からの謝罪
現場は竣工に近づき、40代の人が監理技術者としての次の現場が決まったため、送別会をすることになりました。
最後ということもあり、その人も心残りがあったようで、みんなの前でこんなことを言っていました。
「今回、私のプライドが邪魔をして、周りに迷惑をかけてしまった。経験したことがないことを経験して、新人時代を思い出した。新人時代は何事も貪欲に吸収していたが、経験と年を重ねるごとに初心を忘れてしまっていた。今回、20代の主任技術者(現場代理人)の下で、私がなんでそんな若造の配下で働かないといけないんだと思っていたが、今回のミスで初心を忘れていたことに気づかされた。今後は初心を忘れないようにしたいと思います。」
そう話すと、酒をガバガバと浴びるほど飲んでベロベロになり、最後は制御不能で”あしたのジョーの試合後”のような状態になっていました(笑)。
――建設現場は、様々な年代の人、役割の人がいます。
今回の私のように、年上の方に業務を指示したり、管理する立場になった時、誰しもが気まずい思いをすると思います。正直やりにくいです。
同じ状況になったことがある方もたくさんいると思いますが、先輩や年上の方より自分が上の立場になった時、みなさんは現場でどのように対応されていますか。現場が円滑・円満に進む方法があれば、ぜひ教えていただきたいです。